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2024.11.30

2024年米国大統領選挙は過去にない成功だった

 2024年の米国大統領選挙について、「ひどい選挙だった」という声も聞かれる。しかし、選挙の透明性と安全性においては、過去最高の成果を上げた選挙であったことも間違いない。投票率は66.8%に達し、これは過去100年で最も高い水準であった。全投票の95%以上が紙の投票用紙で行われ、これにより監査や再集計が容易になった。サイバーセキュリティの強化により、不正アクセスを防ぐための多層的な防御も実施された。
 この成功の背景には、選挙システムの改善だけでなく、選挙官への支援や誤情報対策の強化がある。特に、選挙革新・研究センター(CEIR)を率いるデビッド・ベッカー氏の尽力が重要な役割を果たしていた、というのをC-Spanのニュースで知った(参照)。CEIRは選挙の透明性と公正性を向上させることを目的とし、選挙官のサポートや誤情報対策に取り組む非営利団体である。彼の活動を通じて、選挙運営における信頼性と効率性が向上し、米国の民主主義が新たな高みに達している、というのだ。

この選挙が「過去最高」とされる理由
 2024年の選挙が「過去最高」であった理由の一つは、先にも述べたように、投票用紙の95%以上が紙で作成され、再集計や監査が可能になった点である。例えば、ジョージア州では3回にわたる再集計が行われ、そのうち1回は手作業で行われましたが、結果はすべて一致した。このような透明性は有権者の信頼を支える基盤となる。
 選挙管理の高度化も挙げられる。選挙官間の協力体制が強化され、連邦・州・地方の選挙機関が一体となってサイバーセキュリティや物理的安全性を確保した。全米各地の選挙官が合同でサイバー攻撃に対する演習を実施し、その結果、攻撃への迅速な対応力が向上していた。州レベルでのデータ共有プラットフォームも構築され、不正な活動をリアルタイムで検知することが可能になっていた。
 選挙プロセスに関する誤情報を排除するため、CEIRなどの団体が積極的に情報発信を行い、有権者が正しい情報に基づいて判断できるよう努めたことも重要だろう。選挙に対する誤解や疑念を持つ人々が減少し、結果として選挙の信頼性が向上した。なお、このCEIRを設立したデビッド・ベッカー氏は、司法省で投票権弁護士としてキャリアをスタートし、特にマイノリティの投票権擁護に注力してきた人物である。この経験が彼の活動の礎となり、2020年の選挙成功にも大きく寄与した。ベッカー氏は選挙官を支援する法的防衛ネットワークを構築し、選挙官が誤情報や法的リスクから保護される環境を整えた。この取り組みは、選挙官が安心して業務に集中できる条件を提供し、選挙全体の質を向上させた。

現在の課題と将来の展望
 選挙制度が大幅に改善された一方で、現在も課題が残されている。特に、誤情報の影響は依然として深刻である。2020年の選挙後、選挙結果に疑念を抱く一部の人々が選挙官に対して脅迫や嫌がらせを行う事例が報告されているが、これに対処するため、CEIRは法的防衛ネットワークを活用し、選挙官が必要な支援を迅速に受けられる体制を構築している。このネットワークは、選挙官が脅迫に対処する際に必要な法的支援を提供し、選挙管理の安全性と透明性を確保するための重要な役割を果たしている。
 郵便投票に関する誤解も課題の一つである。一部では、郵便投票が不正の温床であるという誤った主張が広がっていたが、実際には二重投票を防ぐための厳格な確認手続きが導入されている。署名照合やID確認を通じて安全性が確保されており、米国での郵便投票は非常に信頼性が高い制度である。このような安全策によって、郵便投票に対する信頼が徐々に回復しつつある。
 とはいえ誤情報は依然、大きな問題であり、これは国内外から広がる可能性がある。ロシアや中国などの独裁国家は、米国の有権者間の不信感を煽るために、誤情報を戦略的に利用してている。ベッカー氏によると、こうした外部からの干渉を防ぐには、有権者自身が情報の真偽を見極める能力を養う必要もある。特定のニュースソースだけでなく、複数の視点から情報を収集することで、偏りを減らすことができる。また、選挙官が誤情報に対応するためのリソースを持つことも重要であり、CEIRはそのための支援を続けているとのことだ。

 

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2024.11.29

マリウポリへの帰還

 ロシアの報道社イズベスチヤは、ウクライナのメディアによる情報として、多くのウクライナ人がロシアに編入された新しい地域、特にマリウポリやルハンシクなどへの帰還を望んでいると報じた(参照)。この動きは単なる物理的な移動を超えて、戦争の影響や帰属意識に関する複雑な要素が絡み合っており、帰還の背景には、経済的な理由や社会的な要因、そして心理的な側面が複雑に交差しているようだ。
 2024年11月25日、ウクライナのニュースサイト『ストラナ (Страна.ua)』は、過去数か月にわたる同サイトのジャーナリストによる避難民との交流から、多くの人々が帰還を希望していると伝えた。彼らが再びロシアに編入された地域へ戻ろうとする背景には、住宅問題が一つの大きな動機となっている。ロシアの法律に基づいて住居の所有権を取得し、ロシアのパスポートを取得することで生活基盤を安定させたいという希望がある。他方、住居を売却して再びロシアから離れることも計画している人々もいる。だが、ロシアの法律に基づく住宅所有権の取得手続きについては、書類の準備や法律的な手続きが必要であり、帰還を希望する人々にとって負担となっている。また、住宅取得後に売却を考えている人々は、住宅市場の動向を考慮に入れる必要がある。これらの手続きが住宅問題の複雑さを増しており、帰還を希望する動機に深く影響を与えている。

EU内での生活
 『ストラナ 』はまた、ウクライナやヨーロッパでの生活に適応することが難しいと感じた一部の避難民が、故郷に戻ることを選択していることも報じている。なかでも欧州連合(EU)内で望ましい仕事を見つけることができなかった一部の難民にとっては、ロシアへの移住は現実的な選択肢として浮上している。彼らは、経済的な困難や異なる社会的文化への適応に苦労しており、結果として故郷であるマリウポリに戻ることが最良の選択肢であると感じているようだ。さらにEUにおける彼らの生活に対する不満やストレスから、帰還を考える人もいる。単に故郷の街への懐かしさから帰還を希望するウクライナ人も少なくないという。故郷への帰属意識や自分のルーツに対する強い思いは、帰還の決断において重要な役割を果たしている。

マリウポリの復興
 マリウポリへの帰還希望者が増加している背景には、この都市の復興進展がある。ウクライナ紛争で被害を受けたマリウポリは、現在急速に再建が進んでおり、その復興の成果が多くの人々の関心を集めている。この復興のスピードは、帰還希望者の心理に大きな影響を与えており、故郷に戻ることへの期待を高めている。特に、再建されたインフラストラクチャーや住宅の整備、そして公共サービスの改善などが、帰還を希望する人々にとって大きな魅力となっている。新しい学校や病院の建設、道路や公共交通機関の整備、公園やレクリエーション施設の再建、さらには水道や電力などの重要なインフラの改善が進められている。マリウポリの復興が目に見える形で進展していることは、これまで避難を余儀なくされた人々にとって、再びそこに根を張り、生活を再建するための強い動機となっている。

経済的・社会的・心理的要因
 このような帰還の動きには、経済的な理由だけでなく、心理的、社会的な側面が複雑に絡み合っている。ロシアからの支援による生活の安定や、新しい住居の取得により将来への希望を見出すことができること、紛争による不安定な状況から抜け出したいという強い意欲なども影響している。ウクライナからロシアへの移住には、戦争による避難や生活の再建という現実的な問題が存在するが、同時に、故郷への帰属意識や再出発への希望といった感情も深く影響している。帰還は単なる地理的な移動ではなく、新たな人生の始まりであり、自分たちの未来を再び築き上げるための大きな一歩であると言える。一部の家庭では、故郷に残る高齢の親の世話をする必要性が帰還の重要な要因となっている。
 かくして、イズベスチヤの報道では、子供たちが自分たちの文化や言語を学び、アイデンティティを維持するために、故郷に戻ることを選ぶ家族もいるし、各種の要因が交錯する中で、ウクライナ人たちは自分たちの未来を再び定めるための選択を行っている、としている。また、その選択は、彼ら自身のアイデンティティや価値観を再確認し、未来への道筋を見つけ出すための重要な過程であることがわかる、ともしている。まあ、ここまで言うと流石にプロパガンダ臭い報道でもあるとは思われる。

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2024.11.28

NIH新局長に指名されたバタチャリア氏

 2024年11月、ドナルド・トランプ次期大統領はスタンフォード大学の医療経済学者であるジェイ・バタチャリア(Jay Bhattacharya)氏を次期国立衛生研究所(NIH)局長に指名した。この指名は、彼の過去のCOVID-19対策に関する批判的な立場と、その論争的な研究活動によって、多くの関心と議論を呼んでいる。
 まずバタチャリア氏の経歴や指名の背景を簡単に説明しよう。彼は、1968年、インドのコルカタで生まれ、スタンフォード大学で学び、経済学と医学の両方で博士号を取得した。その後、RAND Corporationで経済学者として活動し、スタンフォード大学では医学、経済学、健康政策の教授として長年にわたり研究を続けてきた。また、同大学における高齢化と健康経済の研究センターを率いるなど、彼の研究は主に医療経済学や公衆衛生政策にも精通している。
 彼の評判には、高齢者の医療費負担の分析や、政府プログラムの効果に関する評価が含まれる。また、彼の研究は特に医療制度改革の経済的影響についての洞察を提供し、世界中の政策立案者に大きな影響を与えてきた。彼が特に注目を浴びるようになったのは、COVID-19パンデミック時に、その対策への批判的な立場を取ったためである。なかでも、2020年に発表された「グレート・バリントン宣言」は、彼と共著者たちが提唱したものであるが、この宣言では、低リスクの人々には感染を許容し、集団免疫を目指す一方で、高リスクの人々を重点的に保護することを主張した。パンデミックによる社会的・経済的損失を最小限に抑えることを目的としたものだったが、、この方針は、科学的な根拠の不足や倫理的問題から、世界保健機関(WHO)をはじめとする多くの専門家から批判を受ける結果にもなった。それでも一部の政治家や科学者からは支持を得ており、パンデミック対策における一つの意見として考慮されてはいた。

NIH局長指名の背景
 NIHは、米国における最も重要な医学研究機関であり、5万点以上の研究助成を通じて世界中の科学者を支援している。しかし、パンデミック中の政策対応を巡り、共和党の一部からはNIHの運営に対する批判が強まっていた。トランプ氏の初期政権でもNIHの予算削減が試みられ、次期政権ではさらなる構造改革が計画されている。
 バタチャリア氏の指名は、この改革を主導する人物として期待されている一方で、彼の過去の発言や行動が新たな懸念を生んでいる。特に、パンデミック時における彼の意見が一般的な科学的見解と異なるものであったことが、科学界の一部からの強い反発を招いている。一方、トランプ政権は、バタチャリア氏を通じてNIHにおける改革を迅速に進め、効率性と経済的視点を導入することを目指している。その中には、研究資金の分配方法の見直しや、研究分野の優先順位の再設定などが含まれている。

科学界と政治界の反応
 バタチャリア氏の指名に対して、科学界と政治界の反応は分かれている。一部の専門家は、彼が「証拠に基づく科学者(Evidence-Based Scientist)」であることを評価し、NIHの改革に適任だと主張しているが、彼のCOVID-19対策に対する見解を「非主流的」とする批判も少なくない。例えば、WHO事務局長テドロス氏は、彼の集団免疫戦略を「非倫理的で実現不可能」と批判した。
 こうしたバタチャリア氏の指名は、トランプ次期政権の他の人事とも関連して注目されている。同じく指名されたロバート・F・ケネディJr.氏は、NIHを含む健康政策全般を監督する役割を担う予定であり、彼の反ワクチン的な発言や科学的な視点に対する懸念が浮上している。このような背景から、バタチャリア氏がどのようにしてNIHの独立性と科学的信頼性を維持するかが注目されている。科学者たちは、研究の独立性が保たれなければ、科学的発展が阻害されるリスクがあるからだ。

NIHの課題と展望
 いずれにせよ、すでにバタチャリア氏の指名によって、NIHはこれまで以上に注目される機関となるだろう。一部の専門家は、NIHの助成金制度や研究分野の優先順位における抜本的な改革が必要だと訴えている。例えば、リスクの高い「機能獲得研究」や、胎児組織を用いた研究への資金提供が再び制限される可能性があるとも予測されている。さらに、NIHの構造改革案として、現在の27の研究所を15に統合する提案や、リーダーの任期制限を導入する案も議論されている。これらの改革は、NIHの効率性を向上させると期待される一方で、科学研究の自由や多様性を損なうリスクも伴う。
 国際的な視点から見ると、バタチャリア氏の指名は他国の公衆衛生政策にも影響を与える可能性がある。パンデミック対策における米国の立場が変われば、国際的な協調がどのように進むかも変わる。

 

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2024.11.27

英国における性別の法的定義を巡る議論

 英国最高裁判所において、「性別」の法的定義を巡る画期的な裁判の審理が始まった。この裁判の発端は、2018年にスコットランド議会で可決された公共部門理事会における女性代表に関する法案にまで遡る。当時は比較的限定的な法案として認識されていたものの、現在では英国社会全体を二分する重大な法的・社会的争点へと発展している。
 「スコットランドの女性のために(For Women Scotland)」という女性の権利擁護団体が提起した一連の法的異議申し立ては、当初、スコットランド議会の法案における「女性」の定義を問題視するものだった。この法案では、「女性として生活している」人々や性別再指定のプロセスを予定している人々も「女性」として含める定義が採用されていた。しかし、この定義は平等法で定められた二つの異なる保護特性を混同し、融合させているとして、裁判所で争われることとなった。

対立する法的枠組みの複雑性
 この問題の核心的な部分は、2004年性別認識法と2010年平等法という二つの法律の解釈、およびそれらの関係性にある。2004年性別認識法は、ジェンダー認識証明書(Gender Recognition Certificate, GRC)の発行プロセスを詳細に規定している。同法では、証明書取得者の性別変更を「あらゆる目的において」法的に認め、男性の性別を取得した場合は「男性の性別となり」、女性の性別を取得した場合は「女性の性別となる」と明確に規定している。他方、2010年平等法は差別からの法的保護を規定する包括的な法律であり、「性別」「性的指向」「性別再指定」を独立した保護特性として扱っている。しかし、同法における「女性」の定義は驚くほど簡素で、単に「任意の年齢の女性」とされているのみである。この定義の簡素さは、当初は法的な柔軟性を確保するための意図的な選択だったと考えられるが、現在では深刻な法的混乱の源となっている。

法的解釈を巡る具体的争点
 今回の最高裁判所での審理における中心的な争点は、ジェンダー認識証明書を取得したトランス女性が、平等法上の「女性」として扱われるべきか否かという問題である。「スコットランドの女性のために」は、性別は「生物学的事実の問題」であり、「女性に与えられた権利と保護を確実にするためには、性別の生物学的な意味が必要」であると主張している。彼らは、平等法が一貫して性別を「不変の生物学的基準」として参照していると解釈し、2004年法の一部条項が「他の制定法による規定」を前提としていることから、平等法が性別認識法に優先すると主張している。対してスコットランド政府は、両法律の文言は明確であり、議会は両者の関係を十分理解した上で制定したと反論している。政府の見解によれば、平等法には性別認識法の効力を制限する明示的な規定は存在せず、むしろ2010年法には性別認識法が「完全な効力を持ち続けることを意図している」明確な兆候が含まれているという。すなわち、性別認識証明書による性別変更は、法的に完全な効力を持つべきだとの立場を取っている。

社会的影響の広がり
 この法的対立は、統計的にも無視できない規模の人々に影響を及ぼしている。最新の国勢調査によれば、スコットランドでは人口の0.5%未満にあたる19,990人が、イングランドとウェールズでも同様に約0.5%にあたる262,000人が、トランスジェンダーまたはトランス履歴を持つと報告している。さらに、2023-24年度には英国全体で1,088件の性別認識証明書が発行され、前年の867件から顕著な増加を示している。
 かくしてこの問題の社会的影響は、単なる数の問題を超えて、様々な領域に波及しはじめている。深刻な影響を受けているのが、公共サービスの提供現場である。例えば、スコットランドのレイプ・クライシス・ネットワークは、女性の定義と単一性別空間の提供を巡って深刻な混乱に陥っている。スコットランド警察は、エディンバラとロンドンの政治家からの「指示の欠如」を強く批判し、性別認識プロセスと平等法の調和に関する明確なガイドラインを求めている。このように、公共機関の運営者たちは、法解釈の不明確さにより、独自に政策を判断せざるを得ない状況に置かれている。これは病院の病棟運営から避難所の管理、スポーツイベントの参加資格に至るまで、現状、幅広い分野で混乱を引き起こしている。特に性的虐害被害者支援グループなどは、平等法の保護規定に基づいて男性を排除する法的根拠を維持できるかどうかという深刻な懸念を抱えている。

政治的対応の変遷
 この問題に対する政治的アプローチも、時間とともに大きく変化してきた。ニコラ・スタージョン前首相時代のスコットランド政府は、性別自己認定の改革を積極的に推進し、トランスジェンダーの権利拡大を目指す姿勢を明確に示していた。しかし、現在のジョン・スウィニー首相の下では、より慎重なアプローチが採用されている。改革の取り組みは英国全体のアプローチの中で進められることとなり、例えば改宗治療禁止法案などについても、四か国共同のアプローチを求める立場を取っている。
 英国全体のレベルでも、この問題への対応は政党間で大きく異なっている。保守党は選挙公約で平等法の改正を掲げる一方、労働党は性別認識プロセスの「簡素化と改革」を約束しながらも、平等法自体の改正には慎重な姿勢を示している。キア・スターマー労働党党首は、トランスジェンダーの人々が直面している「不当な扱い」の除去を目指すとしているものの、具体的な法改正の方向性については明確な立場を示していない。

 

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2024.11.26

Quo vadis, Romania?

