カナダ政治の転換
2025年1月6日、カナダ国のジャスティン・トルドー首相が辞任を表明した。2015年から約9年間続いた彼の政権は、経済的困窮や党内分裂という課題に直面し、最終的に支持率低迷、物価高、党内対立など複合的な要因が積み重なった末の決断となった。トルドー氏自身、「次の選挙でのベストの選択肢にはなれない」と述べ、「真の選択をする権利が国民にある」として、自らの限界を認める形での決断となった。
今回の事態は唐突と受け止められているが、トルドー氏の個人支持率は過去最低の22%にまで落ち込み、政権運営の継続が困難な状況に追い込まれていた。与党・自由党の支持率も16%と過去最低を記録し、最大野党である保守党の45%との差は29ポイントにまで広がっていた。この著しい支持率の低下は、経済政策の失敗や党内対立など、複合的な要因によってもたらされた。すでに行き詰まりにあったと見てよいだろう。
ここ数年、カナダ国民の生活は物価高騰によって大きな試練を迎えていた。住宅価格は上昇し、特に大都市圏では若年層の住宅購入が困難な状況となっている。多くの家庭の生活が物価高により圧迫され、これに対する政府の対応の遅れが国民の不満を増幅させた。政府は物価高対策を試みたものの、その効果は限定的であり、国民の不満は次第に政権への不信感として表れていった。都市部における住宅価格の高騰は、若い世代の将来への不安を増大させる要因となっていた。こうした経済問題への対応の遅れは、政権の支持率低下に直接的な影響を与えていた。
トルドー首相の辞任は、自由党内の対立激化を象徴する出来事でもある。昨年12月16日の副首相兼財務相フリーランド氏が、米国の関税政策への対応を巡る対立から辞任したことは、政権にとって大きな打撃となっていた。ここから党内での政策決定の遅延が続き、政権の求心力は大きく低下した。さらに深刻なのは、議会の機能停止状態である。トルドー首相自身が「議会が数カ月間機能停止状態に陥っている」と指摘するなど、政策実行の面でも深刻な停滞が生じている。この状況を受けて、議会は2025年3月24日まで休会となることが決定された。ただし、この間も政府の基本的な機能は維持される予定である。
2025年の総選挙は、遅くとも10月20日までに実施される必要がある。トルドー首相は、次期党首が選出されるまで職務を継続する意向を示しているが、すでに「次の選挙でのベストの選択肢にはなれない」と認めており、自由党は新たな指導者の下で選挙に臨むことになる。が、現在の支持率を見る限り、与党・自由党の状況は極めて厳しい。保守党との支持率差は29ポイントに達しており、この差を縮めるためには、新たな党首の下での抜本的な政策転換と党内改革が不可欠となるだろう。
この政治的転換期において、カナダは複数の重要な課題に直面している。物価高騰への対応、住宅問題の解決、そして党内改革という内政課題に加え、次期選挙に向けた政策の再構築が求められている。与党・自由党にとって、新たなリーダーシップの下での支持率回復は喫緊の課題となっているが、そもそもカナダの現代政治において、旧来型のリーダーシップは可能なのだろうか。誰がやっても不可能という本質が露呈したとき、カナダという国家自体がどうなるのだろうか。カナダは一州として米国に併合したほうがいいというトランプ次期大統領の冗談が冗談でもなくなる可能性がないとも言えない。
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