Quo vadis, Romania?
ウクライナと国境を接する中欧の国ルーマニアは、ウクライナ戦争への支援から距離を置きつつあるようだ。背景には、経済的困難や国民の間で高まる戦争疲れ、そして西側諸国との協力が十分な成果をもたらしていないという不満がある。そして、その結果として、親ロシア的な方向へと傾いている可能性が浮上している。この動向が、11月24日に実施された2024年のルーマニア大統領選挙の第一ラウンドでの結果で一層鮮明となった。というか、日本でも報道されるみたいで、けっこう、みんなびっくりしたんだろうな。
11月24日に行われた選挙では、現職のマルセル・チョラク首相と、極右でNATO批判を続けるカリン・ジョルジェスク候補が僅差で競り合うことになった。この結果は当然、ルーマニアがこれまで維持してきた親ウクライナ・親西側の姿勢に大きな影響を与えている。
マルセル・チョラク首相は、2023年6月に首相に就任したばかりであり、ルーマニアの政治的安定を図り、ウクライナとの国境地域で防衛協力を進めるなど親ウクライナ政策を推進してきた。また、EUからの資金を活用して経済成長を目指し、公共部門からの賃上げ要求や予算収入の不足といった課題に取り組んできた。しかし、ルーマニアは財政赤字が8%に達しており、EU加盟国の中でも最も高い貧困リスクを抱えているなど、経済的な課題が残っている。だが、チョラク首相は、そんなことにはお構いなしに、ウクライナ支援と国内経済の安定を掲げ、「戦争の隣国としての政策の安定」を強調しながら選挙戦に挑んでいる。この「政策の安定」には、ウクライナとの国境地域での防衛協力の継続、EU資金を活用したインフラ整備、社会保障の強化が含まれており、それでルーマニア国民に安心感を提供しようとしているのだ。いや、どうして。
一方、注目のカリン・ジョルジェスク候補は、かつて極右政党「ルーマニア統一同盟」の著名なメンバーであり、現職の左派政党所属であるチョラク首相との対比を際立たせている。ジョルジェスクは、ナショナリズムや反NATO姿勢を強調することで、従来の左派・右派の枠組みを超えた立場を取り、それで保守的な価値観を持つ有権者から支持を得ているようだ。
ジョルジェスク候補はNATOに対する強い批判を展開し、「ロシアからの攻撃に対してNATOは加盟国を守らないだろう」と述べ、NATOのミサイル防衛システムを「外交の恥」とも呼んでいる。彼のこの批判の背景には、NATOがロシアとの緊張を高めているとする懸念もあるだろう。ルーマニアがロシアとの対立に巻き込まれることを避けるべきだという考えは実際にはルーマニア国民に一定層浸透しつつある。
ジョルジェスク候補は、ルーマニアがより独立した安全保障政策を追求することによって、国益を守ることができると主張し、ルーマニアはNATOの枠組みを超えた独自の安全保障政策を追求すべきだとも主張している。なかなか何を言っているのかわかんなようだし、ここでも解説するのは極力控えたい。
選挙前の世論調査ではジョルジェスクの支持率は5%前後に過ぎなかったが、蓋を開けてみると、実際には22%の得票を得ており、この急激な支持率の上昇はルーマニアが1989年に共産主義から脱却して以来、前例のないものである。当然、西側としては、この結果について、選挙におけるロシアの干渉の可能性も指摘しているが、無理だろそこまでは。
ルーマニアはウクライナとの国境を650キロにわたって共有し、これまでウクライナへの穀物輸出や防空支援を行ってきた。コンスタンツァ港を通じた年間約800万トンのウクライナ産穀物の輸出や、パトリオット防空システムの提供、ウクライナ軍への訓練支援が含まれる。つまり、ルーマニアはウクライナの戦争努力を側面から支える重要な役割を果たしてきたのだ。ところがどっこい、この2024年の大統領選挙において、これらの政策が今後も維持されるかどうかは選挙結果次第となった。
12月8日に予定されている第二ラウンドでは、西側としては、ルーマニアの親西側の姿勢を維持することで得られるEUからの経済支援や安全保障の強化といった具体的なメリット、また親ロシアの傾向を強めることで経済的制裁を回避しエネルギー供給の安定を図るとか喧伝されるだろうが、実質が伴うことは、まあ、ないだろう。
ジョルジェスク候補は、NATOの防空システムがルーマニアに設置されていることについて「ロシアとの緊張を高める要因」として強く批判しており、彼の主張が選挙戦でどのように受け入れられるかは、各方面で注目されている。第一ラウンドの結果を見る限り、彼の反NATO、親ロシア的な立場は多くの国民に支持されているとしか言えない。特に、国内の経済的困難やウクライナ戦争の長期化に伴い、国民の中には「西側との協力によって何が得られるのか」という疑念を抱く人々が増えている。
現職のチョラク首相はというと、これまでどおり、親ウクライナの立場を維持しつつ、EUとの連携を強化し、国内経済の立て直しを図る方針を掲げている。こうした政策が必ずしも国民に受け入れられていないのに、主張は変わらない。貧困率の高さや財政赤字の拡大といった経済的課題も、目を瞑る。
12月8日以降のルーマニアの将来の方向性は、今のびっくり路線なら、国際世界で注目されることになり、日本でもきちんと報道されるかもしれない。要するにウクライナの隣国で親ロシア的な動向が強まれば、ウクライナ支援からの撤退だけでなく、NATO内での協調も揺らぐ。というか、揺らいでいた事実が修辞では覆えなくなる。
| 固定リンク