 ウクライナと国境を接する中欧の国ルーマニアは、ウクライナ戦争への支援から距離を置きつつあるようだ。背景には、経済的困難や国民の間で高まる戦争疲れ、そして西側諸国との協力が十分な成果をもたらしていないという不満がある。そして、その結果として、親ロシア的な方向へと傾いている可能性が浮上している。この動向が、11月24日に実施された2024年のルーマニア大統領選挙の第一ラウンドでの結果で一層鮮明となった。というか、日本でも報道されるみたいで、けっこう、みんなびっくりしたんだろうな。

 11月24日に行われた選挙では、現職のマルセル・チョラク首相と、極右でNATO批判を続けるカリン・ジョルジェスク候補が僅差で競り合うことになった。この結果は当然、ルーマニアがこれまで維持してきた親ウクライナ・親西側の姿勢に大きな影響を与えている。

 マルセル・チョラク首相は、2023年6月に首相に就任したばかりであり、ルーマニアの政治的安定を図り、ウクライナとの国境地域で防衛協力を進めるなど親ウクライナ政策を推進してきた。また、EUからの資金を活用して経済成長を目指し、公共部門からの賃上げ要求や予算収入の不足といった課題に取り組んできた。しかし、ルーマニアは財政赤字が8%に達しており、EU加盟国の中でも最も高い貧困リスクを抱えているなど、経済的な課題が残っている。だが、チョラク首相は、そんなことにはお構いなしに、ウクライナ支援と国内経済の安定を掲げ、「戦争の隣国としての政策の安定」を強調しながら選挙戦に挑んでいる。この「政策の安定」には、ウクライナとの国境地域での防衛協力の継続、EU資金を活用したインフラ整備、社会保障の強化が含まれており、それでルーマニア国民に安心感を提供しようとしているのだ。いや、どうして。

 一方、注目のカリン・ジョルジェスク候補は、かつて極右政党「ルーマニア統一同盟」の著名なメンバーであり、現職の左派政党所属であるチョラク首相との対比を際立たせている。ジョルジェスクは、ナショナリズムや反NATO姿勢を強調することで、従来の左派・右派の枠組みを超えた立場を取り、それで保守的な価値観を持つ有権者から支持を得ているようだ。

 ジョルジェスク候補はNATOに対する強い批判を展開し、「ロシアからの攻撃に対してNATOは加盟国を守らないだろう」と述べ、NATOのミサイル防衛システムを「外交の恥」とも呼んでいる。彼のこの批判の背景には、NATOがロシアとの緊張を高めているとする懸念もあるだろう。ルーマニアがロシアとの対立に巻き込まれることを避けるべきだという考えは実際にはルーマニア国民に一定層浸透しつつある。

 ジョルジェスク候補は、ルーマニアがより独立した安全保障政策を追求することによって、国益を守ることができると主張し、ルーマニアはNATOの枠組みを超えた独自の安全保障政策を追求すべきだとも主張している。なかなか何を言っているのかわかんなようだし、ここでも解説するのは極力控えたい。

 選挙前の世論調査ではジョルジェスクの支持率は5%前後に過ぎなかったが、蓋を開けてみると、実際には22%の得票を得ており、この急激な支持率の上昇はルーマニアが1989年に共産主義から脱却して以来、前例のないものである。当然、西側としては、この結果について、選挙におけるロシアの干渉の可能性も指摘しているが、無理だろそこまでは。

 ルーマニアはウクライナとの国境を650キロにわたって共有し、これまでウクライナへの穀物輸出や防空支援を行ってきた。コンスタンツァ港を通じた年間約800万トンのウクライナ産穀物の輸出や、パトリオット防空システムの提供、ウクライナ軍への訓練支援が含まれる。つまり、ルーマニアはウクライナの戦争努力を側面から支える重要な役割を果たしてきたのだ。ところがどっこい、この2024年の大統領選挙において、これらの政策が今後も維持されるかどうかは選挙結果次第となった。

 12月8日に予定されている第二ラウンドでは、西側としては、ルーマニアの親西側の姿勢を維持することで得られるEUからの経済支援や安全保障の強化といった具体的なメリット、また親ロシアの傾向を強めることで経済的制裁を回避しエネルギー供給の安定を図るとか喧伝されるだろうが、実質が伴うことは、まあ、ないだろう。

 ジョルジェスク候補は、NATOの防空システムがルーマニアに設置されていることについて「ロシアとの緊張を高める要因」として強く批判しており、彼の主張が選挙戦でどのように受け入れられるかは、各方面で注目されている。第一ラウンドの結果を見る限り、彼の反NATO、親ロシア的な立場は多くの国民に支持されているとしか言えない。特に、国内の経済的困難やウクライナ戦争の長期化に伴い、国民の中には「西側との協力によって何が得られるのか」という疑念を抱く人々が増えている。

 現職のチョラク首相はというと、これまでどおり、親ウクライナの立場を維持しつつ、EUとの連携を強化し、国内経済の立て直しを図る方針を掲げている。こうした政策が必ずしも国民に受け入れられていないのに、主張は変わらない。貧困率の高さや財政赤字の拡大といった経済的課題も、目を瞑る。

 12月8日以降のルーマニアの将来の方向性は、今のびっくり路線なら、国際世界で注目されることになり、日本でもきちんと報道されるかもしれない。要するにウクライナの隣国で親ロシア的な動向が強まれば、ウクライナ支援からの撤退だけでなく、NATO内での協調も揺らぐ。というか、揺らいでいた事実が修辞では覆えなくなる。

 

 

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2024.11.25

米国国務省のセラピー問題

 米国国務省で行われたセラピーセッションが、いま物議を醸している。日本ではあまり報道されていないかもしれないが、この出来事は米国の政治文化を映し出す興味深い一面となっている。単なる職場での心理カウンセリングという以上に、アメリカの政治文化や組織の在り方について、多くの示唆を含んでいるようだ。
 2024年の大統領選挙でドナルド・トランプ氏が勝利を収めた後、国務省は職員向けに少なくとも2回のセラピーセッションを開催したという。選挙結果に動揺した職員を支えるための措置だったわけだが、これが思わぬ波紋を広げることになった。前政権の政策が大幅に変更されることへの不安が、組織全体を覆っていたのだろう。実際、トランプ前政権時代には、省内の士気が著しく低下したとの報告もある。このままだと、多くの熟練職員が退職を選ぶかもしれない。
 当然のことながら、この異例な対応は共和党側から厳しい批判を受けることとなった。納税者の資金がこうした精神的サポートに使われることへの疑念や、政府機関としての中立性に対する懸念が噴出したのだ。共和党のダレル・イッサ議員は、ブリンケン国務長官に書簡を送り、セラピーの開催を「不穏」と表現。税金の使い道として適切でないと強く主張している。イッサ議員に同調する声も少なくなく、保守系メディアでは「政府機関の左傾化」を示す証拠として、この問題を取り上げる論調も出てきそうだ。
 このような反応の裏には、トランプ前政権時代の複雑な経緯が隠されている。移民政策や国際関係における強硬な姿勢は、国務省の職員たちにとって大きなストレス要因となっていた。日々の職務の中で、人道的観点から深い葛藤を抱えていた職員も少なくなかったという。例えば、メキシコ国境での家族分離政策の実施過程では、多くの外交官が心理的な負担を訴えていた。国際社会からの非難に対応せざるを得ない立場にあった彼らにとって、この政策の擁護は特に困難な課題だったとされる。そんな彼らにとって、トランプ氏の再登場は、まさに悪夢の再来だった。前政権時代、国務省内では度重なる政策の急転換に振り回される場面が多々あった。パリ協定からの離脱、イラン核合意からの撤退、WHO脱退の表明など、国際社会に大きな影響を与える決定が、時として省内での十分な検討もないまま発表されることもあった。こうした経験が、職員たちの間に深い不安を植え付けることになったのは想像に難くない。
 とはいえ、イッサ議員が指摘する「政治的中立性」という問題も、簡単には無視できない。国務省の職員は、どの政権下でもその政策を誠実に実行する義務を負っている。しかし、個人の信念と職務上の責任との間で葛藤が生じるのは、ある意味で自然なことでもある。一部には「現政権の方針に賛同できない職員は辞職すべきだ」意見も出てきそうだが、20年、30年というキャリアを投げ出すことが、果たしてそう簡単な選択であるわけはないし、そのキャリアが活かせないのや米国国家の損失だろう。
 この問題は、米国の公務員制度の特徴とも深く関連している。米国では政権交代に伴い、約4,000人もの政治任用職が入れ替わる。これは日本の「政権交代(笑)」とは比較にならない規模だ。そのため、政策の実務を担当するキャリア官僚たちは、より直接的に政権の方針転換の影響を受けることになる。また、米国の行政機関では、政治的任用者と career civil servant(キャリア公務員)の間の境界が比較的明確で、両者の関係が時として緊張を孕むこともある。
 そもそも米国の政治システムでは、政権が変わるたびに大幅な政策転換が行われる。前政権で国際協力や環境問題に熱心に取り組んでいた職員が、突如として孤立主義的な政策に従事することを求められる。オバマ政権からトランプ政権への移行期には、パリ協定に関わっていた職員たちが、一転して協定からの離脱プロセスに携わることを余儀なくされた際も、まあ、ひどいものだった。こうした急激な方向転換は、確かに大きな精神的負担となりうるだろう。トランプ前政権時代には、キャリア外交官に対する不信感が公然と表明されることもあった。いわゆる「ディープステート(笑)」という表現で、伝統的な外交政策を支持する職員たちが批判されることもある。このような経験が、職員たちの間に深い傷跡を残したことは想像に難くない。今回のセラピーセッションは、そんな職員たちの苦悩を垣間見せる出来事だったともいえる。
 もっとも、摂関政治と比較しても、この種の組織的なストレスケアが全く前例のないものというわけではない。9.11テロ後、多くの政府機関で職員向けのカウンセリングが実施された。また、新型コロナウイルスのパンデミック初期にも、医療従事者を中心に同様のサポートが提供されていた。といえ、政権交代に際してこのような対応が取られるのは、確かに異例といえるだろう。
 国務省は現在、この問題について公式なコメントを出していない。しかし、このセラピーセッションの一件は、単なる内部サポートの問題として片付けられるものではないだろう。そこには、米国政治における政権交代がもたらす社会的・政治的な不安定さが、如実に表れているからだ。また、この問題は、現代の組織運営における新たな課題も提起している。従業員のメンタルヘルスケアは、民間企業では当たり前のものとなりつつある。しかし、政府機関における同様の取り組みは、常に政治的な文脈での解釈にさらされる。職員の健康管理と政治的中立性の間で、どのようなバランスを取るべきなのか。これは、今後の行政組織運営における重要な検討課題となるかもしれない。
 幸いなことに、日本ではこうした問題は表面化していない。官僚が上手に状況を見越し、日本人特有の機運を管理しているためかもしれない。あるいは、そもそも政治的な変化による影響がアメリカほど大きくないため、同様の状況が起きにくいのかもしれない。確かに日本の官僚制は、政権交代による政策変更を緩和する機能を持っているように見える。実際的な権力と言いたいくらいださ。また、日本の場合、政権が変わっても基本的な政策の方向性が大きく変わることは比較的少ない。
 次期トランプ政権は、この種の、まあ、ぶっちゃけリベラ派的な反動にどう対応するのだろうか。単に一政府機関の人事管理の問題としてではなく、アメリカの政治文化そのものを問い直す契機とすべきなのだろう。政治的な対立が深まる中で、行政機関の職員たちの心理的な負担は、今後さらに増大する可能性もある。セラピーセッションをめぐる今回の騒動は、そうした課題の一端を垣間見せる出来事だったといえるだろう。まあ、米国政治も日本の政治から学ぶべきことは、まだまだたくさんあるのだよ、と言いたいところだ。

 

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2024.11.24

シェール革命の現状

 米国のシェール革命は2000年代後半以降、世界のエネルギー市場に多大な影響を与える変革をもたらした。特に2008年以降、米国でのシェールオイルおよびシェールガスの生産は急増し、エネルギー供給構造全体に劇的な変化をもたらし、これにより、原油価格の大幅な変動や地政学的影響も引き起こされた。シェール革命が始まってから数十年が経過した現在、その影響力は依然として大きく、エネルギー市場の重要な要素となっている。

まとめ

  • シェール革命により、米国は世界有数のエネルギー生産国となり、国際市場での発言力が強まった。
  • エネルギー供給元の多様化が進み、地政学的リスクが軽減。LNG輸出能力獲得で他国のエネルギー安全保障にも寄与。
  • 環境への影響や再生可能エネルギーへの移行に伴い、シェール産業の長期的な役割に不確実性が生じている。

シェール革命のインパクトと米国の役割
 1970年代初頭に始まったシェール革命により、米国は世界有数のエネルギー生産国としての地位を半世紀を経て再び確立した。2000年代初頭でも米国は、エネルギーの多くを輸入に依存していたが、2009年以降はシェールオイルおよびシェールガスの生産技術の飛躍的な進歩により、国内でのエネルギー供給が劇的に増加した。これにより、米国のエネルギー自給率は大幅に向上し、いわばエネルギー独立という新しい時代への道を開いた。
 シェール革命成功の基盤となったのは、油層水圧破砕法(フラッキング)と水平掘削技術の発展である。テキサス州パーミアン盆地など主要産地での生産拡大は、米国のエネルギー独立に大きく寄与した。これらの技術革新により、米国は世界市場での影響力を増し、従来の主要産油国であるサウジアラビアやロシアに対抗する地位までも確保した。さらに、シェールオイルの生産増加は国際的なエネルギー市場における米国の存在感を高め、世界市場におけるエネルギー価格の決定に強い影響力を持つまでになった。
 シェール革命を通じて達成した米国のエネルギー独立は、世界のエネルギー供給の地政学的バランスも大きく変化させ、従来のエネルギー輸出国が持つ影響力に挑戦する結果となった。サウジアラビアやロシアといった主要な産油国は、米国のシェール生産の台頭に対応するため、新たな戦略を模索せざるを得なくなった。サウジアラビアは、自国の生産量を調整し、市場シェアを維持しつつ価格の安定を図る試みを続けている。ロシアもまた、OPECプラスの枠組みに参加し、シェール生産の増加に対応した協調的な戦略を模索している。

エネルギー安全保障とシェール革命
 シェール革命は、エネルギー安全保障の観点からも米国に大きな影響を与えた。シェールオイルとシェールガスの生産増加により、米国はエネルギー自給率を向上させただけでなく、国際的なエネルギー供給への依存度を大幅に減少させり、米国の安全保障上、エネルギー供給の多様化も進み、地政学的リスクに対する耐性も強化された。
 地政学的な緊張や供給混乱が生じた際には、米国のシェール生産者は迅速に生産を調整することで、エネルギー市場の安定に寄与できる。この柔軟性が、エネルギー安全保障におけるシェール革命の重要な役割となっている。シェールガスとシェールオイルの生産が増加することで、米国は中東地域における不安定要因からの影響を大きく軽減し、別の側面としては、この地域への政治的・軍事的関心も弱化した。
 また、シェール革命の成功により、米国はエネルギー輸出国としての地位を確立し、LNG(液化天然ガス)をヨーロッパやアジア市場に供給する能力も持つようになった。従来の供給元に依存していた国々にとって米国は新たな信頼できる供給源としての地位を確立し、ロシアからの天然ガス供給に大きく依存していたヨーロッパ諸国は、米国からのLNG輸入を増加させることでエネルギー安全保障を強化した。この傾向を進めるために、反面、米国としてはロシアのエネルギー供給の地位を貶めたいという潜在的な志向をもつことになった。
 シェール革命は、エネルギー市場全体における競争を活性化させることで国際的なエネルギー価格の安定にも寄与している。多様な供給源の存在は、価格の急激な変動を抑制し、消費者にとっても安定したエネルギー供給を確保する助けとなっている。日本や韓国といったエネルギー資源に乏しい国々にとっては、どちらかと言えば、シェール革命による供給の多様化はメリットであるには違いない。

シェールオイルのコストと市場への挑戦
 シェールオイルの生産には特有の課題がある。その一つが生産コストの高さである。シェールオイルの採掘にはフラッキングなど特殊な技術が必要であり、その生産コストは従来の原油採掘に比べて高くなる。シェールオイルの生産コストは1バレルあたり約50ドルから60ドルで、従来の中東の原油生産コストである10ドルから20ドルに比べてかなり高い水準であるといえる。
 原油価格が一定の水準(例えば1バレルあたり40ドル以下)を下回ると、シェールオイル生産の採算が取れず、米国のシェール企業は生産を縮小せざるを得なくなる。2014年から2016年にかけて生じた原油価格急落(2016年には一時30ドルを下回る水準に低下)は、多くのシェール企業にとって経済的困難をもたらし、多数の企業が倒産に追い込まれた。しかし、2017年以降の価格回復(1バレルあたり50ドルから60ドルへの回復)により、多くの企業が再び活動を再開した。
 シェールオイルの生産に関連して、多額の資金調達や技術革新が必要となる点にも留意したい。開発を行う中小企業にとってはいまだに厳しい市場環境が続く。生産設備の維持や新たな井戸の開発には多大なコストがかかるため、原油価格の急落時には多くの企業が生産停止を余儀なくされる。他方、大手企業は資本力を背景に技術革新を進め、より効率的な生産方法を確立し、低価格時代でも競争力を維持することができている。
 シェールオイル生産における技術革新は、コスト削減と生産効率の向上に寄与している。例えば、高度なデータ解析やAI技術を活用した掘削プロセスの最適化が進められており、従来の手法に比べて生産コストを削減することが可能となった。水圧破砕の際に使用する化学薬品の効率化や、環境負荷を減らすための技術開発も進んでいる。

