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2024.12.01

ウクライナ軍の脱走問題

 11月29日付けのAP通信報道(参照)によると、ロシアとの戦争を続けるウクライナ軍において、最前線での兵力不足が深刻な問題となっているとのことだ。主要因の一つには、脱走の急増が挙げられる。これにより、ウクライナの戦闘計画遂行が著しく阻害されている。兵士、弁護士、そして軍関係者の証言に基づくAP通信の報道は、この問題が戦争3年目に入り、さらに深刻化していることを伝えている。

増加する脱走兵
 AP通信の報道によれば、2022年の開戦以来、10万人以上の兵士が脱走関連の罪で起訴されているとされている。注目すべきことは、2023年以降のその急激な増加で、脱走者数の約半分が過去1年間に発生している。この急増は、ウクライナ政府による関係者も認める「失敗に終わった」とされる積極的な動員政策と関連している。政府当局者や軍司令官の証言によれば、ウクライナ軍は人員確保のために18歳以上の若者の徴兵を推進したが、その結果、経験不足の兵士たちが多く前線に送り込まれていることになった。また、バイデン政権がウクライナに対し、さらなる徴兵を行うよう圧力をかけており、18歳からの徴兵を推奨している点も、動員政策の問題を複雑化させている。
 脱走者の多くは、医療休暇後に復帰しない者や、戦闘の激しさに耐えられず部隊を離れる者たちである。AP通信は、脱走兵へのインタビューも行っており、戦場で仲間の死を目の当たりにした恐怖、戦争の長期化による希望喪失、そして不十分な心理的支援といった要因が脱走の背景にあるとしている。ある脱走兵は「無期限の兵役は心理的に監獄と同じだ」と証言しており、この証言は多くの兵士が抱える精神的負担の大きさを物語っている。

ヴフレダル陥落の教訓
 AP通信は、脱走が前線の防衛能力に与える直接的な影響についても報じている。特に、ウクライナが2年間守り続けてきた要衝ヴフレダルの10月陥落は、脱走が大きな要因の一つだと複数の軍関係者が語っている。第72旅団の現地指揮官によると、一部部隊の防衛線放棄が敵軍の突破を招き、多くの兵士が孤立し犠牲となった。その終盤には、一つの中隊に定員120名が必要なところ、戦死や脱走により10名程度しか残っておらず、事実上の壊滅状態に陥っていた。
 脱走によって防衛線が崩壊し、他の部隊が孤立して敵に突破される場面が複数あったことも報告されている。兵士たちは弾薬不足の中で敵の砲撃に晒され、援護がない状況で前進を命じられるなど、士気が低下する要因が多数存在していたようだ。
 このように最前線の維持が困難となることで、キエフの戦略的な計画が次々と頓挫している。しかし、現場の指揮官たちは兵士たちの疲弊も理解しており、現状を非難するのではなく、精神的・肉体的な負担の限界を認めている。第72旅団の指揮官は「この段階では、誰も責めることはできない。みんな本当に疲れ切っているのだ」と語り、兵士たちへの共感を示している。

法的措置と限界
 ウクライナにおける脱走者に対する法的措置についてもAP通信は報じている。検察や軍関係者は、可能な限り脱走兵を説得して復帰を促し、それが失敗した場合にのみ起訴する方針を取っているが、復帰後も再び脱走するケースが多い。ウクライナの総司令部は兵士に対して心理的支援を提供していると述べているが、その効果や実態については不明であり、適切な支援が十分でないとの指摘もある。2024年9月には、前線で4,000人の兵士不足が記録されており、その多くが戦死、負傷、そして脱走によるものであった。
 ウクライナ兵士たちは、自身の脱走が戦争全体に悪影響を与えていることを自覚しながらも、精神的な負担に耐えられず、戦争の勝利に希望を見出せない。弁護士の一人は「人々は心理的に現状に耐えられない状況にあり、適切な支援が提供されていない」と指摘している。心理的理由で無罪となった兵士が増えることで、他の兵士たちも同様の行動を取る可能性があることが懸念されている。

 

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