「オレーシニク」(Орешник)
ロシア体制に精通した国際情勢の評論家アレクサンダー・メルクーリス氏が、そのYouTubeチャネルで、今回のウクライナ側からのロシア領域攻撃とその報復について語っている内容が興味深いものだった。これは彼の評論家としての見解であって、国際誌政治学的な水準にはないが、彼は、国際政治学者のジョン・ミアシャイマーやグレン・ディーゼンとも活発に意見交換を持っていることからわかるように、十分に傾聴すべき参考意見に思える。
アレキザンダー氏は、総括として、現在の地政学的状況を「極めて危険」とし、既に危機的な段階に突入していると述べていた。特に、今週発生したロシア領内へのミサイル攻撃については、西側諸国、特に米国と英国がロシアのプーチン大統領からの最終警告を軽視しているのではないかと指摘した。これまでロシアを軽視し、「ロシアは虚勢を張っているだけだ」と見なす者たちは自己欺瞞に陥いり、その影響から、西側諸国の行動が深刻なエスカレーションを引き起こしていると氏は警鐘を鳴らしている。
事態については、ロシア寄りの二次情報ではあると思われるが、次のように説明されている。今回使用された新型ミサイル「オレーシニク」(Орешник)は、極めて強力な兵器である(余談だが、その意味は樹木の「ハシバミ」でそのドングリのような実орехは食用にもなる。木材としても使われる)。この中距離ミサイルは、音速の12倍の速度の飛行が可能で、6つの独立した「マーヴド」弾頭を搭載できる。各弾頭は個別に目標を追尾し、さらにそれぞれが3つの弾を内部に含むため、1発のミサイルで最大18の目標を同時に攻撃可能である。この攻撃は核弾頭を搭載可能である一方、弾頭が爆発物を搭載していなくても、12倍音速の運動エネルギーによる衝撃だけで甚大な破壊をもたらすことが確認されている。プーチン大統領によれば、このミサイルは現在量産段階に入りつつあり、今回の発射はプロトタイプの試験であったが、完全な成功を収めたとされる。
アレキザンダー氏は、このミサイルがヨーロッパ全域を射程に収めると述べた上で、既存の防空システムでは迎撃が不可能である点を強調していた。特に、ロシアがカスピ海の都市アストラハンから発射したミサイルが、約15分でニジニーノヴゴロド近郊の標的に到達した事例について、一部ではこの到達時間がさらに短かった可能性もあると指摘されており、西側諸国の防衛体制の脆弱性が露呈した形となっていると見ている。さらに、英国が提供したストームシャドウミサイルによる攻撃も、ロシアの指揮所を狙ったが目標を外れたとされる。この攻撃では、12発のストームシャドウに加え、複数のハイマースミサイルが使用されたが、戦略的成果は得られなかった。これらの攻撃が米国と英国の協力の下で行われたことを考慮すれば、技術的支援を受けてなお、このような結果に終わったことは、彼らの軍事的限界を示している。
その関連もあってか、アレキザンダー氏は、特に英国が主導したウクライナ軍の「ドニエプル川東岸上陸作戦」が壊滅的な失敗に終わったことを批判していた。この作戦は、当初クリミアへの進軍を目指して計画されたが実際には進展がなく、むしろ英国軍の過剰な介入がウクライナの失敗を助長したと見ている。
すでに米国からも公式にアナウンスがあったが、ロシアは今回のミサイル発射に際し、米国に30分前に事前警告を行った。この意図には、核弾頭が搭載されていないことを明確にして、誤解による核戦争の勃発を防ぐ意図があったとされている。しかし、プーチン大統領は次回の攻撃があれば、民間人が退避するためのより長い猶予時間を与えると述べており、これはロシアが自らの兵器の迎撃不能性に確信を持っていることの表れと受け止めてよいようだ。
今回の事態を契機に、アレキザンダー氏は西側諸国の指導者、特に英国の軍事内部では一部の関係者が、状況の深刻さをようやく認識し始めているものの、政治的意思決定に十分な影響を与えることができていないでいる点を問題視している。また、バイデン政権や英国のスターマー政権がロシアを軽視し、逆に危険なエスカレーションを引き起こしかねないと見ている。
戦争のエスカレーションについて、ハンガリー政府の高官からの情報として、欧州の一部の関係者がウクライナへの地上部隊派遣の必要性を議論しているとの指摘があった。このような動きが進展すれば、さらなるエスカレーションと大規模な軍事的失敗を引き起こす可能性が高い。欧州諸国の軍事力は現状では脆弱であり、ロシア軍に対抗する準備が整っていない点に警笛を鳴らしている。
今回のウクライナからの長距離攻撃認可もそうだが、バイデン政権が大統領選挙で敗北したため、残りの任期中にウクライナ問題を急速にエスカレートさせる動きに転じた可能性がある。アレキザンダー氏は、この動向の背景には、混乱を引き起こすことでさらなる支援を引き出そうとする意図があると見ている。こうした不安定な状況下で、西側諸国が危機感を欠いたままロシアへの挑発を続けるならば、軍事的にも政治的にも計り知れない影響が広がると懸念を示している。
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