OPECの動向とシェール革命
 米国のシェール革命の影響により、OPEC(石油輸出国機構)は新たな挑戦に直面している。従来、OPECは原油価格を安定させるために生産量を調整し、世界市場での影響力を維持してきた。しかし、米国のシェールオイル生産の増加により、OPECの価格調整能力は制約を受けるようになった。
 OPECと米国シェール企業の関係は、基本的に競争の関係にある。OPECは供給過剰を防ぐために定期的に生産調整を行い、市場での影響力を維持しようとしている一方で、米国のシェール企業は、価格の変動に迅速に対応するフレキシビリティを持っており、価格が上昇すると生産を拡大し、価格が下落すると迅速に生産を縮小することができる。このような対応能力が、OPECの市場コントロールを難しくしている。
 2016年の原油価格急落時には、OPECは減産を行い価格の下支えを試みたが、その間に米国のシェール企業が生産を増加させ、結果としてOPECの努力が完全には実を結ばなかった。このような状況は、エネルギー市場におけるOPECの影響力を弱体化させ、米国のシェール企業が新たな価格決定要因としての地位を築くきっかけとなった。
 他方、OPECとシェール企業の間には協力の可能性も存在する。例えば、価格の安定が双方にとって有益である場合、OPECと米国のシェール企業が暗黙の協調を図ることがある。この協力関係は、供給の安定と価格の調整に貢献し、世界のエネルギー市場における長期的な安定に寄与することが期待される。

シェール革命と日本経済
 米国のシェール革命は、当然の話だが、日本経済にも大きな影響を与えた。2010年代における米国のシェールオイルとシェールガスの増産は、日本のエネルギー供給源の多様化を実現し、エネルギー安全保障に寄与した。シェールガスの輸入が可能になったことで、日本は液化天然ガス(LNG)の供給元を多様化し、エネルギー価格の安定にもつながっている。
 2014年以降、シェール革命による原油価格の変動は、日本経済に直接的な影響を及ぼしつづけている。原油価格の下落は、日本にとってエネルギー輸入コストの削減を意味し、企業の生産コスト低下や消費者物価の安定化に寄与した。一方、原油価格の急騰は輸入コストの増加を引き起こし、日本経済にとってリスク要因となる。
 シェール革命の影響は日本の産業構造にも波及している。石油化学産業などエネルギー多消費型の産業は、エネルギーコストの低下により競争力を高めることができたが、同時に為替相場の変動も大きな影響を与えている。円安が進むとエネルギー輸入コストが増大するため、企業はコスト削減と効率化に向けた取り組みを強化し続けている。

米国以外のシェールガスの動向
 かつての原油大国サウジアラビアも現在では、シェールガス開発に積極的に乗り出している。すでに16兆円を投じてシェールガスの生産を拡大するという計画を発表している。中国のシェールガスの動向もあり、重要な進展を見せている。2024年2月19日、中国石油化工集団(中国石化)は重慶市綦江区で新たな大規模シェールガス地帯を発見したと発表した。中国政府はシェールガスの生産量を2035年までに2800億立方メートルに引き上げる目標を掲げており、国内のエネルギー自給率を高め、輸入依存度を低下させることを狙っている。
 アルゼンチンのバカムエルタ(Vaca Muerta)地域は、世界有数のシェールガス埋蔵地として注目されており、エネルギー分野における新たな成長の柱となっている。ロシアさえ、シベリア地域でのシェールガス開発に力を入れており、欧州向けのエネルギー供給の多角化を進めている。これらの国々の取り組みは、世界のエネルギー市場におけるシェールガスの存在感をさらに強めるとともに、エネルギー供給の安定性に寄与している。

シェール革命の今後の展望
 シェール革命は、世界のエネルギー供給における大きな変革として位置づけられているが、その未来は必ずしも安定しているわけではない。技術の発展により生産効率は向上しているものの、環境規制の強化や再生可能エネルギーへの移行が進む中で、シェールオイルおよびシェールガスの役割は縮小していく可能性がある。
 一方、シェール革命によって得られた技術は、新しい方向性を持つかもしれない。例えば、フラッキング技術は地下資源の効率的な利用に応用されるほか、二酸化炭素の地下貯留技術(CCS)との組み合わせによって、環境負荷を軽減する取り組みが進むかもしれない。このように、シェール革命の技術は、エネルギー産業の持続可能性を高める方向に活用される可能性も秘めている。

 

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2024.11.23

「オレーシニク」(Орешник)

 ロシア体制に精通した国際情勢の評論家アレクサンダー・メルクーリス氏が、そのYouTubeチャネルで、今回のウクライナ側からのロシア領域攻撃とその報復について語っている内容が興味深いものだった。これは彼の評論家としての見解であって、国際誌政治学的な水準にはないが、彼は、国際政治学者のジョン・ミアシャイマーやグレン・ディーゼンとも活発に意見交換を持っていることからわかるように、十分に傾聴すべき参考意見に思える。
 アレキザンダー氏は、総括として、現在の地政学的状況を「極めて危険」とし、既に危機的な段階に突入していると述べていた。特に、今週発生したロシア領内へのミサイル攻撃については、西側諸国、特に米国と英国がロシアのプーチン大統領からの最終警告を軽視しているのではないかと指摘した。これまでロシアを軽視し、「ロシアは虚勢を張っているだけだ」と見なす者たちは自己欺瞞に陥いり、その影響から、西側諸国の行動が深刻なエスカレーションを引き起こしていると氏は警鐘を鳴らしている。
 事態については、ロシア寄りの二次情報ではあると思われるが、次のように説明されている。今回使用された新型ミサイル「オレーシニク」(Орешник)は、極めて強力な兵器である(余談だが、その意味は樹木の「ハシバミ」でそのドングリのような実орехは食用にもなる。木材としても使われる)。この中距離ミサイルは、音速の12倍の速度の飛行が可能で、6つの独立した「マーヴド」弾頭を搭載できる。各弾頭は個別に目標を追尾し、さらにそれぞれが3つの弾を内部に含むため、1発のミサイルで最大18の目標を同時に攻撃可能である。この攻撃は核弾頭を搭載可能である一方、弾頭が爆発物を搭載していなくても、12倍音速の運動エネルギーによる衝撃だけで甚大な破壊をもたらすことが確認されている。プーチン大統領によれば、このミサイルは現在量産段階に入りつつあり、今回の発射はプロトタイプの試験であったが、完全な成功を収めたとされる。
 アレキザンダー氏は、このミサイルがヨーロッパ全域を射程に収めると述べた上で、既存の防空システムでは迎撃が不可能である点を強調していた。特に、ロシアがカスピ海の都市アストラハンから発射したミサイルが、約15分でニジニーノヴゴロド近郊の標的に到達した事例について、一部ではこの到達時間がさらに短かった可能性もあると指摘されており、西側諸国の防衛体制の脆弱性が露呈した形となっていると見ている。さらに、英国が提供したストームシャドウミサイルによる攻撃も、ロシアの指揮所を狙ったが目標を外れたとされる。この攻撃では、12発のストームシャドウに加え、複数のハイマースミサイルが使用されたが、戦略的成果は得られなかった。これらの攻撃が米国と英国の協力の下で行われたことを考慮すれば、技術的支援を受けてなお、このような結果に終わったことは、彼らの軍事的限界を示している。
 その関連もあってか、アレキザンダー氏は、特に英国が主導したウクライナ軍の「ドニエプル川東岸上陸作戦」が壊滅的な失敗に終わったことを批判していた。この作戦は、当初クリミアへの進軍を目指して計画されたが実際には進展がなく、むしろ英国軍の過剰な介入がウクライナの失敗を助長したと見ている。
 すでに米国からも公式にアナウンスがあったが、ロシアは今回のミサイル発射に際し、米国に30分前に事前警告を行った。この意図には、核弾頭が搭載されていないことを明確にして、誤解による核戦争の勃発を防ぐ意図があったとされている。しかし、プーチン大統領は次回の攻撃があれば、民間人が退避するためのより長い猶予時間を与えると述べており、これはロシアが自らの兵器の迎撃不能性に確信を持っていることの表れと受け止めてよいようだ。
 今回の事態を契機に、アレキザンダー氏は西側諸国の指導者、特に英国の軍事内部では一部の関係者が、状況の深刻さをようやく認識し始めているものの、政治的意思決定に十分な影響を与えることができていないでいる点を問題視している。また、バイデン政権や英国のスターマー政権がロシアを軽視し、逆に危険なエスカレーションを引き起こしかねないと見ている。
 戦争のエスカレーションについて、ハンガリー政府の高官からの情報として、欧州の一部の関係者がウクライナへの地上部隊派遣の必要性を議論しているとの指摘があった。このような動きが進展すれば、さらなるエスカレーションと大規模な軍事的失敗を引き起こす可能性が高い。欧州諸国の軍事力は現状では脆弱であり、ロシア軍に対抗する準備が整っていない点に警笛を鳴らしている。
 今回のウクライナからの長距離攻撃認可もそうだが、バイデン政権が大統領選挙で敗北したため、残りの任期中にウクライナ問題を急速にエスカレートさせる動きに転じた可能性がある。アレキザンダー氏は、この動向の背景には、混乱を引き起こすことでさらなる支援を引き出そうとする意図があると見ている。こうした不安定な状況下で、西側諸国が危機感を欠いたままロシアへの挑発を続けるならば、軍事的にも政治的にも計り知れない影響が広がると懸念を示している。

 

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2024.11.22

サンデル博士がトランプ勝利を読み解く

 YouTubeのAmanpour and Companyのチャネルに、先日の米国大統領選挙ついて、特にそのリベラル派の敗北について、日本でも『これからの「正義」の話をしよう』で有名な政治哲学者マイケル・ジョゼフ・サンデル(Michael Joseph Sandel)のインタビューがあり、それなりに興味深いものだった。それなりにというのは、それほど想定外の話はないなと思えたからでもあった。
 サンデル博士は、今回の大統領選挙でトランプ氏が勝利した理由を、米国民の不満から説明している。サンデル博士によれば、この不満の背後には二つの主要な要因がある。
 第一に、米国市民は自分たちがどのように統治されているのかについて有意義な発言権を持っていないと感じていることだ。このことは本質的に自己統治ということ自体の危機である。米国では大多数の国民が自分たちの声が反映されていないと強く感じている。
 第二に、米国民は、米国社会のあるべき道徳的な結びつきがもはや失われつつあると感じていることだ。家族から地域社会、そして国家に至るまで米国市民はそれぞれ、自分を超えるものに帰属しているという意識、メンバーであることの誇り、そしてなにより連帯感を求めていた。それがいつから久しく得られなくなっている。
 この二つの不満が今回の選挙の中心にあり、トランプ氏はこれらに巧みに訴えかけることができたとサンデル博士は説いていた。特に、トランプ氏の主張は、米国において、特に大卒の学位を持たない労働者層に共鳴した。彼らはエリート層から見下されていると感じていたという。
 ちなみに、大卒者の社会での比率は現在世界においてどのようになっているか、グローバル・ノートのサイトの最新情報を見て少し驚いた。上位から、1位・カナダの63.27%、2位・日本の55.99%、3位アイルランドの55.31%、4位・韓国の54.52%、そして、5位にようやくイギリスの52.70%、米国は8位で50.7%。大学の差異もあるだろうが、日本と米国では10%もの差があり、欧州がさらに低い。
 サンデル博士の話に戻ろう。博士によれば、米国はこの何十年もの間、社会的地位、特に学歴差による勝者と敗者の間の溝が深まり、それが、政治を毒し、社会を分断してきたという。この先は、私がいつもお馬鹿な説と思っている「新自由主義論」がサンデル博士の見解にも登場する。曰く、民主党も共和党も新自由主義的で市場重視のグローバリゼーションを支持してきたが、それは上層部に大きな利益をもたらす一方で、国の下半分の人々には賃金の停滞と雇用の外部移転をもたらした。そして、経済的不平等が社会構造化し、統治エリートたちは暗黙に大卒以下への侮辱があった。それは、グローバル経済で成功したければ大学に行け。あなたの収入は学歴に依存するというものであり、経済的に成功できなければそれは自己責任だという含みがあり、結果、大卒ではない労働者層は経済的に困窮するだけでなく、侮辱され、見下されていると感じた。そして、この状況が頂点に達したのは、2016年のトランプ氏の大統領就任であったという。
 そこが問題だろうかという感じもしたが、話を聞いていて私が思ったのは、日本でも似たようなことがあるとも感じるが、それは、東大を頂点としてそこからMARCHくらいが上位の大学でそこからFラン大学がありその中間層があるくらいなものだが、実際のところ、日本においては学歴差はさほど社会分断には関係していないように思われる。特に所得差に米国社会ほどの決定的な要因は与えていないだろう。面白いことに日本の場合、高級官僚も大卒程度であって、そこが微妙にシーリング感がある。ということは、日本を米国的な学歴社会にしていのは、東大と官僚の頭打ち効果によるのかもしれない。
 サンデル博士の話は、こうして聞くと、内田樹先生でも言いそうな話の類型のようでもあるが、なるほどと思えたのは、民主党は伝統的に既存権力に対抗する民衆の党であり、労働者を代表している党であるという見解だった。他方、裕福な有権者や大学の学位を持つ人々は共和党を支持する傾向にあったという。だが、このパターンは先の2016年に逆転したという。そして、トランプ氏は大学の学位を持たない有権者に支持された。ここで、サンデル博士は、米国人の約三分の二が四年制の学位を持っていないというののだが、全体としてはそうかもしれない。いずれにせよ、この数十年間、民主党は成功と尊敬を得るための主要な道として大学教育に焦点を当てるようになったが、皮肉にもその結果、大卒学位を持つ専門職層の価値観や利益により共鳴するようになり、かつてその基盤であった労働者階級の有権者とは乖離していったというのだ。
 このあたりの話は現状説明としては日本人にもわかりやすいが、19世紀後半から20世紀初頭は共和党が労働者の代表と見なされた時代もあり、その後もいろいろややこしい経緯がある。むしろ、サンデル博士が意図的に言及していないのかもしないが、今回の大統領選挙で資金を積み上げていたのは、民主党であり、資金が独り歩きして身動きがとれなくなり、バイデン候補の交換が遅れてしまった。
 サンデル博士は、ポスト・ロールズのコミュニタリアニズムを主張することもあり、論点がコミュニティに移っていく。が、それが果たして、大統領選挙との本当に関連するのかは、疑問が残る。
 いずれにせよ、サンデル博士よれば、米国は、欧州ほど不平等が深刻ではないという慰めがあったという。アメリカン・ドリームという言葉のように上昇移動の約束があるとされてきた。しかし実態は、現在世界では、世代間の上昇移動は、より平等主義的と言われる欧州諸国の方が米国よりも高い。米国のほうが不平等の拡大と停滞した社会的移動が失望感を生み出している。もはや米国民は懸命に働いても上昇できないと感じ、経済的なフラストレーションと裏切られた感覚を抱くようになったという。
 関連してここで興味深かったのは、欧州の多くの国では福祉制度や再分配政策が充実しているため、不平等が緩和され、その結果として、世代間の上昇移動性がアメリカよりも高い傾向があるということだ。そうなのか別データにあたってみると、概ねそのようだった。
 米国民の「下層」に生じる不満は、米国市民として人々を結びつける共有スペースや公共機関の喪失に起因しているともサンデル博士は指摘する。例えば、スポーツスタジアムにおける「スカイボックス化」という現象により、裕福な人々はラグジュアリーボックスに座り、他の人々は下のスタンドに座るという分断が生じている。この数十年で広がった不平等は、かつて人々を集めていた公共空間や機関を腐食させ、民主主義に必要な共有された市民生活の感覚を損なっているという。
 サンデル博士はここで例示はしていないが、共和党を支えるフンダメ派は巨大商業施設と一体化した巨大教会を持っているが、そうした現代的なコミュニティ再構築は保守派のリニューアルにあるようにも思える。他方、先日亡くなった谷川俊太郎が翻訳していた『ピーナッツ』には、サンデル博士の言う、共通の生活空間と市民が共に生きていることを思い出させるものであった。が、現在、裕福な人々と質素な生活を送る人々は、地域的にも別々の生活を送るようになり、彼らの子供たちは異なる学校に通い、異なる場所で買い物をし、異なる世界に住んでいる。この共通のスペースと交流の喪失が、市民的および国家的なコミュニティの結びつきの崩壊に寄与しているというのは頷ける。日本はどうだろうかとふと思って、いろいろ思うことがあるが、まあ、簡単に言及できそうにない。
 隠して、サンデル博士の処方箋は、労働の尊厳に取り組むことであるという。高等教育を成功への唯一の道として強調することにより、「資格主義的な軽蔑」の感覚を生み出し、労働者たちを経済的にも文化的にも疎外してしまった。この動態が経済的および文化的な不満を生み出し、トランプ氏はそれをうまく利用したのに対し、民主党はまだ完全にそれに対処できていない。
 リベラルは経済的正義と国家的なコミュニティや誇りの感覚を結びつけるビジョンを示す必要がある。なかなか話がうまいぞ、サンデル博士。とはいえ、それを行うのは、たぶん、共和党のほうだろう。

