ドイツ経済の悪化と政府の失策
ドイツ経済は今、以前の安定した成長から停滞へと変わり見通しが悪化している。2024年の成長率は-0.1%と予測されており、これは前年に続く二年連続のマイナス成長である。ドイツのキール世界経済研究所は、成長予測を引き下げており、政府や企業に対する不信感が高まっている。このままではドイツの経済基盤が弱まり、国際競争力がさらに低下する。
ドイツ経済の鈍化原因
政府は当初、2024年の成長率を0.4%と見込んでいたが、最近の予測では成長が止まると発表した。キール世界経済研究所は成長率が-0.1%になると見ており、これでドイツは二年連続でマイナス成長になると予測している[1]。また、2028年までに税収が5,810億ユーロ(約9.5兆円)も下振れすると見られており、経済の不安が税収の減少に直結している[2]。税収が減ることで、インフラ整備や公共サービスにも悪影響が出て、さらに成長を妨げる要因となる。
成長が鈍化している理由の一つはエネルギーコストの高騰である。ドイツは環境保護のために「エネルギーヴェンデ」と呼ばれる再生可能エネルギーへの転換政策を進めており、原子力や石炭からの脱却を目指しているが、その結果としてエネルギー価格が上昇し、特に電力コストが増大したため、多くの企業で経営負担が増加している。その連鎖で、投資が減り、生産活動も縮小し、経済全体の成長を抑えている。特に中小企業にとって、エネルギーコストの増加は大きな負担であり、経営が厳しくなる。労働市場の硬直性も成長の妨げになっている。ドイツでは高齢化が進んでおり、熟練労働者の不足が目立つ。そのため、企業が必要とする人材を確保するのが難しくなっており、労働力人口の減少がドイツの生産能力と競争力を長期的に弱めている。
ドイツ政府の政策の失敗
ドイツ政府は悪化する経済状況に十分に応えていない。政府は成長プログラムを発表したが、効果は限られている。ドイツ連邦議会では、アンプル・コアリション(社会民主党、緑の党、自由民主党)に対する批判が続いている。アンプル・コアリションは、ドイツの3つの政党からなる連立政権で、その名称は3つの政党のシンボルカラー(赤、緑、黄)がドイツの信号機(アンプル)と同じ色であることに由来している。批判は、この連立与党が効果的な経済対策を打ち出せず、企業や国民に「集団的ショック」を引き起こしたとのことだ。経済政策の遅れや、企業活動に不利な環境を改善するための取り組みが不足している[3]。
ドイツの官僚的な手続きも企業活動の妨げとなっている。新しい事業を始めることが難しく、企業は投資を控えている。官僚的な手続きの煩雑さは、新しいプロジェクトに着手する際の大きな障害であり、特にスタートアップ企業にとってリスクとなっている。ならば、規制緩和や税制改革などを通じて企業活動を促進し、新しい成長のきっかけを作るべきなのだが、現時点ではそのような動きは見られず、経済停滞の長期化が懸念されている。
産業の空洞化と失業問題
ドイツの産業は空洞化しつつある。象徴的な例は自動車産業である。ドイツの自動車メーカーは電気自動車(EV)への移行が遅れた結果、競争力を失いつつある[1]。中国の新興EVメーカーと比べて、生産コストや技術面でも遅れを取っている。このため、ドイツの自動車産業は生産拠点を海外に移転することを余儀なくされ、一部の工場では閉鎖や人員削減が進む。国内での雇用喪失を引き起こし、多くの労働者が不安定な状況に置かれている。
全体的な失業率も増加傾向にある。2024年8月時点で、失業者数は287万人に達し、前年同月比で17.6万人増加している[1]。消費者の心理も冷え込んでおり、消費者信頼指数は9月に-22.0ポイントに低下した。高い失業率と低迷する消費者心理が、経済全体の需要を抑え、さらに景気悪化を招く。小売業やサービス業にも悪影響が広がり、これらの業種での倒産が増加している。地域経済の活力が失われつつあり、地方での雇用機会が減少し、若者の都市部への流出が進んでいる。
【参考】
1. キール世界経済研究所の経済成長予測に関する報告 - [参照]
2. ドイツ財務省による税収の下振れ試算 - [参照]
3. ドイツ連邦議会でのアンプル・コアリションに対する批判と政府の経済政策に関する議論 - [参照]
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