トランプ勝利への欧州の反応
2024年の米国大統領選挙でドナルド・トランプ氏が再び勝利したことを受け、ヨーロッパ各国の反応には表向きの祝福とともに、過去の政策からくる不安が含まれていることが見受けられた。また、一部の指導者からは明確に批判的な意見も示されている。
好意的な反応の中にある懸念
ヨーロッパの主要な指導者たちは、トランプ氏の再選に対して祝福のメッセージを送る一方で、その発言には今後の協力に対する慎重な姿勢が隠されているようだ。
EU委員長ウルズラ・フォン・デア・ライエン氏は、トランプ氏に対し「心からのお祝い」を表明し、再び協力して「強力な大西洋間のアジェンダ」を進めることに期待を示した。しかし、その中で彼女は「欧州と米国の間の800万人の市民による真のパートナーシップ」をことさらに強調し、「政治的安定と経済的ダイナミズム」を守ることの必要性に触れている。つまり、トランプ氏の政策が欧米間の関係に影響を与える可能性を牽制し、彼の過去の一方的な行動に対する不信を表している。
NATO事務総長に就任したマルク・ルッテ氏もトランプ氏の勝利を祝福しているが、同時に「NATOの強さを維持するためのリーダーシップ」を求めていると言う。ここで求められているリーダーシップとは、各加盟国が防衛費を適切に分担し、NATOの共同防衛義務を確実に果たすことを意味するのは明らかだ。トランプ氏に、NATOの結束を維持し、ロシアなどの外部からの脅威に対抗するための強い支援を提供することが期待している。というのも、過去にトランプ氏がNATOを批判し、米国が過剰に負担を担っていると主張していたことに対する警戒感が表面化している。
欧州連合(EU)加盟国の産業界の協調を目的とする団体で、欧州経営者連盟とも言えるビジネスヨーロッパ(BusinessEurope)フレデリック・ペルソン氏も、トランプ氏の再選に祝意を示しながら、「欧米間の開かれた対話と前向きな協力アジェンダ」を進める必要性を強調した。これは、トランプ氏の過去の貿易政策や関税問題が欧米間の経済関係に摩擦をもたらす可能性を案じてのことだ。欧州と米国の経済的協力の維持に対する懸念がすでに感じられるのである。
明確な批判的反応
ヨーロッパにはトランプ氏の再選に対して単純な批判的な反応もある。特に、欧州緑の党の共同代表であるメラニー・ヴォーゲル氏とトーマス・ヴァイツ氏は、トランプ氏の勝利が世界的な政治的安定に深刻な挑戦をもたらすと述べ、強い懸念を表明している。
ヴァイツ氏は、トランプ氏の勝利を「表現の自由と民主的機関に対する脅威」として非難し、特にトランプ氏がメディアを攻撃し、司法機関への干渉を試みた過去の行動が、民主主義の基盤を揺るがすものであると指摘した。欧州は「より多くの民主主義と国際連帯で応じるべき」と訴えた。彼は、トランプ氏の過去の政策が独裁的であると見なしている。ヴォーゲル氏も「この選挙結果は欧州の民主主義者にとっての警鐘であるべきだ」と述べ、民主主義の価値を守り、基本的権利を保証する必要性を強調した。さらに、彼らは欧州がウクライナ支援や気候変動対策において独自に行動する必要性に触れ、トランプ氏が過去に行った気候政策の後退に対する懸念を示した。「欧州は自由、民主主義の灯台であるべきだ」という強い言葉で、欧州の自立したリーダーシップの必要性を訴えている。まあ、なんだろ足元を見ないでこそ言える発言の風味は感じられる。
欧州の懸念が表面化する可能性
これらの懸念や批判は、さまざまな形で表面化することが想定される。まず、トランプ氏の政策や外交姿勢が再び過激になった場合、欧米間の外交的な緊張が再燃する可能性が高い。特に、NATOへの批判が再び強まる場合、NATOの結束が弱まり、加盟国の安全保障に不安が広がるだろう。欧州各国はNATOの維持を重視しており、トランプ氏の発言次第では欧州諸国が独自の防衛強化に動き出すことが予想される。
トランプ氏が過去に実施した貿易戦争や関税政策が再び行われる場合、EUは対抗措置を講じる可能性もある。米欧間の経済摩擦が激化する懸念は拭えない。BusinessEuropeのような経済団体は協力的な経済関係の維持を求めているが、政策の対立が生じた場合、欧州企業の利益が損なわれる可能性も高まる。
トランプ氏の再選による気候政策の後退は、欧州にとっては表面的な影響をもたらす。再生可能エネルギーの推進が停滞し、気候変動対策の国際協定の履行が困難になる可能性がある。環境保護に向けた国際的な取り組みが後退し、特に温室効果ガスの削減やグリーン技術の普及に支障をきたす。トランプ氏は、過去にパリ協定からの離脱を決定したように、気候変動対策に消極的な姿勢を再び示す可能性がある。欧州緑の党のような環境重視の勢力は、米国の後退による国際的な取り組みの停滞を強く懸念しており、欧州内部での環境政策強化が求められるだろう。が、実際のところ、こうした欧州の政治指導者の気候政策がどれほど市民に支持されているかの実態が明らかになる局面もあるだろう。
欧州のリベラルは、トランプ氏の姿勢を独裁的と見るテンプレがある。例えばメディアの自由を制限する発言や司法機関への干渉などの行動によって、欧州市民の間で反米感情を高めると彼らは恐れるのだ。恐れているだけなら、日本も同じだが、欧州では政治運動やデモが活発化しやすい。欧州の各国政府に対して米国との関係見直しを求める声も強まるかもしれない。ただ、こうしたリベラルからは見えない部分もある。カトリックの支持層などは、米国のカトリックと同様、「いきすぎたリベラル」への警戒からトランプ氏への期待もあるだろう。
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