 

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2024.11.21

中国とロシアの観光が急成長

 日本でも新型コロナ騒動が収束し、また円安もあって海外からの旅行客が増加し、観光産業が再び興隆しているが、こうした観光産業が活気を示しているのは、隣国でも同じようだ、といってこの隣国は、ロシアと中国である。
 2024年、ロシアと中国の観光活動は過去に例を見ない成長を遂げている。2023年8月に再開された両国のビザ無し団体旅行制度により、通常のパスポートがあれば、5人から50人の団体が最大15日間、相互に両国を訪問できるようになった。この制度は2000年に導入されたものの、新型コロナ騒動の期間中は一時停止されていた。現在、中露両国間の強固な経済的つながり、簡素化されたビザ規則、地理的な近接性により、観光業界の専門家や関係者は、今後の中露観光の成長に対して楽観的な見方を示している。

中露観光業界の現場
 吉林省琿春市の観光部門からは、ロシアからの観光客数は今年急増し、5月以降、ロシア語ガイドの需要が高まっているとのことだ。例年なら、両国間の観光客の流れは9月末から減少するが、今年は冬季まで活況が続きそうだ。同市で12人のガイドを擁する会社では、5月から9月までの間に約6,000人のロシア人観光客にサービスを提供した。観光業界の専門サイトも、中露間の観光関係の今後の展望について楽観的な見方を示している。また、中国からロシアへの観光も、ビザ規則の簡素化と短い移動時間で活況を呈している。モスクワ、サンクトペテルブルク、ウラジオストクといった従来から中国人観光客に人気の観光地が、さらに多くの中国人を惹きつけている。
 沿海地方の観光局によると、2023年には12.95万人の中国人観光客を受け入れ、2024年の最初の3か月だけでも約4.9万人が訪れた。中国人にとっては、吉林省や黒龍江省を訪れる際、その延長でロシアも訪問したいと考えるようになった。そこには、中国とは大きく異なる建築様式を含む現地の文化が、観光客を魅了している。

国境都市における観光
 黒龍江省の黒河港では、1月から7月末までの国境通過が36万件を超え、前年同期の3倍に達した。2023年には黒龍江省を訪れた外国人観光客31.7万人のうち、90%以上がロシアからの観光客である。特に6月から8月の夏季観光ピーク時には、264,882人もの旅行者が中露国境を往来し、過去最高を記録。黒河市は中国人観光客の間でも、その立地とロシア風の建築様式により人気を博している。背景には、交通インフラの改善とよりきめ細かな観光政策があるようだ。
 こうしたなか中国政治協商会議は、黒龍江省における中露文化観光ベルトの創設を提案した。このプロジェクトは18の国境地域と19の港を結び、ロシア人観光客のより迅速で便利な中国へのアクセスを実現することを目指している。中央政府からの資金支援により、道路や鉄道などのインフラ整備も進められる予定である。この構想は、単なる観光ルートの整備を超えて、両国間の文化交流を深め、経済発展を促進する総合的なプロジェクトとして位置づけられている。
 黒河市の各地では、中国語とロシア語の看板が多く設置され、店員の多くが日常会話レベルのロシア語を話すことができる。アムール川を挟んでわずか700メートルの距離にあるブラゴベシチェンスクからは、フェリーや水上バスで5分程度で渡航が可能。2024年6月から8月の夏季観光ピーク時には、264,882人の旅行者が中露国境を往来した。2024年の最初の7か月間の観光収入は90億元に達し、前年同期の2倍以上となっている。レストランの話では、ロシア人客は甘い料理や揚げ物を好む傾向があることのことだ。そして、ロシア観光客は、感謝の気持ちから、チョコレートやキャンディーを贈ることもあるのことだ。

参考:В 2024 году число россиян, посещающих Китай, резко возросло

 

 

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2024.11.20

フランスの「極右」動向

 フランスの「極右」指導者と報道されることが多いマリーヌ・ルペンが、EU資金横領疑惑を受けて裁判に立たされ、この裁判により、彼女が2027年の大統領選挙への立候補を禁じられる可能性が浮上している。この裁判は、世界的な右傾化の流れの中で、フランス国内のみならず、大きな意味を持つだろう。フ

フランスの右傾化の現状
 フランスの「極右」政党と慣習的に呼ばれる「国民連合(Rassemblement National: RN)」の指導者マリーヌ・ルペンが、EU議会の資金を党活動に流用した疑いで裁判に立たされた。裁判は2024年11月27日まで続く予定であり、判決が下されると、ルペンに対し公共職務への就任禁止が命じられる。検察はルペンに対し公共職務への就任禁止を求めており、彼女が次回の大統領選に立候補できなくなる可能性がある。
 右派勢力の浮上と、それに対する法的な対抗手段という構図は、フランスに限った問題ではない。イタリアやオーストリアでも極右政党の台頭が見られ、それらの国々でも移民問題や経済的不安に対する不満から極右勢力の支持が拡大し、移民問題や安全保障に対する国民の不安感が政治に大きな影響を及ぼしている。日本でも右派勢力の影響が強まりつつありと見る識者も少なくない。
 今回の裁判では、ルペンと国民連合の他の24名が、EU議会の資金を架空の職務に使った疑いで起訴されている。この資金は本来、EU議会の補佐官の給与として支給されるべきものであったが、党職員の給与に流用された、とされている。ルペンに対しては公共職務への5年間の就任禁止と最大5年間の禁固刑、さらに30万ユーロの罰金が求められており、党そのものにも200万ユーロの罰金が課される可能性がある。
 ルペンが有罪となれば、フランス極右にとって壊滅的な打撃となるが、ここで注目されるのは、その一方で若手党首ジョルダン・バルデラに、好機が訪れる可能性があることだ。バルデラは16歳でRNに加入し、23歳で欧州議会議員に選出、そして28歳で党首の座に就いた。彼はルペンから「ライオンの子」として育成されてきたとされ、党の後継者としての地位を確立している。右派が華々しく刷新されたイメージが演出できる。

右派後継者の刷新
 ルペンの裁判が進む中で注目されているバルデラは若くして党のリーダーとなり、ルペンの路線を踏襲しながらも、若者層への訴求力を高めている。このような若手の台頭は、フランスに限らず、政治の新陳代謝が進む兆しとして注目される。日本でも若手政治家の影響力が増し、SNSなどを利用して、従来にはなかったような、少なくとも旧来のメディアからは想定外の自体を起こすようになった。
 バルデラはすでに、ルペンが裁判で政治的に追放される場合に備え、既に党の新たな顔として準備を整えている。彼は移民問題において硬派な姿勢を維持しつつも、若者層へのアピールを強化しており、ルペンの影響を受けつつも独自の路線を築き上げている。
 RNとしては、ルペンの裁判を「政治的弾圧」として利用し、EUやフランス政府への不信感を煽っている。メディアを通じて「EUが反民主的な手段で国民連合を攻撃している」と主張し、司法制度が政治的に利用されていると強調している。支持者向けの集会やソーシャルメディアで、裁判を「国家による弾圧の象徴」として取り上げることで、体制側への不満を煽り、党への支持を強化している。
 このような反エリート感情の利用は、フランス社会に広がるEUへの不信と結びつき、極右勢力の支持拡大に繋がっている。これは世界的な潮流でもあるだろう。日本においても、既存の政治エリートへの不満は少なくなく、こうした感情が右派的な主張を支持する要因となっている。自分たちは被害者だと煽ることで支持を得る手法は、世界的に共通する現象であり、日本でも同様の動きが見られる。
 政治的不満やエリート批判が右派勢力の台頭を助長し、その支持が強固であることは、現在世界とっても無視できない課題となってきている。今回のフランスの動向から学ぶことは、先進国全体にとっても多いだろう。

 

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2024.11.19

情報環境の変化と市民の選択

 先日の兵庫県知事選挙や米国大統領選挙の結果に違和感を持つ人々が増えている。そして、その原因としてSNSやYouTubeなどのスマホベースのメディアが批判されることが目立つ。若者が新聞を読まず、正しい情報が広まらないことが選挙結果に影響しているという主張である。一方で、それに真っ向からの反論もある。既存メディアも偏見に満ち、真実を伝えていないというのだ。このような対立は、なにか、この問題の重要な部分を捉えていないように思える。

現代の情報環境
 SNSやYouTubeは情報を即時に広範囲に共有できる点で非常に便利であると言っていい。私自身そのなかにすっぽりといる。世界中の出来事やニュースを瞬時に知ることができるという点では、旧来メディアとは変わりないが、その面では、SNSやYouTubeで二番煎じのことが多い。むしろ、旧来メディアでは知ることのできない、奇妙ともいえるディテールがわかることがあるが、もちろん、それが真実であるとは限らない。
 SNSやYoutubeなどのプラットフォームは「広告主義」や「注目話題主義」によって、感情を煽るセンセーショナルな情報が拡散しやすい、というのが問題かもしれない。広告収益を目的とするため、人々の関心を引くために刺激的な内容が優先される。対して、既存メディアは、基本的には、事実確認が比較的しっかりしているため信頼性が高いとも言えるが、「広告主義」や「注目話題主義」である点は変わらない。スポンサーの影響も受けやすい。ジャーニーズ問題など何十年も闇に葬られた。SNSは誤情報や感情的な対立が拡散しやすいとも批判されるが、実際のところ、それほど質的な差はないんじゃないか。

信頼基盤の揺らぎ
 総じて、現代社会ではメディアへの信頼が低下し、人々は自分が信じたい情報だけを選び取る傾向が強まっている。この「信頼基盤の揺らぎ」は社会の分断を助長し、情報の質を巡る対立を深める一因となっている、とも言える。既存メディアの報道に対する不信感や、SNSでの情報拡散によって、人々はより極端な立場に引き寄せられやすくなっているのは、傾向としてあるだろう。特にSNSでは、アルゴリズムが感情的な反応を優先するため、不満や怒りが簡単に広がりやすい。感情的な情報が人々の関心を集めやすく、アルゴリズムによって優先的に表示される仕組みによるのも、最悪。結果、人々は自分と異なる意見に触れる機会が減り、ますます狭い視点に閉じこもる。まあ、そうだ。でも、それも既存メディアの傾向を延長し細分化したらそうなったというくらいものだろう。そもそも、基本的なニュース報道を知りたいなら、NHKで十分だが(私はそうだな)、民放ニュースを見る人いるし、まあ、あとは推して知るべし。

どうしたらいいか
 どうしたらいいのか。まず、情報リテラシー教育の推進とかの正論は、だめだろう。現実的な意味のない理想論だ。 多様な情報源をバランスよく活用する習慣を促進するために、学校教育や地域の活動を通じて、若者から高齢者まで幅広い層に情報リテラシー教育を提供するとか、無理だね。同じような空論が話し合い主義だ。 異なる意見を持つ人々が冷静に議論し、相互理解を深める場を設けるとか。いや、これは、𝕏(ツイッター)を見れば、全然だめだというのが一目でわかる地獄が展開されている。
 私は、広告モデルに依存せず、公共性を重視した仕組みを模索すればいいと思う。広告収益に頼る現在のモデルでは、どうしてもセンセーショナルな内容や注目を集める情報が優先されてしまう。これを防ぐために、公共の利益に資する情報提供のモデルを構築することが重要である。つまり、NHKを活用することだ。NHKが一定枠で、Youtubeや𝕏で報道すれば、いい、まあ、WebでのNHKニュースはかなりそれ近いのだから、あとはYouttubeのような映像メディアに無料で出てくればいい。NHKを収益モデルで考えるのがいけない。NHKがいやだという人は、新しい公共放送をつくろうとすればいいだろう。
 SNSや既存メディアを単に批判するだけでは、現代の情報環境における複雑な問題は解決しない。重要なのは、つまるところ、それを受け取る私たち一人ひとりの姿勢であることは自明だが、そうした理想論をこいていても、なんにも変わらないどころか、悪化するものだ。
 じゃあ、どうしろと。とりあえずブログでも書けよ、である。ブログとSNSやYoutubeとブログになにか本質的な差があるのか。デマを広げるという点では同じとも言えるだろう。ただ、20年以上もブログっていうところにいると、私はここにいるのだ。finalventの声はここにある。
 長いことやってきたから、多くの間違いもそのまま残っている。その点では、私は密かに、NHKや朝日新聞なんかよりも、私のメディアが優れている面はあるかなと思っている。まあ、私なんかどうでもいい。ブログでなくても、Youtubeでもいい。𝕏(ツイッター)でもいいのかもしれない。それらをSNSという括りで見ずに、そこに、あの人がいる、この人がいる。あの人はこう言っている。それだけしかないんじゃないか。
 デマゴーグも同じ地平にいる。それに人気があつまる。しかたないじゃないか。ただ、一人ひとりの「私」の声を消さない、それだけしか、このブルトーザーみたいなデマゴーグたちに立ち向かう方法はないし、私たち自身がデマゴーグである可能性は時間によって裁いてもらうしかない。

 

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2024.11.18

兵庫県知事選挙雑感

 2024年11月17日に行われた兵庫県知事選挙は、これまでの地方選挙の枠を超えた注目を集める選挙となった。不信任決議を受け、メディア的にバッシングされた前知事の斎藤元彦氏が再出馬し、そして民意によって再選を果たすという展開は、政治の混乱とそれに対する市民判断の新しい局面を象徴する出来事となるかもしれない。私は東京都民であり、この話題には関心がなく、メディア報道もSNSの動向も事実上無視していた。しかし、この結果には驚いた。他地域の市民にとっても、この兵庫県知事選挙の結果は地方政治にとどまらず全国的な影響を持つ可能性もあるかも知れない。
 今回の兵庫県知事選挙には過去最多となる7人が立候補し、投票率は前回の41.10%から大幅に上昇して55.65%を記録した。高い投票率とも言えるだろう。その背景には、斎藤氏の再出馬をめぐる議論や、候補者間の激しい政策論争が有権者の関心を引きつけたことがある。そして、結果的には若い世代に「届いた」。

兵庫県知事選挙戦の特異性
 今回の兵庫県知事選挙では、従来の地方選挙にはない独自の要素がいくつも見られた。まず、斎藤氏が無党派層の支持を獲得し、特定の政党の支援を受けずに選挙戦を戦った点である。当初はあたかも独りよがりにも見えた。他方、稲村和美氏や清水貴之氏は、政党や支援団体の後押しを受けながら組織的な選挙戦を展開した。
 SNSがこの選挙戦に与えた影響は、結果から見ると非常に大きかっただろう。斎藤氏は、駅頭での活動や政策をSNSを通じて発信し、それが若年層や都市部の有権者に強い支持を得た。対して、稲村氏も政策の透明性を強調する投稿を行い、支持基盤を維持したものの、無党派層への浸透は、これも結果的にだが、限定的だった。
 SNSの活用は、従来型の選挙戦術に新たな可能性を示したのだが、実態はそれ以上のものがありそうだ。候補者が直接有権者に訴えかけ、共感を得る戦術は、地方選挙のみならず今後の全国的な選挙にも影響を与えるだろうが、懸念されるのは、新しい形のポピュリズムとしての行き先が見えない点にある。

メディアの予測が外れた
 私はこの話題をほとんど無視していたが、それでも、多少は耳に入ってきた。選挙戦序盤、多くのメディアは稲村氏のリードを報じ、斎藤氏の苦戦を予想していた。しかし、実際の結果は斎藤氏の逆転当選となり、メディアの予測が外れる形となった。この背景には、有権者の情報収集手段が多様化し、メディアが情勢を把握しきれなかったことがあるのだが、その内実が存外に難しい。
 メディアの失敗原因は、SNSの影響を過小評価した点が、予測の誤算を招いたことだが。斎藤氏がSNSを駆使して無党派層や若年層に直接訴えかけた結果、メディアがカバーしきれない範囲で支持が拡大したことも明らかになったといえる。また、都市部と農村部、高齢層と若年層といった地域や世代ごとの支持動向の分析が不足していた点も、結果との乖離を生んだ要因である。
 メディアの役割が限界にある。事態は単にメディアの予想が外れたという精度の問題でない。メデイアは今後、有権者が情報を多角的に収集し、メディアだけに頼らない判断をしている現状に対応するため、報道の手法や情勢分析の精度向上が求められるといったレベルの問題ではないだろう。そもそもが、現在メデイアの本質的な問題に関わっているのだろう。そして、その点において、現在メデイアはまだまだ無知の暴走をするのではないか。

日本政治への示唆
 今回の兵庫県知事選挙は、日本の政治にとっていくつかの重要な示唆を与えることになった。今まで、「投票には行きましょう!」とあたかも自勢力への投票増えるかのような薄気味悪い正論をこいていたおもにリベラル派が、ある意味舐め腐っていた本当の無党派層というものに出くわしたと言えるのではないか。無党派層が選挙結果を左右する重要性の意味が変わった。特定の政党に依存しない候補者が有権者に訴求するSNS可能性といった話題ではないだろう。もう少し不気味なにかに思える。
 有権者の情報収集能力や判断基準が問われる、といえばプレーンだが、なにかそうした表現では表せない時代に突入しているようだ。SNSやオンラインメディアが情報の主流となる中、何を信じ、どのように行動するかが政治の行方に直結するのだが、その直結の仕方こそが、実は想定外のことではなかったか。

