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2024.11.05

世界は必然的に多極化する

 今年の2月、ロシアの外交政策とユーラシアの地政学を専門とするグレン・ディーセン(Glenn Diesen)博士が『ウクライナ戦争とユーラシア世界秩序』(The Ukraine War and the Eurasian World Order)を出版した。博士について私は「ニュートラリティ・スタディ」でなんどか見かけたが、「Quincy Institute for Responsible Statecraft」でその本に関連したインタビューがあり、興味深いものだった。基調はこうである。ウクライナ戦争は、冷戦後の一極秩序の崩壊を象徴するものであり、国際秩序が大きな転換点を迎えていることを示すというのだ。この戦争をきっかけに米国主導のリベラルな国際秩序が見直され、「ユーラシア型多極秩序」への移行が加速するという博士の分析には、私も同意せざるを得ない。

世界の多極化への歴史的展開
 ディーセン博士の考えによれば、冷戦後の国際秩序は大きな変革期にある。ソ連崩壊後、東欧諸国の民主化と市場経済への移行が進み、NATOとEUの東方拡大が実現した。同時に、中国の経済的台頭とロシアの復権が進行し、国際秩序に重要な影響を与えた。西側によるNATOの東方拡大とカラー革命の推進は、ロシアや中国などの大国の安全保障上の懸念を軽視し、新たな対立構造を生む結果となった。なるほどこれは「歴史的必然」とも言えるだろう。
 具体的には、NATOの東方拡大は1999年のポーランド、ハンガリー、チェコの加盟、2004年のバルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)およびブルガリア、ルーマニアの加盟と段階的に進められた。この拡大政策は、ロシアにとって直接的な安全保障上の脅威となった。さらに、ウクライナやグルジアでの「カラー革命」も米国主導で進められ、西側諸国の価値観の押し付けと受け取られ、ロシアや中国との対立を深刻化させた。

「利害共有圏」としての地政学的枠組み
 多極化する世界では、従来の「勢力圏」に代わって「利害共有圏」という新しい地政学的枠組みが重要性を増す。この枠組みでは、特定の国による支配ではなく、複数の大国が相互の利害を尊重しながら協力することが重視される。上海協力機構(SCO)は、中国、ロシア、中央アジア諸国が協力して地域の安定と安全保障を確保する具体例である。また、ユーラシア経済連合(EAEU)も、ロシアと旧ソ連諸国の経済的統合を進める成功事例として挙げられる。
 米国はこの多極化した世界を受け入れるだろうか。ディーセン博士は懐疑的な見方を示していた。米国はドル支配や国際金融システムにおける優位性、技術的優位を手放すことが困難な立場にある。対して、BRICS諸国は独自の決済システムやエネルギー供給体制の構築を進め、米国への依存度を低減させる努力を続けている。
 エネルギー分野では、BRICS諸国間での協力が強化され、ロシアの天然ガス供給を中心に、中国やインドが多様なエネルギー供給源の確保を目指している。サウジアラビアやイランなども、BRICSとの協力を通じてエネルギー供給の多様化と安定化を進めており、米国の影響力の相対的低下と多極化の加速が見られる。
 多極化において重要な要素の一つは、各国の技術的自立である。BRICS諸国やユーラシア諸国は、独自のインターネットインフラや通信技術の発展、デジタル通貨の導入、ブロックチェーン技術の活用を通じて、米国への技術依存度を低減させている。
 再生可能エネルギーの分野でも多極化の動きが顕著である。中国は太陽光発電や風力発電の技術で主導的な立場を確立し、技術供与を通じて影響力を強化している。インドも再生可能エネルギーの導入を積極的に推進し、国際協力を通じてクリーンエネルギーの供給網の構築を進めている。

東アジアにおける米中対立の意味
 ディーセン博士の話で私が特に注目したのは、東アジアにおける米中対立の影響である。日本、韓国、フィリピン、ベトナムなどは、安全保障面で米国に依存しつつ、経済面では中国との関係を維持する「戦略的曖昧性」を採用している。この姿勢は、多極化時代における現実的な選択として評価できるだろう。ASEANは米中間で中立的立場を保ちながら、地域の安定と発展を促進する重要な調整役を務めている。これが危うい均衡のなかで維持できるものだろうか。多極化が進む中で、国際社会全体の調整メカニズムは依然として不十分である。各国が独自の利益を追求する中で、対立や衝突のリスクが高まる可能性は否定できない。
 多極化の進展には重要な課題も存在する。各国の文化的多様性を尊重しつつ、国際的な人権基準をいかに維持するかという問題は避けて通れない。中国における少数民族問題や、ロシアにおける反対派への対応など、権威主義的統治の強化が懸念される。


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