2024年の米国大統領選挙の総括
2024年のアメリカ大統領選挙では、民主党が予想外の大敗を喫した。民主党は特に重要な工業地帯のラストベルトでも大幅な得票率の低下を経験した。年収5万ドル以下の世帯での支持率は低下し、特に従来の支持基盤であった労働者層が離反した。この選挙結果は、米国社会の経済的困難や生活費の高騰といった切実な問題に対する対応不足、最新技術を駆使した選挙予測と表示の問題、またバイデン政権の後継問題の混迷など、複数の要因が複雑に絡み合っていた。
民主党支持層の離反と共和党支持への転向
米国民は生活に困窮を感じていた。インフレ率は食品価格で前年比8%上昇、エネルギーコストは12%上昇を記録する中、特に中間層の実質賃金は連続でマイナス成長となっていた。この経済状況下で、民主党が従来の支持基盤としてきた層の大規模な離反が発生した。トランプの「4年前より生活はよくなったか?」というメッセージは、それが政策として無内容であっても、有権者に響くものだった。
地域の視点では、民主党のアイデンティティ・ポリティクスや社会正義への注力が、多くの有権者にとって経済的な解決策を提供していないと受け取られていた。ある移民の女性は、「家を失いかけ、借金を背負った時に民主党が助けてくれることはなかった」と述べ、こうした現実的対応の不在が民主党への信頼を失わせた。
選挙戦の終盤には、民主党の組織的な弱体化が顕著となった。地方組織の活動資金は、前回選挙と比較して減少した。特に、従来の強固な支持基盤であった労働組合との連携も弱まり、組合員の投票率は低下した。
民主党の選挙戦略における最大の誤算は、既存の支持基盤を維持したまま中道層を取り込めると考えた点にあるだろう。実際には、進歩派が求める経済政策の実現と、中道層が望む財政規律の維持という相反する要求の間で、具体的な政策提示ができないまま選挙戦を戦うこととなった。その結果、支持層の離反を防ぐことができず、新たな支持層の開拓にも失敗した。
対して、共和党支持層の特徴として際立っていたのは、その組織的な結束力である。メディアで報道されることが少なかったローカル社会に目を向ければ、共和党支持者たちが教会ネットワークや軍事ファミリーサークル、趣味や興味に基づくグループを通じて非常に組織的に活動していた実態が確認できる。選挙期間中の動員率を大幅に増加させ、特に郊外地域での投票率も向上させた。
バイデン政権の後継問題
バイデン政権の後継問題に関して、特に深刻だったのは支持層の分断がもたらされたことだ。ハリス候補に対する支持率は、民主党支持者の中でも半数以下に留まり、35歳以下の若年層での支持は三割を下回ったと見られる。進歩派の政策要求に対する具体的な回答を避けながら、同時に中道層への配慮を試みるという両立の難しい戦略は、結果として双方の支持を失うことになった。
国際情勢への対応も後継問題に影響を与えた。ウクライナ支援に関する世論調査では、2023年後半から支持率が急激に低下し、特に中間層での支持率は激減していた。この状況下で、民主党は明確な方針を打ち出すことができず、外交政策における指導力の欠如が指摘された。
最終盤の選挙戦略における重大な誤算は、チェイニー元副大統領の支持獲得を過度に重視した点にある。この動きは、ヌーランド一派のネオコン勢力との関係を都合よく隠蔽しようとしていた民主党の戦略と矛盾し、特に反戦派や進歩派の間で強い反発を招いた。実際、この決定後、進歩派支持者の投票意欲が低下した。
そもそも論でいうなら、既得権益がバイデンに対して過剰に資金を投入したことが、既存の既得権益層の大きな誤算であり、後継計画が不自然かつ混乱を招いた要因ともなっていた。
選挙予想の問題
今回の選挙では選挙予報でも大きな問題を露呈した。端的にいって、「拮抗」と連呼したNHKなどのメディアは、この大差の結果を恥じるべきだろう。基本的に従来の世論調査手法は、SNSやメッセージングアプリの普及により、特定の層の意見を十分に捕捉できなくなっている。FOXニュースやEpoch Timesといった保守系メディアの視聴者層での調査参加率は、一般的な調査対象者と比べて著しく低く、この偏りが予測精度に大きく影響を与えている。
とはいえ、実際のところ選挙前の最新の予測モデルでは、すでにトランプの勝利が示唆されていたとも言える。NHKも最終盤では、スイング州でのトランプ優勢を示していたが、全体統計では依然として拮抗しているような報道姿勢を維持した。投票動向の詳細データを分析すれば、特に郊外地域での共和党支持の伸長が顕著であることは予測されていた。
さらに注目すべきは、大手IT企業や金融機関の動きである。選挙前の段階で、主要テック企業のCEOたちは彼らの内部予測モデルに基づいてトランプ勝利を想定した経営判断を行っていた形跡がある。例えば、主要なソーシャルメディアプラットフォームでのコンテンツモデレーション方針の微妙な変更や、広告配信アルゴリズムの調整などに、その兆候が表れていた。
メディアの限界という問題
今回の選挙では、主要メディアの影響力が大きく変容した。主要メディアの視聴率データによれば、従来型のメディアの影響力は特に18-45歳層で著しく低下し、代わってSNSやオルタナティブメディアの影響力が増大していた。CNN、MSNBCといった主要メディアの選挙関連コンテンツの視聴率は、2020年比で平均35%減少。一方で、独立系ニュースプラットフォームやポッドキャストの視聴者数は2倍以上に増加していた。
イーロン・マスクのXプラットフォーム(旧Twitter)での影響力行使は、この変化を象徴する事例となった。選挙期間中、保守系コンテンツの拡散率は進歩的コンテンツの約1.8倍を記録。これは単なるアルゴリズムの変更だけでなく、ユーザーの情報消費行動の本質的な変化を示唆していた。
ジェフ・ベゾスのワシントンポストへの影響力行使も注目される。同紙の論調は、2023年後半から微妙な変化を見せ始め、バイデン政権への批判的な記事が増加。特に経済政策に関する報道では、前年比で批判的な論調が増加した。そして最終的に、伝統であった特定大統領支持は見送られた。なぜ彼がこの決定を下せたかはすでに記したとおりである。
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