再選された知事と兵庫県議会
 ところで、当然だが、斎藤氏の再選は、兵庫県議会との関係に大きな課題を残している。不信任決議を全会一致で可決した議会が、再び知事の座に就いた斎藤氏をどう扱うかは今後の注目点である。議会が強硬姿勢を取り続ける場合、政策や予算執行において対立が激化する恐れがある。一方で、有権者の選択を尊重し、建設的な対話を模索する姿勢が見られる可能性もある。
 斎藤氏にとっては、議会との関係修復が県政運営の成否を分ける重要な課題となる。特に内部告発問題の再調査や説明責任を果たすことは、議会の信頼を回復するための必須条件である。県議会もまた、対立をエスカレートさせるのではなく、県民の利益を最優先に考えた対応が求められる。それは、確かにそうなんでしゃらっと議会は風向きを読むかもしれないが、うまくもいかないかもしれない。その場合のプロセスは規定上はあるが、県民に負担をかけすぎる。シーズン2が期待されるといったところか。

 

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2024.11.17

ドイツの問題は解決可能といえば解決可能だが

 ドイツのショルツ首相は11月6日、リントナー財務相の解任をシュタインマイヤー大統領に要請した。これで三党連立政権が崩壊する。ショルツ氏は自身の社会民主党(SPD)と緑の党による少数政権を率い、リントナー氏は連立与党を担う自由民主党(FDP)をそれぞれ率いることになる。ショルツ氏は来年には首相信任決議案を連邦議会に提出する方針も表明している。これが否決されれば、来年9月、総選挙が半年前倒しされることになる。

ドイツ危機の現状
 最新の経済予測では、ドイツの2024年の国内総生産(GDP)は0.2%減少する。これは1990年のドイツ統一以降、2度目の連続縮小を意味する。エネルギー供給の不安定さや中国市場の需要低迷が、ドイツ経済のさらなる押し下げ要因となっていたのだ。また、ドイツの自動車産業は電動化への対応が遅れ、中国企業の市場侵食が進んでおり、産業政策の見直しが求められている。国防費の拡大も議論されており、ショルツ政権は1000億ユーロの特別調達基金を創設したが、2027年には基金が底を突く。その追加資金の調達方法や長期的な投資計画について議論が続いているが目処はない。
 オラフ・ショルツ首相の連立政権は、予算赤字と連立内の対立により機能不全に陥った。自由民主党(FDP)は財政規律と減税路線を主張し、対する緑の党は環境投資を求め、ショルツ首相はこれらの調整に苦慮している状況である。日本にとっても他人事ではすまない予感がする。ドイツ経済では、エネルギー価格の高騰が主要産業に打撃を与え、予期せぬ脱工業化が進行中である。自動車や化学、エンジニアリングといったドイツの基幹産業が危機に直面し、「鉄壁の経済大国」としてのドイツの地位が揺らいでいる。

危機の理由と背景
 ドイツの危機を招いた背景には、いくつかの複合的な要因がある。まず、ドイツはウクライナ情勢を受けてロシア制裁を支持し、ロシアからのエネルギー供給を失ったことで、エネルギー価格が高騰した。特に天然ガスへの依存が高かったため、制裁によるエネルギーコストの増加が産業に打撃を与え、経済の停滞が顕著化した。
 メルケル政権は安定を最優先に掲げ、リスク回避と現状維持を続けた結果、産業の革新や競争力の向上が後回しにされ、経済システムの硬直化が進んでいた。そもそもドイツはEUの中での政策調整に依存するあまり、独自の政策を展開しにくい。EUの規制と方針がドイツ国内の政策決定を制約し、迅速な経済対策を講じる能力が制限される。また、EUの推進する社会政策が経済改革の障害になっている。
 ドイツの政治界と産業界には過去の成功を引き継ぐ形で登用された指導者が多く、新しい挑戦に対応するビジョンや柔軟性が欠如している。ドイツはかつての「第三の経済大国」というイメージに固執し、自国の経済力が安泰であるとの過信があり、裏目に出た。実際には競争力が低下し、経済構造が現在世界には適応できていない。

解決案?
 ドイツの危機に対する斬新な解決策がある。EUから離脱することだ。これで経済政策の柔軟性を取り戻し、自国の産業構造を迅速に立て直すことができる。EUの影響を排除し、ドイツ独自の経済戦略を展開することで成長を図るのである。エネルギー供給の安定化のためは、ロシアとの関係を再構築するといい。ロシアからの安価なエネルギー供給が再開されれば、産業界は回復に向けた猶予を得ることができる。
 現在の硬直した政治構造を刷新し、柔軟かつ戦略的に危機に対応できる新しいリーダーシップを導入することも求められている。過去に成功を収めた「東方外交(Ostpolitik)」のように、ドイツが柔軟な政策転換を行える環境を整えるといい。1970年代に西ドイツがソビエト連邦との関係改善を通じて東西冷戦の緊張を緩和し、経済成長の基盤を築いたことが挙げられる。
解決への困難
 そのように、単純で明白は解決策が提示できるのに、実現には多くの困難が伴う。なんといっても、EUからの離脱には強い抵抗が予想される。経済的な依存関係も深いため、実行可能性は低いかもしれない。実際のところ、EUに不満があっても、離脱までには国内の政治的支持も不足していて、英国のような無謀な独立路線を進めるのはドイツ的な気風に合わない。合わない?合うかもしれない、物騒な歴史があったな。ロシアとの関係修復は、誰が猫の首に鈴を付けるか問題に近い。
 ドイツの政治指導層は現状維持を重視する傾向が強く、根本的な変革に対する抵抗が予想される。それ自体が危機の本質も言えるのだが。
 

 

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2024.11.16

レカネマブについての英国NHSの決定

 アルツハイマー病治療薬「レカネマブ」が日本で保険適用となり、患者や医療関係者の間で大きな期待が寄せられている。しかし、英国の国営医療サービス(NHS)は、すでにこの薬の提供を見送る決定を下している。この対照的な判断は、新薬の導入を巡る重要な課題を浮き彫りにしている。

英国NHSが示した懸念と臨床試験の結果
 日本では2023年12月、レカネマブの価格が年間約298万円に設定され、保険適用が決定された。新潟大学脳研究所の池内健教授は「適切な方にこの薬を届けることができるようになる」と期待を示し、若年性認知症の家族会からも前向きな声が上がっている。しかし、この決定は医療財政に大きな影響を与える可能性はある。日本での市場規模は1,500億円を超えると想定され、社会保険料の負担増加が懸念されている。高齢化が進む日本において、この新薬の保険適用が医療保険制度に与える影響は看過できない問題となっていくだろう。
 そうしたなか、英国の医薬品評価機関NICEによる評価は、日本での期待とは著しく異なるものだった。NICEが最も重視したのは、レカネマブの効果が「非常に限られたもの」であるという点だ。この新薬は病気の進行を4〜6ヶ月程度遅らせる効果しか確認されておらず、完全な進行停止は不可能とされている。さらに懸念されたのは、臨床試験で明らかになった新たな問題である。試験では、アミロイド斑を除去した後に脳の容積が減少することが報告されている。この現象の原因は現時点ではっきりとは分かっておらず、さらなる研究が必要となる。また、個別の治療費の問題も深刻だ。年間約2万6500ドル(約300万円)という高額な治療費に加え、定期的な脳の画像検査や継続的なモニタリングにかかるコストを考慮すると、費用対効果の面で大きな課題がある。

深刻な副作用リスクと投与上の課題
 レカネマブの使用には重大な安全性の懸念もある。最も深刻な副作用として脳出血のリスクが指摘されており、臨床試験中には重篤な脳出血による死亡例も報告されている。特に、特定の遺伝子型(ApoE4)を持つ患者や抗凝固薬を服用している患者には使用が制限される。また、ARIA-H(脳内出血)やARIA-E(脳浮腫)といった有害事象も報告されており、慎重な経過観察が必要とされている。
 投与方法の面でも大きな課題がある。レカネマブは2週間に1度の点滴投与が必要で、経過観察を含めると1回の治療に約2時間を要する。高齢の患者にとって、この頻繁な通院は大きな負担となる。医療機関側も、定期的な治療スペースの確保に苦心している。特に高齢化が進む地域の医療機関では、限られた医療資源の中での治療スペース確保が深刻な課題となっている。

日本の医療システムが直面する実務的課題
 現在の日本の報道では、レカネマブの導入に関する期待が前面に出ている一方で、実務的な課題についての議論が圧倒的に不足している。特に医療提供体制の整備について、より具体的な検討が必要であるはずだ。定期的な画像診断の実施体制、副作用モニタリングのシステム構築、医療機関間の連携体制など、安全かつ効果的な治療を提供するためのインフラ整備が不可欠である。特に、2週間に1度という高頻度の治療スケジュールは、医療機関の受入能力を圧迫する可能性が高い。
 費用対効果の検証も重要な課題となる。年間約298万円という治療費に加え、定期的な検査や経過観察にかかる費用、そして医療機関の体制整備に必要なコストなど、総合的な経済評価が必要である。市場規模が1,500億円を超えると予測される中、医療財政への影響を慎重に見極める必要がある。

期待と現実のバランスを求めて
 英国NHSの決定は、レカネマブ導入を巡る複雑な現実を私たちに突きつけている。脳容積の減少という予期せぬ影響の発見や、深刻な副作用の存在は、新薬の導入に際して慎重な判断が必要であることを示している。
 日本においても、薬剤の効果の限界や実施上の課題について、より冷静な議論を重ねる必要があったはずだ。それは決して新薬への期待を否定するものではなく、むしろより安全で効果的な治療の実現に向けた建設的な一歩となるはずだった。
 医療の進歩は、残念ながらというべきか、常に期待と現実のバランスの上に成り立つ。レカネマブを巡る日英の対照的な判断は、新薬の導入において私たちが何を重視し、どのように医療システムを構築していくべきかという本質的な問いを投げかけるはずのものだった。安全性の確保、医療体制の整備、そして持続可能な医療財政の維持という複数の課題に対して、バランスの取れた解決策を見出していくべきであった。手遅れだろうか。たぶん、そんなことはなく、現実はきっとここに帰って来るだろう。

 

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2024.11.15

スリランカの現在

 スリランカは現在、政治と経済の大きな転換点に直面している。1948年の独立以降、シンハラ人とタミル人の間で続いてきた民族間の対立が国家運営に大きな影響を与えてきた。特に1983年から2009年にかけての内戦は、10万人以上の犠牲者を出し、社会に深い傷を残した。しかし最近、この対立構造が変化しつつあり、新たな政治的再編成が進行している。2024年の議会選挙をはじめとする最近の動向と、それに伴う政治文化の変革、さらに経済危機と国際支援の影響についてまとめておきたい。

2024年の議会選挙
 2024年11月14日に行われたスリランカの議会選挙は、国民人民権力党(NPP、マルクス主義を基盤とする政党)とその指導者アヌラ・クマラ・ディサナヤカ大統領の台頭を象徴するものであった。この選挙は、従来の政党が支配してきた政治的風景に対する挑戦として位置づけられていた。ディサナヤカ大統領は2024年9月21日に大統領に選出されており、わずか2か月後の議会選挙でその政党が国民の信任を得られるかが注目されていた。
 選挙の結果、NPPは全国22の選挙区のうち15選挙区で勝利を収め、特に北部のジャフナ地区での勝利が大きな注目を集めた。ジャフナ地区は長らくタミル人の支持基盤であったが、NPPの勝利は伝統的なタミル人政党の影響力が大きく低下したことを示している。この結果は、民族的な枠組みを超えた政治の再編成が始まっていることを強く示唆している。
 また、NPPの勝利は、ディサナヤカ大統領のリーダーシップが新たな政治のダイナミズムを象徴していることを示している。ディサナヤカ大統領は、透明性を重視した政策決定プロセスや、異なる民族との積極的な対話姿勢を通じて信頼を築き、社会正義を推進してきた。また、彼は経済改革を迅速に進めると同時に、国民の声を尊重した政治運営を行うことで、広範な支持を集めた。このような動きは、スリランカの政治に新しい風を吹き込み、腐敗や不公正への厳しい批判が続いている状況下で、国民に新たな希望を与えている。

政治文化の変化
 NPPの台頭は、国民の腐敗と特権の打破を求める声に応えるものであった。ディサナヤカ大統領は、選挙での勝利を背景に、腐敗追及と不正に取得された資産の回収を公約として掲げた。スリランカにおける腐敗問題は長年にわたり政治的な足かせとなっており、その解決は国家の発展に不可欠である。
 NPPの政策には、社会的包摂と経済的公平性の実現が含まれていて、これまで社会から取り残されていた層にも恩恵が行き渡ることが期待されている。政治文化の変化は、単に政治家の姿勢の変化だけでなく、社会全体の意識の変化をもたらし、特に若者の間でNPPへの支持が高まっており、これは新しい世代が古い政治の在り方に対して異議を唱え、変革を求めていることを示している。

国内対立の歴史
 スリランカは1948年の独立以来、シンハラ人とタミル人の間で続く深刻な対立に直面してきた。この対立は1983年から2009年にかけての内戦を引き起こし、10万人以上の犠牲者を出した。内戦後も、タミル人地域の社会経済的復興は進まず、政治的不安定が続いていた。この歴史的な背景は、スリランカの現代政治における重要な要素であり、民族間の不信感は依然として根強い。内戦がもたらした影響は経済面にも及んでいる。内戦によりスリランカの経済は約200億ドルの損失を被り、特にタミル人地域のインフラ整備や教育、医療などの基本的な社会サービスの遅れが続いている。この結果、タミル人地域の失業率は全国平均を上回り、これが政治的不満を引き起こしている。新政権の下で、これらの地域に対する支援がどのように進むのかが、今後の安定にとって鍵となるであろう。

中国依存と経済危機
 スリランカは内戦終結後、中国から80億ドル以上の融資を受けてインフラ開発を進めてきた。しかし、多くのプロジェクトは採算性に疑問があり、特にハンバントタ港は約15億ドルの融資で建設されたものの、運営不振により2017年に中国に99年間リースされる事態となった。このリースは、スリランカが融資返済に行き詰まり、中国の国営企業に運営権を渡す形で締結されたものである。これにより中国への経済的依存が国の主権に及ぼす影響が懸念されるようになった。中国からの融資による大型インフラ開発は一時的に経済成長をもたらしたが、その背後には持続可能性の問題が存在していた。そして、2022年には外貨準備の枯渇により債務不履行(デフォルト)に陥り、深刻な経済危機に直面した。これにより、多くの国民が生活困窮に追い込まれ、政府に対する不信感が高まった。特に、中国からの融資による負債の増加が、国の経済に負の影響を及ぼしていることが指摘されている。スリランカは、インフラ開発における中国への依存から抜け出し、経済的により自立した道を模索する必要がある。

IMF支援と課題
 経済危機を受けて、スリランカは国際通貨基金(IMF)から29億ドルの融資を受けることとなった。しかし、IMFが求めた条件には増税や公共料金の引き上げといった厳しい緊縮策が含まれており、国民生活への影響は甚大である。一般市民の生活は一層厳しいものとなり、政府に対する反発が強まった。そこでディサナヤカ大統領は当初、これらの条件に反発した。しかし、現実的な政治運営の中で合意を順守する姿勢に転じた。この柔軟な政策転換が国内外から注目されているが、緊縮策による社会的不満が今後の政権運営にどのような影響を与えるのかは依然不透明である。また、IMFの支援を受ける中で、また、中国への過度な依存を是正しながら、どのようにして持続可能な経済成長を達成するかも大きな課題となっている。
 先行きには懸念材料も多いが、現状では、よい方向に向かっていると言えるだろう。

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2024.11.14

国際政治学者のジョン・ミアシャイマーによる国際情勢

 国際政治学者のジョン・ミアシャイマーが10月31日、ケンブリッジ・ユニオンソサエティ討論で米国の衰退と多極化する社会にあって西側諸国はどうあるべきかという弁論をしていた。とても簡素にまとまっていて、国際政治や日本の安全保障に関心ある人はこれ、見でおいたほうがいいと思うと思った。ついでに、読みやすく書き起こしたので付けたしておく。
 要点を簡単にまとめておくと、ミアシャイマーによれば、米国の国力は現在低下し、世界は一極体制から多極体制へと移行しているが、米国や英国、欧州にとって米国のさらなる衰退は望ましくない。米国が強力であり続けることが、国際社会における安全保障を維持する最善の方法であるとしている。具体的には、国際政治において、ある国の国力がなければ他国からの脅威にさらされやすくなる。このため、米国が「最強であり続けること」が各国の安全確保に必要だと述べている。また、中国は、「屈辱の世紀」の反動で、アジアでの支配的地位を求め、米国のアジアからの撤退を望んでいると指摘している。そのなかで、米国が弱体化すれば、東アジアでの中国に対する脅威への対応が欧州よりも優先され、資源や軍事力が東アジアに集中する必要が生じし、欧州からの米軍の撤退が現実味を帯びる可能性がある。しかし、欧州の安定は米国の軍事的存在によって支えられているため、米国がその力を維持することが重要であると結論付けている​
 ミアシャイマーは日本については言及していないが、彼のの主張を踏まえると、米国の力の低下は東アジアに位置する日本にとっても重大な意味を持つことが明らかだ。米国にとっては、ロシアよりも中国の台頭のほうが深刻な脅威であると見なされており、米国が中国に対抗するために東アジアへの軍事的・経済的資源を優先的に投入する必要が生じている。その一方で、ロシアの脅威が低下するわけでもなく、米国が欧州の安定維持にも注力せざるを得なくなれば、東アジアにおける安全保障へのリソース配分が制約され、日本の安全保障に対する米国の支援が相対的に弱まる。当然、日本は防衛負担の増加に直面し、中国の影響力が拡大するなかで自主的な防衛力の強化や、他のアジア諸国との安全保障協力を模索する必要性に迫られる。米国の影響力が低下すれば、地域のパワーバランスを大きく変動させ、中国が東アジアでの支配的地位を確立しようとする動きを強める。日本にとって米国の衰退と多極化世界は、安易に受け入れられるものではない。

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Cambridge Union Society Debate Info:
Professor John J. Mearsheimer speaks as the second opposition for the motion in the Debating Chamber at 8pm on Thursday 31st October 2024.

https://www.youtube.com/watch?v=8Fxl5N73Q8o

John J. Mearsheimer:

Thank you very much for the kind introduction and for inviting me here tonight. There’s no doubt that the United States has declined in recent years. We’ve moved from a unipolar to a multipolar world, and in terms of relative power, China and Russia are now much stronger compared to the United States than they were during the unipolar moment. The question we’re addressing tonight is whether we should welcome further decline in America’s position in the world. My argument is that it’s not in the interests of the United States, Britain, or Europe to welcome a further decline in American power. Indeed, it was never in our interest to welcome any decline in American power. From America’s perspective—and Europe’s too, including Britain—it would be best if we still lived in a unipolar world.

