« レカネマブについての英国NHSの決定 | トップページ | 兵庫県知事選挙雑感 »

2024.11.17

ドイツの問題は解決可能といえば解決可能だが

 ドイツのショルツ首相は11月6日、リントナー財務相の解任をシュタインマイヤー大統領に要請した。これで三党連立政権が崩壊する。ショルツ氏は自身の社会民主党(SPD)と緑の党による少数政権を率い、リントナー氏は連立与党を担う自由民主党(FDP)をそれぞれ率いることになる。ショルツ氏は来年には首相信任決議案を連邦議会に提出する方針も表明している。これが否決されれば、来年9月、総選挙が半年前倒しされることになる。

ドイツ危機の現状
 最新の経済予測では、ドイツの2024年の国内総生産(GDP)は0.2%減少する。これは1990年のドイツ統一以降、2度目の連続縮小を意味する。エネルギー供給の不安定さや中国市場の需要低迷が、ドイツ経済のさらなる押し下げ要因となっていたのだ。また、ドイツの自動車産業は電動化への対応が遅れ、中国企業の市場侵食が進んでおり、産業政策の見直しが求められている。国防費の拡大も議論されており、ショルツ政権は1000億ユーロの特別調達基金を創設したが、2027年には基金が底を突く。その追加資金の調達方法や長期的な投資計画について議論が続いているが目処はない。
 オラフ・ショルツ首相の連立政権は、予算赤字と連立内の対立により機能不全に陥った。自由民主党(FDP)は財政規律と減税路線を主張し、対する緑の党は環境投資を求め、ショルツ首相はこれらの調整に苦慮している状況である。日本にとっても他人事ではすまない予感がする。ドイツ経済では、エネルギー価格の高騰が主要産業に打撃を与え、予期せぬ脱工業化が進行中である。自動車や化学、エンジニアリングといったドイツの基幹産業が危機に直面し、「鉄壁の経済大国」としてのドイツの地位が揺らいでいる。

危機の理由と背景
 ドイツの危機を招いた背景には、いくつかの複合的な要因がある。まず、ドイツはウクライナ情勢を受けてロシア制裁を支持し、ロシアからのエネルギー供給を失ったことで、エネルギー価格が高騰した。特に天然ガスへの依存が高かったため、制裁によるエネルギーコストの増加が産業に打撃を与え、経済の停滞が顕著化した。
 メルケル政権は安定を最優先に掲げ、リスク回避と現状維持を続けた結果、産業の革新や競争力の向上が後回しにされ、経済システムの硬直化が進んでいた。そもそもドイツはEUの中での政策調整に依存するあまり、独自の政策を展開しにくい。EUの規制と方針がドイツ国内の政策決定を制約し、迅速な経済対策を講じる能力が制限される。また、EUの推進する社会政策が経済改革の障害になっている。
 ドイツの政治界と産業界には過去の成功を引き継ぐ形で登用された指導者が多く、新しい挑戦に対応するビジョンや柔軟性が欠如している。ドイツはかつての「第三の経済大国」というイメージに固執し、自国の経済力が安泰であるとの過信があり、裏目に出た。実際には競争力が低下し、経済構造が現在世界には適応できていない。

解決案?
 ドイツの危機に対する斬新な解決策がある。EUから離脱することだ。これで経済政策の柔軟性を取り戻し、自国の産業構造を迅速に立て直すことができる。EUの影響を排除し、ドイツ独自の経済戦略を展開することで成長を図るのである。エネルギー供給の安定化のためは、ロシアとの関係を再構築するといい。ロシアからの安価なエネルギー供給が再開されれば、産業界は回復に向けた猶予を得ることができる。
 現在の硬直した政治構造を刷新し、柔軟かつ戦略的に危機に対応できる新しいリーダーシップを導入することも求められている。過去に成功を収めた「東方外交(Ostpolitik)」のように、ドイツが柔軟な政策転換を行える環境を整えるといい。1970年代に西ドイツがソビエト連邦との関係改善を通じて東西冷戦の緊張を緩和し、経済成長の基盤を築いたことが挙げられる。
解決への困難
 そのように、単純で明白は解決策が提示できるのに、実現には多くの困難が伴う。なんといっても、EUからの離脱には強い抵抗が予想される。経済的な依存関係も深いため、実行可能性は低いかもしれない。実際のところ、EUに不満があっても、離脱までには国内の政治的支持も不足していて、英国のような無謀な独立路線を進めるのはドイツ的な気風に合わない。合わない?合うかもしれない、物騒な歴史があったな。ロシアとの関係修復は、誰が猫の首に鈴を付けるか問題に近い。
 ドイツの政治指導層は現状維持を重視する傾向が強く、根本的な変革に対する抵抗が予想される。それ自体が危機の本質も言えるのだが。
 

 

|

« レカネマブについての英国NHSの決定 | トップページ | 兵庫県知事選挙雑感 »