Now, before I dive into my main argument, I want to make two preliminary points. First, as Michael mentioned in his opening comments, whether American decline is seen as good or bad depends heavily on who you ask. From a Russian, Chinese, North Korean, or Iranian perspective, American decline might indeed look favorable. But tonight, I’m making the case that from the United States', Britain’s, and Europe’s points of view, American decline is not beneficial.

Secondly, I want to make clear that I agree with some criticisms of the United States that have been voiced tonight. For example, Mary mentioned certain issues; I disagree with her about the Ukraine war, but we both agree that the situation in Gaza is a tragedy, a genocide in which the United States is complicit. So, my argument here is not that America is a noble or virtuous nation that does nothing but good worldwide. I recognize that the U.S. has made its share of mistakes. My position is more practical: as a realist, I’m focusing on power politics, not moral virtue.

Let me start with the American case, and then address the European case, focusing on Britain as well. We live in a world where there’s no higher authority, and in such a world, where no authority exists to protect you, the best way to ensure survival is to be powerful. As we used to say on New York City playgrounds when I was a kid, “You want to be the biggest and baddest dude on the block.” Not because you want to harm others, but because being the biggest and baddest is the best way to protect yourself.

So, speaking as an American, I want the United States to be a particularly powerful state because that’s the best way to maximize security. If you’re weak, you become prey for other states. Look at China’s experience: the “century of national humiliation” from the 1840s to the 1940s, during which they were weak and fell victim to other great powers. China learned from this, and today, they’re determined to avoid that kind of vulnerability. The Chinese want to be the dominant power in Asia and not allow the United States to surpass them. But as an American, I want to ensure that we are more powerful than China. I want the United States to remain the most powerful country on the planet.

Now, think about NATO expansion into Eastern Europe. Russia was strongly opposed to NATO expansion since the beginning. In 1999, during the first wave of NATO expansion, Russia protested, but we pushed it through. In 2008, at the NATO summit in Bucharest, Russia made it clear they didn’t want Ukraine to join NATO, but we disregarded their concerns because they were weak. Had Russia been strong, there would have been no NATO expansion.

As an American, I want the United States to be the biggest and baddest force because that’s how we ensure our security. I recognize that we sometimes act in ways that are controversial, but the priority must be security through strength.

Now, let’s discuss why Europeans, including the British, should want a strong America. The answer is simple: we are committed to being in Europe, and our presence acts as a stabilizing force. The reason we didn’t see conflict in Europe during the unipolar moment or the Cold War was because of the American presence. We are the night watchman of Europe. Europeans may not want us to leave, and every European politician understands that our presence is crucial. If America weakens, we will face increased pressure to pivot to East Asia, where the threat from China is significant. This would risk the stability of Europe.

I’ve long argued that our presence in Europe is important, but that presence is not guaranteed. Should a crisis arise in East Asia, the United States will have to prioritize its resources. Europe needs to understand that a weaker United States could mean a reduced presence in Europe. Therefore, my bottom line is that it is in the interest of Europeans, as well as Americans, to hope that the United States remains wealthy and powerful enough to keep forces in Europe, the Middle East, and East Asia.

As for whether I believe only Western states deserve security, the answer is no. I recognize that from China’s perspective, it is in their best interest for America to decline, and for China to be the dominant power in East Asia. In Beijing, I told Chinese officials that, were I Xi Jinping’s national security adviser, I’d recommend working to push the United States out of East Asia. China’s interests are valid, but as an American, I argue for maintaining American power for our security and that of our allies in Britain and Europe.

Thank you.

 

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2024.11.13

米国民主党の騒がしい日々

2024年の大統領選挙において、民主党は、あれから8年ということか、再び「自己崇拝」の罠に陥り、壮大な内紛を展開している。選挙戦の最終段階になってようやく党内で激しい議論が繰り広げられ、資金の使い方や広告戦略の失敗、そしてリーダーシップの欠如について多くの異論が噴出した。誰が責任を取るべきかについても各派閥で意見が分かれ、明確な合意が得られない。まあ、得られるわけもないが。このような内部の対立はメディアにも取り上げられ、民主党内の結束がいっそう揺らぐ結果となる。内部対立は深刻化する。民主党やその支持者は自らを「知的で正義」とか「公平で倫理的」とか見なし、他党との差別化を図ってきたが、その結果として内部で愚かな争いを続け、ドタバタを招いている。このような矛盾した行動は誰の目にも明らかであり、まさに、ありがちな滑稽さが浮き彫りとなった。

民主党じゃないだろのバーニー・サンダースは、民主党が労働者階級を見放したことが敗北の原因であると主張し、一方で不敗のナンシー・ペロシは、大企業の影響を受けすぎているとの批判に反論していた。また、オバマ上皇、いやいや、元大統領はバイデン王の撤退を促すなどの関与を小出しに見せたが、これが逆に党内の対立を激化させていた。主要メンバーたちは互いに責任を押し付け合い、選挙の敗北が「誰が悪かったか」を証明するための新たな舞台は、幕間狂言のように楽しい。次の幕が上がると、それなりに信じられるならばだが。内紛によって、民主党の結束はますます崩れていくのは、案外悲劇の始まりかもしれない。とりあえず源平合戦だ。ハリス陣営はバイデンを早期に「ベンチ」に追いやったことが敗因と声を上げるが、バイデン支持者からは「彼を下げた結果負けたのだから当然だ」と声があがる。

バイデン撤退の遅れと党内の混乱

バイデン大統領の撤退の遅れは、選挙戦略に大きな混乱をもたらした。早期に撤退していれば、民主党にとってどれほどの救いとなったかは計り知れない。ナンシー・ペロシもこれを批判しており、オープンな予備選が行われなかったことが大きな問題であったと指摘している。だが、バイデンは「タイミング」という言葉の意味を誤解したまま、その場に居座ることを選んだ。まあ、これにはもっと失礼な説明も与えることは可能なような気は駿河の茶の香り。

この撤退の遅れに関して、オバマ元大統領の関与も問題となった。オバマの元顧問たちはメディアを通じて、間接的にバイデンに撤退を促し、間接が陰険な効果を生んで、党内でバイデン支持派とハリス支持派の間に亀裂を生じさせた。撤退を進める過程で内部メモや公開声明を通じて圧力をかけたことも、党内の対立を助長し、それがハリス陣営をさらに弱体化させた。ということで背中をせっつかれたオバマがガウンを着て「救世主」として介入しようとしたが、うーん、やる気なかったでしょ、最初から。

労働者階級の離反とその影響

バーニー・サンダースは、民主党が労働者階級を見放し、大企業に迎合した結果、支持を失ったと批判している。まいどのことだけどね。「労働者の党」であるはずの民主党が、大企業との蜜月関係を優先し、労働者層との絆を失っていることは、まさに党のアイデンティティを揺るがす事態であるとかね。実際、労働者階級の不満は、サンダースが指摘する通り非常に深刻であり、「最低賃金の引き上げすら議会に持ち込むことができなかった」のは事実なんだけど、まあ、いつものことだよねという感じだ。自販機がなんか喋ったとして聞き入る人はないようなものだけど。

労働者階級からの支持を失ったことが、トランプの勝利にどれほど寄与したか。嘆息。民主党が労働者を取り戻すためには、まず彼らの目線に立って政策を考える必要があった。実際に彼らが選んだのは知的エリートの自尊心だった。例えば、労働者階級の切実な経済問題に対して、党のリーダーたちは大企業との協力関係を強調し、複雑な経済政策の重要性を説いた。頭のいい人の典型的なおバカな行為なんだがなあ、それ。このような姿勢は、労働者層からは現実から乖離したものと見なされ、彼らの生活に直接寄与する具体的な行動が欠けていた。この労働者層の離反がもたらす長期的なリスクについて、果たして党内でどれだけ真剣に議論されたのだろうか。まあ、議論はするだろう。対処はというと、まあ、わからん。

資金管理の失敗とその影響

カマラ・ハリス陣営は1億ドル以上の選挙資金を投入したが、その結果は期待を大きく裏切るものだった、いや、まさに期待通りだった。具体的には、ターゲティングの不十分な広告キャンペーンや効果的でない地域への資金投入した。だって、お金あるもん。特に、テレビ広告に対しては莫大な資金が投入された。そのメッセージはハリス支持層への共感を引き出せなかったが、まあ、そんなものだよ。選挙資金とみれば多くが無駄に費やされた。各地で開催されたキャンペーンイベントは過剰な演出に資金が費やされた。集客が少なく期待された影響を生み出せなかった。いいじゃん。そんなものだよ、地下アイドルだって。

「1億ドルを無駄にした」というエピソードは、民主党の資金管理の失敗を如実に物語っている。というか、結果論なんだけどね。結果を見るまで、誰も考えなかったのか。ハリス陣営は莫大な資金をテレビ広告に投入したが、ターゲティングができず、支持層にリーチすることができなかった。逆がトランプ陣営だった。選挙イベントの過剰な演出や、支持基盤とは関係の薄い地域でのキャンペーン活動に多額の資金が浪費されたが、まあ、それは悪いことでもないだろう。最終的に勝利につながる結果を生むことができなかっただけのことである。ハリス陣営に参加していた者からは「どうして1億ドルも使って勝てなかったのか?」という怒りの声が上がったが、使ったからだよ。なんらかの経済効果はあったはずだよ。

資金を集めすぎること自体が問題なのだ。大金を手にすると、その使い道を見失い、無駄遣いに走るのは、民主党に限った話ではない。しかし、それを見ている国民にとっては、まるで「滑稽なドラマ」として映っていたに違いない。滑稽に思わなかったのはトランプ陣営くらいだろう。

「滑稽なドラマ」といえば、ジョシュ・シャピロが副大統領候補として適任であったという声があったにもかかわらず、ハリスはティム・ウォルツを選んだとかもそうかも。シャピロはペンシルベニア州知事としての実績があり、その州での高い支持率から、重要なスイングステートであるペンシルベニアでの勝利が期待されていた。一方で、ウォルツの選定に対しては、彼の知名度の低さや、大規模な全国選挙での経験不足が批判されていた。この選定ミスが選挙結果に悪影響を与えた、かもしれない。。まあ、そうでもなかったかもしれない。結果が出なかっただけのことだよ。

 

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2024.11.12

政治家の不倫と国民性について

 お笑いを一席。私、67歳になるんですよ。このブログを始めたころは、45歳。ありゃ、あっという間に22年です。四半世紀、近い。長い年月です。ですからね、ブログ始めたころ、よく言われたもんでしたよ、「お前なんか死ねばいいのに」ってね。まあ、日本もまだまだ野蛮な時代でしたね。新宿から皇居までずっと焼け野原。ぐるーっと。で、時は流れる。令和の6年。神様っていうのは、時間だけは公平なんですな。私に罵詈雑言なげた人も死んじゃうもんです。いや別にそうでなくても死んじゃいますし、私も早晩死んじゃいますよ。おっと、そんな暗い話をしたいんじゃありません。話は、不倫です。どっかーんと不倫。ふーりん火山、なんて。おや、笑うかたもいらっしゃらない。

 いや、玉木のだんなの不倫の話。国民民主党の代表、玉木雄一郎さんですな。イケメンで知的な印象の政治家さん。55歳。なんか、とんでもないスキャンダルで世間を騒がせてると小耳に挟みまして、これはモリカケの呪い返しかと、ワクワクテカテカ、覗き込んだ。ゲス、ゲスです。一番の興味は、お相手。誰?なんでも、お相手は元グラビアアイドルで、高松市の観光大使を務める美女らしい。ああ、なんか昭和の芳醇な香りがプンプンしてきますなぁ。だって、考えてもみてよ。玉木さんといえば、東大法学部を首席で卒業して、ハーバード大学院で学んだエリート中のエリート。財務省のキャリア官僚としても鼻高々。そんな玉木さんが、選んだ、不倫のお相手。見ました。見ましたとも。びみょー! いや、素敵ですよ。でも、これかい? いや、なんでしょ、びみょー!大切なので二度叫んでしまいました。これは、彼女さんの内面に惚れ込んだ。かな?で、ゲスのみなさんが関心を持つ学歴は? というと、学習院大学、おっとぉ、やべーものを踏んじゃいました、愛子さまのご先輩。しもじもは立入禁止区域かもしれません。

 いやもっと楽しく、ふ・り・ん、を語りたいものです。皆さん、ぐんと、世界に目を向けてみましょう。政治家の不倫なんて、グローバルスタンダードに、ザラにあるんですよ。ザラですよ。ユニクロじゃない。で、まずは、例えば、我らが軍事同盟国、頭があがりませんな米国というと、平成20年。なにも元号で言うことはない?いいじゃないですか、平成の闇こそ私たちの身近な歴史。ニューヨーク州知事のスピッツァーさんは、高級娼婦クラブの常連客だった。バレたあ。辞任したあ。で、皆様の前で謝罪。玉木さんみたいに、立派なカンペなんか持ってないですよ。かんぺがバレたらみっともないじゃないですか。で、スピッツアーさん、妻のシルダ・スピッツァー氏が隣に立ちっての謝罪会見。米国では、不倫の謝罪会見には妻を同席させるのが定番なんです。ぐっと手もつなぐ。ジョン・ミルトンの失楽園の最後のシーンのようですな。"They, hand in hand, with wandering steps and slow, Through Eden took their solitary way."「二人は手を取り合って、さまよい歩きながら、エデンを静かに去っていったのです」ってな。『失楽園』ですよ。あれです、映画でご覧になったかたもいるでしょう。違います。なんの話でしたっけ、おっと、夫の不倫を許す寛容な妻です。夫婦はそうであるべきだ。米国文化に精通している玉木雄一郎も、え?妻さん、同席しない。そうなの?

 米国の不倫で私が泣けたのは、CIA長官のデビッド・ペトレイアス。イラク戦争の英雄にして情報機関のトップ。ネオコンの重鎮。これが、愛人と文通していた。文通、いいですね。今どき、文通って知ってますか。知らない? このこそばゆい思春期が文化が廃れて嘆かわしいですよ、私は。で、ペトレイアス君、文通から恋。その、そもそもお相手が、彼の自伝のライターで、ライターっていうのは、おっとと、ライターの本性なんか面白くありません。でまあ、恋です。それで、中学生では思いつきそうもない手法で文通した。送信しゃなきゃバレないと思った。IDパスワードを愛の証で一体にして、Gmailの下書きフォルダを使ってまして、文通。バレまーした。バレるだろ。知性と愚かさのマリアージュという稀有なほどの凡庸さではあったはといえど、この不倫は、なんだろ、涙を誘うような阿呆感が漂う。

 米国の話は飽きました。では、おフランス。おフランスには、独特のarrogance、おっと、日本人だから、RとLを間違っちまったぜ、élégance、がありますな。「不倫は文化」です。サルトルの言葉でしたっけ。ミッテラン大統領は不倫がバレた時は、『Et alors?(で、それで?)』の一言で片付けた。オランド大統領に至っては、ヤマハの排気量50ccで、颯爽と女優の愛人宅に通う姿をスクープされても、それは単なる笑い話で終わった。オワタ。笑い話。はは。面白い。エスプレリザンス。セ・シェー。

 ドーバー海峡をはさんで、お次はイギリス。ホラーのお国柄。背筋が凍りますよ。ときは、1963年、プロフューモ事件というのがありましてね。高校の世界史で学びましたね。学んでない? 歴史総合、なんですか、それ。でま、当時の英国の陸相のプロフューモさん。クリスティン・キーラーという女性とスキャンダルを起こした。で、そのキーラーさんは、ソ連の武官とも関係があったんです。スパイ映画じゃあるまいしって、スパイ映画を地でやっていた。事実は小説よりも奇なり、ってね。原典はご存知。英国の詩人バイロンの未完の風刺詩「ドン・ジュアン」の一節でして、原文は”This is strange, but true. For truth is always strange. Stranger than fiction”、「そは奇妙なりしも事実なり。真実なるものは常に奇妙なり、虚構よりも、はるかに奇妙なり」と。いけません。つい教養が滲んでしまいます。

 スパイといえば、スパイファミリーじゃないけど、東ドイツの秘密警察シュタージの話をしましょう。「東ドイツ」いいですな。今の若いもんは知りません。せめて4・3の『マスターキートン』くらいは見てもらいたいものですが、これは『スパイファミリー』のネタ元とも言えますが、東ドイツは、西側の政治家の不倫を監視・記録することに血眼だった。彼らは「ロミオ作戦」と呼ばれる美男子スパイを、西側の女性政治家や要人の妻に近づける工作まで行っていた。いや、まじだって。スパイものは、そんな昔に終わったわけでもありません。2017年のノルウェーでは、漁業相のペル・サンベルグが、亡命希望のイラン人女性との不倫疑惑で辞任した。彼女がイランのスパイだった可能性も指摘された。なんともイランお世話だ、ええ、オチがおろしいようで、ってまだやるの?次どこ?オーストラリア。

 さて、オーストラリアの話は、またスケールが違いますな。副首相のジョイスさんが不倫で辞任に追い込まれた。が、なんと、不倫相手と事実婚して副首相に返り咲いた。最後に愛は勝つんです。ってか。玉木さん、この手があるんですよ。「やり直し」を許容する寛容さが国民民主党に求められるものです。

 不倫は文化ですが、欧米だけが不倫こいているなと思うなよ。インドネシアでは、2011年、与党幹部のアニス・マッタが、国会内での不倫現場を警備員に目撃されましたが、彼は「祈りを捧げていた」と主張した。そうなんじゃないか、疑うなよ。神様というものは信じなけれいけません。翌年、2012年、台湾国民党の林益世秘書長が、愛人との関係とそれに絡む汚職で逮捕された。彼は記者会見で、私は道徳的に問題のある人間ですと涙ながらに告白した。いいですね。この自白の強要。ネットフリックス『三体』見ましたか、あの冒頭。あれこそ中国。造反有理。中国が台湾統一を望むのもなんかわかる挿話ではありませんか。そして、真打ち、ロシアのプーチン大統領。2008年、彼は体操選手のアリーナ・カバエワと不倫にあるとの報道した。あるわけないだろ。プーチンだよ。あるわけない。プーチンだよ。どこが報道したんだ、ん?そんな新聞社は、ない。消えてしまいました。プーチンにたてつこうなんて百年早いです。

 こうして不倫の世界をぐるーっと見渡すと、日本はなんといっても侘び寂び。『風姿花伝』の趣きさえあります。「秘すれば花なり、秘せずは花なるべからず」、バレるようじゃいけません。不倫は秘すれば花。これが幽玄。不倫は、幽玄実行と申しまして。

 さてさて、私、誰か忘れている。マクロンさんでしょうか。あれはいけませんな。あんな感じなんですが、おっと、思い出した。トルドーの息子さんだ。彼、不倫スキャンダルがないんですよ。イケメンでリベラルなのに、不倫がない。イケメンでリベラルなのに、不倫がない。なんですか、そんな例外作っていんですか。

 てな、わけで、政治家の不倫は、世の常です。国民民主党の代表、玉木雄一郎さんが例外というわけではありません。男も女もチャンスがあればやってみたいものです。旧約聖書の伝道の書に「何事にも時があり、天の下の出来事にはすべて定められた時がある」といいます。泣くに時があり、笑うに時があり悲しむに時があり、話すに時がある。時間です。お後がよろしいようで。

 

 

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2024.11.11

台湾をめぐる有益な膠着維持

 台湾海峡を取り巻く緊張は、単なる地域紛争の枠を超えて、日本を含むグローバルな地政学的・経済的影響を持つ重大な国際問題へと発展している。特に注目すべきは、関係国による「曖昧戦略」が織りなす複雑な力学的均衡である。この戦略的曖昧性は、各国が直接的な軍事衝突を回避しながら、自国の利益を最大限確保しようとする現代の安全保障政策の縮図とも言える。
 中国の習近平国家主席は、台湾統一を中国共産党の憲法に明記し、2049年までの達成を目標として掲げている。しかし、2024年10月、台湾の頼総統は建国記念日の演説で、台湾は「主権国家」であり、中国が「母国」となることは「絶対に不可能」と明確に述べた。これに対し中国は「Joint Sword-2024B」などの軍事演習で圧力をかけているものの、全面的な軍事行動には踏み切れていない現状がある。その背景を現時点で再考する必要がある。

習近平政権の多重ジレンマ
 習近平国家主席は台湾統一を「国家の再興」の本質と位置づけている。しかし、武力による統一は、軍事的、経済的、そして政治的な観点から、予想以上の高いコストを中国に強いる可能性が高い。特に軍事的な観点では、台湾侵攻は第二次世界大戦のノルマンディー上陸作戦を上回る規模の水陸両用作戦を要する。しかも、現代の戦場の透明性の下では、中国軍の現在の水陸両用能力では不十分とされている。台湾の地形は70%が山岳地帯で、限られた上陸適地しかない。また、上陸可能な深水港も限られており、これらの地点は機雷や障害物、対艦砲台によって強固に防御されている。
 中国にとって悪夢ともいえる、1979年の中越戦争の教訓がある。この戦争で中国軍は、地形を熟知する決意の固まったベトナム軍との戦いで苦戦を強いられた。台湾も同様に、地形を活かした「ポーキュパイン」あるいは「ハニーバジャー防衛構想」を採用している。これは都市部での持久戦や非対称戦を前提とした抵抗態勢であり、米国から供与された最新鋭のF-16 Block 70戦闘機66機(総額76.9億ドル)や先進的な防空システムによって、その実効性は高まっている。
 経済的なリスクも深刻である。2024年の統計によれば、台湾の対中輸出依存度は30.7%に達し、台湾は中国との貿易で817億ドルの黒字を計上している。特に半導体産業では、台湾は世界の先端半導体生産の90%以上を占めており、この供給網の混乱は中国自身の産業発展に致命的な打撃を与えかねない。さらに、中国がロシアがウクライナにおいて仕掛けたような武力侵攻を行った場合、ウクライナに対するロシアへの制裁を上回る厳しい経済制裁に直面する可能性が高い。グローバル経済に深く統合された中国経済は、金融システム、技術輸出、主要産業への制裁によって深刻な打撃を受けることが予想され、現状では、ロシアのプーチン大統領がこの戦争に準備していたような準備が中国ではまた整備されないうえに、新生BRICSのとの高度のな外交戦略も必要になるが、中国はロシアの後塵を拝する状態にあり、「中華民族の偉大な復興」を掲げる習近平としては内政的な威厳が保てない。
 中国は台湾に対する軍事的圧力を維持しながらも、実際の武力行使は控えるという微妙なバランスを取らざるを得ない。習近平政権にとって、現在の経済的課題(不動産危機、国内債務問題、一帯一路の停滞)に直面する中で、台湾侵攻による追加的なリスクは避けたいシナリオとなっている。

「戦わずして勝つ」戦略
 このような状況下で、中国は伝統的に「戦わずして勝つ」という「三戦」戦略(世論戦、心理戦、法律戦)を展開するほかはない。これは、グレーゾーン作戦を通じて台湾に圧力をかけながら、実際の軍事衝突を避ける戦略である。この戦略の背景には、全面的な軍事衝突のリスクが中国にとって「受け入れがたい」レベルにあるという現実的な判断がある。
 米国のシンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)は、台湾侵攻のシナリオを24回にわたってウォーゲーミングで検証したが、その結果、ほとんどのケースで米国、台湾、日本の連合が中国の侵攻を阻止できるという結論に現状、達している。ただし、その代償は全ての当事者たちにとって極めて高いものとなる。中国の軍事戦略家である喬良退役空軍少将も、1999年に発表した著書『超限戦』によるものだが、武力による台湾統一は「コストが高すぎる」と警告している。ただ、現状はそれから四半世紀を経過しており、中国での認識が変化する可能性はある。

曖昧戦略がもたらす有利な膠着状態
 このような状況においては、自然的に各国の「曖昧戦略」が意図せざる安定をもたらしている。特に米国の対応は現状では評価できる。米国は台湾関係法、TAIPEI法、国防権限法という重層的な法的フレームワークを基盤に、戦略的曖昧性を進展させつつも維持している。2024年には台湾への11億ドルの防衛支援パッケージを承認し、さらに2025年予算では5億ドルの軍事支援を計画している。これにはHIMAR、ATACM、先進的な防空システム、対艦ミサイル等、台湾の防衛能力を実質的に強化する装備が含まれる。
 さらに米国は、フィリピンとの強化防衛協力協定(EDCA)に基づき、既存の5カ所に加えて4カ所の新たな軍事基地の使用権を獲得。これにより、台湾有事の際により迅速な対応が可能となっている。また、東南アジアでの海兵隊のローテーション配備(MRF-SEA)を2025年3月まで延長し、地域での演習と安全保障協力を強化している。
 日米豪印の4カ国による「クアッド」や、米英豪の安全保障協定「AUKUS」など、多国間の安全保障協力を強化しつつ、現代の「アナコンダ戦略」も可能であるかもしれない。この戦略は、サイバー戦、非軍事的な情報戦、経済的強制、そして軍事的封鎖などを組み合わせて中国を封じ込めることは有益である。マラッカ海峡など、中国の海上交通路(SLOC)の脆弱性を突く戦略は、中国側の軍事行動を抑制しうる。
 かくして中国を含め、各国の「曖昧戦略」は単なる現状維持政策ではなく、積極的な安定化メカニズムとして機能している。中国は軍事的圧力を維持しつつも実際の武力行使は控え、米国は防衛支援と同盟強化を進めながら直接的な軍事介入の可能性は明言しない。台湾は「ハニーバジャー防衛」を整備しながら、独立宣言は避ける。この三すくみの状態は、各国にとってリスクを最小化しながら利益を確保する最適解となっている。習近平政権が「2049年までの統一」を掲げる中で、この戦略的均衡を慎重に維持しつづけることが、中期的には日本を含め地域の平和と安定にとって極めて重要な意義を持っている。

 

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2024.11.10

再び世界最大の感染症として浮上する結核

 結核が再び世界で最も致死率の高い感染症として浮上したとWHO(世界保健機関)の2024年の報告が示した。2023年の結核による死者数は125万人に達し、COVID-19による死者数を上回ったのである。かつて結核は感染症による死亡原因としてCOVID-19に次ぐ位置に下がっていたが、パンデミック後の医療資源の再配分と診療体制の混乱が、再流行を助長しているとの見方もあるようだ。
 WHOのテドロス・アダノム事務局長は、「結核は予防も治療も可能な病であるにもかかわらず、依然として多くの命を奪っている」として、対策強化の必要性を訴えている。しかし、先進国と途上国の医療格差が残る中で、限られた資金をいかに配分し、最も効果的な対策を実施するかは依然課題となっているだろう。そこにある奇妙な疑念のようなものがある。

BCGワクチンの非特異的効果
 現状、結核予防の中心となっているのは、1921年から使用されているBCGワクチンである。このワクチンは、乳幼児の結核性髄膜炎や粟粒結核など重篤な結核感染に対する予防効果が認められており、低コストで普及が可能であることから、特に途上国では広く使用されている。しかし、BCGワクチンにはいくつかの課題もある。成人に対する効果が限定的であり、結核の完全撲滅には力不足であること、そしてツベルクリン検査で偽陽性を引き起こすため(これは日本にとって奇妙な特有な問題でもある)、診断精度に影響を及ぼすことが指摘されている。
 他方、BCGワクチンの評価には、非特異的効果も含まれている。BCGは結核菌に対する特異的な免疫反応を引き起こすのみならず、他の呼吸器感染症や敗血症など広範な病原体に対しても免疫力を強化する非特異的効果があることは確認されている。この効果は、BCGが自然免疫と獲得免疫の両方を刺激し、一般的な感染症リスクに対する抵抗力を高める「バイスタンダー活性化」というメカニズムに起因するものだ。この作用により、5歳未満の子供の死亡率を50%以上低減させる可能性も示されており、公衆衛生上の価値は非常に高いと見られている。BCGのこの非特異的効果は、特に医療リソースが限られた途上国において意義深い。幼少期の基礎的な免疫力を向上させることで、広範囲の感染症リスクを軽減するという多面的な効果があり、BCGは結核以外の感染症対策にも貢献している。

新しいワクチンM72/AS01E
 とはいえ、BCGワクチンの課題を補うとして、成人への予防効果が見込まれる新しいM72/AS01Eワクチンが新しく登場した。このワクチンは、結核菌由来の特定抗原(Mtb32AとMtb39A)を基にしたサブユニットワクチンであり、BCGとは異なり生菌を使用せず、特定の抗原によって免疫を誘導するため、免疫不全の患者にも適用できると見られている。M72/AS01Eは免疫反応を強化するアジュバントAS01Eを使用しており、臨床試験においては成人への結核感染予防に約50%の有効性が確認されている。
 しかし、この効果が長期的に持続するか、BCGを大幅に上回る予防効果があるかについては新薬ゆえの継続的な研究は必要になる。COVID-19パンデミック以降、感染症ワクチン市場の拡大に伴い、製薬業界ではmRNAやサブユニットワクチンなど新技術を投入し、市場開拓を急速に進めているが、M72/AS01Eもその一端である。だが、新ワクチン開発が先進国市場向けに偏り、価格の高さや供給体制の整備が課題となり、実際に最も必要とされる途上国での普及が難しくなる懸念もある。新技術によるワクチン開発は、収益性を伴う市場戦略の一環として加速しているが、結果として先進国中心の利益構造に偏り、途上国がその恩恵に与れない現状がある。そうした背景のなかで、この新ワクチンは、ある意味、奇妙な立ち位置にあるとも言える。

BCGワクチンとM72/AS01Eの課題
 BCGワクチンは安価で既存の供給体制が安定していることから、費用対効果が高いとされている。特にその非特異的効果により、結核以外の感染症リスクをも減少させる効果が確認されており、途上国の公衆衛生上のメリットは極めて大きい。一方で、BCGが成人には限定的な効果しかもたらさない点や、ツベルクリン検査での偽陽性リスクを生じさせる点は課題でもある。対して、新しいM72/AS01Eは技術的に進んでおり、特に成人に対する予防効果が期待されているものの、製造コストが高く、途上国自身の課題としてしまうなら、供給において多くの課題を抱えている。現状、WHOは結核予防に年間22億ドルの資金目標を掲げているが、その資金が新薬開発や先進国中心の市場利益に偏る構造があり、途上国の現実的な医療ニーズに応じた資金配分がなされない。だが、そこは、つまり、先進国が金を融通せよという仕組みが求められていると言っていいだろう。それが有効ならそれでいいし、実際に有効ではありそうだが。

結核対策の格差と現場支援の現実
 先進国では結核の発生率が低くなっているが、移民や貧困層には依然として感染リスクが残っており、多剤耐性結核(MDR-TB)の増加も新たな課題である。これに対し、途上国ではBCGが唯一のワクチンとして利用されているが、経済的支援や医療リソースの不足が結核対策の進展を妨げている。新ワクチンの導入に際しても、資金不足と供給体制の未整備により、実用化が進まず、感染拡大が続いている現状がある。この状況に倒して、なんらかの構造的な対応は必要だが、それでも単に新薬開発や先進国への利益配分に資金を振り分けるのではなく、現地で実効性のある医療支援を提供し、公衆衛生を向上させるための体制整備が急務だろう。この問題の焦点が、ある意図的に逸らされていくような感じがしてならない。

 

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2024.11.09

30年ぶりの伊勢参り

 約三十年ぶりに伊勢参りに出かけることとなった。かねてより友との約束で再訪を期していた伊勢神宮であるが、その友は幸いにも体調を崩し、同行も叶わずとなった。そして、歳月だけが流れ去ってしまった。いささか奇妙な心持ちではあったが、結局のところ、追悼めいた旅となった。
 三十年という歳月は長いようでいて、年を重ねるごとに時の流れは驚くほど速やかになる。前回の伊勢詣でがそれほどの昔であったとは思えない。内宮を訪れてみれば、五十鈴川の風景は昔日のままに変わらず、この伊勢参りを通じて、若い日に抱いていた「日本の古代史を巡る旅」への思いが再びよみがえり、過去の自分との邂逅を果たしたかのような感覚に襲われた。

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 伊勢に着いて、まずは外宮に参拝することとした。折しも午後三時頃で、神様への御饌が運ばれる時刻であったため、神饌を運ぶ神官たちの儀式めいた参列に興味深く見入った。翌日には内宮に参拝したが、その荘厳な空気感は三十年前と変わらず私を包み込んだ。が、当時と違い、参拝者が非常に多く(そのわりに京都みたいに外国人は多くない)、行列が続く状況であった。賑わいはそれはそれでよいことなのである。
 だが、私にとって内宮以上に重きを置いているのは荒祭宮である。荒祭宮こそが伊勢の本質であると感じているからだ。今回は混雑していたものの、三十年前は訪れる人もなかった。青年であった私は、あの大木の間を歩きながら、悠久の歴史を感じるとともに、現代とは異なる時の流れがそこに存在しているように思えたものである。伊勢の自然と神聖な雰囲気が、心の奥底にある何かを揺り動かしてくれるのを感じた。「神がここにいる」という感覚であろうか。荒ぶる心が静まるものであったのだろうか。

古代史への関心と奈良
 二十代後半から三十代前半にかけて、奈良を頻繁に訪れていた。法隆寺や斑鳩の里(亀井勝一郎とか和辻哲郎とか)、明日香といった古代の地を巡りながら、万葉集や古事記、日本書紀などの古典に親しみ、飛鳥・奈良時代の歴史に思いを馳せていた。当初は東京から京都を経由し、京都で柿の葉寿司を求めて車中で味わい、奈良へ向かうのが常であったが、やがて名古屋からの近鉄ルートの方が便利と知り、伊勢や松坂を経由するルートも楽しむようになった。新たなルートを辿る中で、伊勢の神々や信仰にも次第に関心が広がり、いつしか本格的な伊勢参りへの思いが育っていったというわけである。
  当時の奈良への旅は、自分なりに日本という国をより深く感じるためのものであった。法隆寺の仏像や斑鳩の風景は、古代の人々の信仰心と美意識というより、今は失われた異郷の日本を感じさせてくれた。明日香村では万葉集の世界が重なる。石舞台古墳や古代の遺跡を巡りながら、飛鳥時代の人々がどんな暮らしを営み、どのような未来を夢見ていたのか、まるで幻視するかのようであった。蚊にもよく挿されたたが。奈良の静謐な風景と古代の息吹を感じさせる土地は、若き日の私にとって精神的な故郷でもあった。

壬申の乱と天武天皇の正統性
 奈良時代といえば、「壬申の乱」は私にとって最も興味をそそる歴史の一つである。天智天皇と天武天皇とされる兄弟間の王位継承を巡る激しい争いで、一般的には天智天皇が兄で天武天皇が弟とされているが、その関係性については謎が多く、真に兄弟であったのかすら疑念が残る。この争いに勝利した天武天皇は、新たな王朝の基盤を築き、その正統性を伝えるために『日本書紀』が編纂されたと私は考えている。つまり、『日本書紀』は単なる記録ではなく、天武天皇を正当化するための「偽の歴史の構成」でもあるという見方なのである。そもそも史書というものは、事実を伝えるものではなく、政治的な目的を持つためのものなのだが。
 壬申の乱は、単なる王位継承の争いにとどまらず、東アジア広域に関わる豪族たちの権力関係や宗教的な支配構造が複雑に絡んでいたことであろう。この歴史的な背景を考えるとき、天武天皇が勝利した後に築いた新たな体制が、いかほどの影響力を持ち、その後の日本の歴史にどのような影響を与えたのか。大津皇子の悲劇の物語もその一部なのであり、そしてその姉が最初の斎王であり、伊勢に関わっている。

伊勢神宮と斎王の歴史
 今回の伊勢参りで殊に思いを馳せたのは、天皇家の娘が伊勢神宮に奉仕する斎王の存在である。斎王制度は、天皇の娘が伊勢神宮に仕え、国家の繁栄と平安を祈る神聖な役割を担うとされ、この制度は平安時代末まで続いたが、室町時代に自然に廃止され、次第に人々の記憶からも薄れていった。江戸時代にはすでに忘れ去られていたことであろう。
 現在の伊勢の斎宮跡には博物館が設けられ、平安時代や中世の斎王制度の歴史や文化を紹介する展示が行われている。殊に特設展の平安時代末期の文化の展示は美しく感動的であった。平安時代の美意識がその後の日本文化の基盤として深く根付いている様子を垣間見ることができた。
 斎王の歴史を知ることで、当時の女性の役割や立場についても考えさせられる。斎王に選ばれるということは、天皇家の一員としての責任と、国家の安寧を祈る神聖な役割を負うことを意味していたが、それはつまり、個としての自由を犠牲にすることでもあったのだ。それは天武天皇が支払うべき贄であり、天皇家が支払うべき贄であった。斎王たちは、伊勢という特別な地で国家のために祈りを捧げ続けるのである。その姿は、現代の私たちが忘れがちな「公の贄」としての意識を思い起こさせてくれる。

平城京と長屋王の遺跡
 斎宮跡になにもないといえば、奈良時代の平城京跡も同様であったな。若い頃によく奈良を訪れた平城京跡は一面の野原のようであったが、そこに立つだけでかつての栄華の残酷な顛末を感じ取ることができたものである。あれだ、折口信夫の『死者の書』で大伴家持がこんなところまで来てしまったというあれ、いやあれは藤原京だったな。
 平城京のその一角で長屋王が謀反の疑いをかけられ、最期を迎える「長屋王の変」が起きた。長屋王の遺跡は保存されているが、その邸宅跡の上に、それからそごうが建てられ、そして今ではそれも閉店。現代との時間のギャップも感じられる。
 長屋王の変は、奈良時代の政治的な争い、藤原氏との対立により、謀反の疑いをかけられ自害に追い込まれたとされているが、単なる権力争いではなかったのではないか。木簡には「長屋親王」と記されており、父・高市皇子は天皇であったのであろう。どの天皇か、それが持統天皇の正体ではないか。持統とは「皇統を持する」ということなのだ。とか言っても珍説と取られる。木簡のほうを信じろと言いたいがな。さて、長屋王の真実から祟りが起きたのだろう。その封じの奈良の大仏の本当の姿なのだろう。が、この珍説におもはや私自身興味を失っている。

鎮魂ということ
 今回の伊勢参りは、単なる観光ではなく、ある意味、自分のためにも鎮魂の旅であったが、歴史が現代の文化や価値観にどのように影響を与えているのかも改めて感じさせられた。斎宮で見た、殊に平安時代の美意識は室町時代に再評価され、その後の日本文化の基盤として現代に至るまで深く根付いているが、言い方は悪いが、古き良き文化というのは過去を再創造することであり、本当は起源など存在しないのである。そこにあるのは「野原」であり、かつて何かがあったという郷愁を感じるだけで十分なのだ。その意味で、斎宮はよい場所である。天皇制というもの終わった終焉の姿そのものなのだ。日本人はそれも忘れて、忘れたからこそ、馬鹿騒ぎできるという愚かさを噛みしめるべき聖地なのである。

 

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2024.11.08

トランプ勝利への欧州の反応

 2024年の米国大統領選挙でドナルド・トランプ氏が再び勝利したことを受け、ヨーロッパ各国の反応には表向きの祝福とともに、過去の政策からくる不安が含まれていることが見受けられた。また、一部の指導者からは明確に批判的な意見も示されている。

好意的な反応の中にある懸念
 ヨーロッパの主要な指導者たちは、トランプ氏の再選に対して祝福のメッセージを送る一方で、その発言には今後の協力に対する慎重な姿勢が隠されているようだ。
 EU委員長ウルズラ・フォン・デア・ライエン氏は、トランプ氏に対し「心からのお祝い」を表明し、再び協力して「強力な大西洋間のアジェンダ」を進めることに期待を示した。しかし、その中で彼女は「欧州と米国の間の800万人の市民による真のパートナーシップ」をことさらに強調し、「政治的安定と経済的ダイナミズム」を守ることの必要性に触れている。つまり、トランプ氏の政策が欧米間の関係に影響を与える可能性を牽制し、彼の過去の一方的な行動に対する不信を表している。
 NATO事務総長に就任したマルク・ルッテ氏もトランプ氏の勝利を祝福しているが、同時に「NATOの強さを維持するためのリーダーシップ」を求めていると言う。ここで求められているリーダーシップとは、各加盟国が防衛費を適切に分担し、NATOの共同防衛義務を確実に果たすことを意味するのは明らかだ。トランプ氏に、NATOの結束を維持し、ロシアなどの外部からの脅威に対抗するための強い支援を提供することが期待している。というのも、過去にトランプ氏がNATOを批判し、米国が過剰に負担を担っていると主張していたことに対する警戒感が表面化している。
 欧州連合(EU)加盟国の産業界の協調を目的とする団体で、欧州経営者連盟とも言えるビジネスヨーロッパ(BusinessEurope)フレデリック・ペルソン氏も、トランプ氏の再選に祝意を示しながら、「欧米間の開かれた対話と前向きな協力アジェンダ」を進める必要性を強調した。これは、トランプ氏の過去の貿易政策や関税問題が欧米間の経済関係に摩擦をもたらす可能性を案じてのことだ。欧州と米国の経済的協力の維持に対する懸念がすでに感じられるのである。

明確な批判的反応
 ヨーロッパにはトランプ氏の再選に対して単純な批判的な反応もある。特に、欧州緑の党の共同代表であるメラニー・ヴォーゲル氏とトーマス・ヴァイツ氏は、トランプ氏の勝利が世界的な政治的安定に深刻な挑戦をもたらすと述べ、強い懸念を表明している。
 ヴァイツ氏は、トランプ氏の勝利を「表現の自由と民主的機関に対する脅威」として非難し、特にトランプ氏がメディアを攻撃し、司法機関への干渉を試みた過去の行動が、民主主義の基盤を揺るがすものであると指摘した。欧州は「より多くの民主主義と国際連帯で応じるべき」と訴えた。彼は、トランプ氏の過去の政策が独裁的であると見なしている。ヴォーゲル氏も「この選挙結果は欧州の民主主義者にとっての警鐘であるべきだ」と述べ、民主主義の価値を守り、基本的権利を保証する必要性を強調した。さらに、彼らは欧州がウクライナ支援や気候変動対策において独自に行動する必要性に触れ、トランプ氏が過去に行った気候政策の後退に対する懸念を示した。「欧州は自由、民主主義の灯台であるべきだ」という強い言葉で、欧州の自立したリーダーシップの必要性を訴えている。まあ、なんだろ足元を見ないでこそ言える発言の風味は感じられる。

欧州の懸念が表面化する可能性
 これらの懸念や批判は、さまざまな形で表面化することが想定される。まず、トランプ氏の政策や外交姿勢が再び過激になった場合、欧米間の外交的な緊張が再燃する可能性が高い。特に、NATOへの批判が再び強まる場合、NATOの結束が弱まり、加盟国の安全保障に不安が広がるだろう。欧州各国はNATOの維持を重視しており、トランプ氏の発言次第では欧州諸国が独自の防衛強化に動き出すことが予想される。
 トランプ氏が過去に実施した貿易戦争や関税政策が再び行われる場合、EUは対抗措置を講じる可能性もある。米欧間の経済摩擦が激化する懸念は拭えない。BusinessEuropeのような経済団体は協力的な経済関係の維持を求めているが、政策の対立が生じた場合、欧州企業の利益が損なわれる可能性も高まる。
 トランプ氏の再選による気候政策の後退は、欧州にとっては表面的な影響をもたらす。再生可能エネルギーの推進が停滞し、気候変動対策の国際協定の履行が困難になる可能性がある。環境保護に向けた国際的な取り組みが後退し、特に温室効果ガスの削減やグリーン技術の普及に支障をきたす。トランプ氏は、過去にパリ協定からの離脱を決定したように、気候変動対策に消極的な姿勢を再び示す可能性がある。欧州緑の党のような環境重視の勢力は、米国の後退による国際的な取り組みの停滞を強く懸念しており、欧州内部での環境政策強化が求められるだろう。が、実際のところ、こうした欧州の政治指導者の気候政策がどれほど市民に支持されているかの実態が明らかになる局面もあるだろう。
 欧州のリベラルは、トランプ氏の姿勢を独裁的と見るテンプレがある。例えばメディアの自由を制限する発言や司法機関への干渉などの行動によって、欧州市民の間で反米感情を高めると彼らは恐れるのだ。恐れているだけなら、日本も同じだが、欧州では政治運動やデモが活発化しやすい。欧州の各国政府に対して米国との関係見直しを求める声も強まるかもしれない。ただ、こうしたリベラルからは見えない部分もある。カトリックの支持層などは、米国のカトリックと同様、「いきすぎたリベラル」への警戒からトランプ氏への期待もあるだろう。

 

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2024.11.07

2024年の米国大統領選挙の総括

 2024年のアメリカ大統領選挙では、民主党が予想外の大敗を喫した。民主党は特に重要な工業地帯のラストベルトでも大幅な得票率の低下を経験した。年収5万ドル以下の世帯での支持率は低下し、特に従来の支持基盤であった労働者層が離反した。この選挙結果は、米国社会の経済的困難や生活費の高騰といった切実な問題に対する対応不足、最新技術を駆使した選挙予測と表示の問題、またバイデン政権の後継問題の混迷など、複数の要因が複雑に絡み合っていた。

民主党支持層の離反と共和党支持への転向
 米国民は生活に困窮を感じていた。インフレ率は食品価格で前年比8%上昇、エネルギーコストは12%上昇を記録する中、特に中間層の実質賃金は連続でマイナス成長となっていた。この経済状況下で、民主党が従来の支持基盤としてきた層の大規模な離反が発生した。トランプの「4年前より生活はよくなったか?」というメッセージは、それが政策として無内容であっても、有権者に響くものだった。
 地域の視点では、民主党のアイデンティティ・ポリティクスや社会正義への注力が、多くの有権者にとって経済的な解決策を提供していないと受け取られていた。ある移民の女性は、「家を失いかけ、借金を背負った時に民主党が助けてくれることはなかった」と述べ、こうした現実的対応の不在が民主党への信頼を失わせた。
 選挙戦の終盤には、民主党の組織的な弱体化が顕著となった。地方組織の活動資金は、前回選挙と比較して減少した。特に、従来の強固な支持基盤であった労働組合との連携も弱まり、組合員の投票率は低下した。
 民主党の選挙戦略における最大の誤算は、既存の支持基盤を維持したまま中道層を取り込めると考えた点にあるだろう。実際には、進歩派が求める経済政策の実現と、中道層が望む財政規律の維持という相反する要求の間で、具体的な政策提示ができないまま選挙戦を戦うこととなった。その結果、支持層の離反を防ぐことができず、新たな支持層の開拓にも失敗した。
 対して、共和党支持層の特徴として際立っていたのは、その組織的な結束力である。メディアで報道されることが少なかったローカル社会に目を向ければ、共和党支持者たちが教会ネットワークや軍事ファミリーサークル、趣味や興味に基づくグループを通じて非常に組織的に活動していた実態が確認できる。選挙期間中の動員率を大幅に増加させ、特に郊外地域での投票率も向上させた。

バイデン政権の後継問題
 バイデン政権の後継問題に関して、特に深刻だったのは支持層の分断がもたらされたことだ。ハリス候補に対する支持率は、民主党支持者の中でも半数以下に留まり、35歳以下の若年層での支持は三割を下回ったと見られる。進歩派の政策要求に対する具体的な回答を避けながら、同時に中道層への配慮を試みるという両立の難しい戦略は、結果として双方の支持を失うことになった。
 国際情勢への対応も後継問題に影響を与えた。ウクライナ支援に関する世論調査では、2023年後半から支持率が急激に低下し、特に中間層での支持率は激減していた。この状況下で、民主党は明確な方針を打ち出すことができず、外交政策における指導力の欠如が指摘された。
 最終盤の選挙戦略における重大な誤算は、チェイニー元副大統領の支持獲得を過度に重視した点にある。この動きは、ヌーランド一派のネオコン勢力との関係を都合よく隠蔽しようとしていた民主党の戦略と矛盾し、特に反戦派や進歩派の間で強い反発を招いた。実際、この決定後、進歩派支持者の投票意欲が低下した。
 そもそも論でいうなら、既得権益がバイデンに対して過剰に資金を投入したことが、既存の既得権益層の大きな誤算であり、後継計画が不自然かつ混乱を招いた要因ともなっていた。

選挙予想の問題
 今回の選挙では選挙予報でも大きな問題を露呈した。端的にいって、「拮抗」と連呼したNHKなどのメディアは、この大差の結果を恥じるべきだろう。基本的に従来の世論調査手法は、SNSやメッセージングアプリの普及により、特定の層の意見を十分に捕捉できなくなっている。FOXニュースやEpoch Timesといった保守系メディアの視聴者層での調査参加率は、一般的な調査対象者と比べて著しく低く、この偏りが予測精度に大きく影響を与えている。
 とはいえ、実際のところ選挙前の最新の予測モデルでは、すでにトランプの勝利が示唆されていたとも言える。NHKも最終盤では、スイング州でのトランプ優勢を示していたが、全体統計では依然として拮抗しているような報道姿勢を維持した。投票動向の詳細データを分析すれば、特に郊外地域での共和党支持の伸長が顕著であることは予測されていた。
 さらに注目すべきは、大手IT企業や金融機関の動きである。選挙前の段階で、主要テック企業のCEOたちは彼らの内部予測モデルに基づいてトランプ勝利を想定した経営判断を行っていた形跡がある。例えば、主要なソーシャルメディアプラットフォームでのコンテンツモデレーション方針の微妙な変更や、広告配信アルゴリズムの調整などに、その兆候が表れていた。

メディアの限界という問題
 今回の選挙では、主要メディアの影響力が大きく変容した。主要メディアの視聴率データによれば、従来型のメディアの影響力は特に18-45歳層で著しく低下し、代わってSNSやオルタナティブメディアの影響力が増大していた。CNN、MSNBCといった主要メディアの選挙関連コンテンツの視聴率は、2020年比で平均35%減少。一方で、独立系ニュースプラットフォームやポッドキャストの視聴者数は2倍以上に増加していた。
 イーロン・マスクのXプラットフォーム(旧Twitter)での影響力行使は、この変化を象徴する事例となった。選挙期間中、保守系コンテンツの拡散率は進歩的コンテンツの約1.8倍を記録。これは単なるアルゴリズムの変更だけでなく、ユーザーの情報消費行動の本質的な変化を示唆していた。
 ジェフ・ベゾスのワシントンポストへの影響力行使も注目される。同紙の論調は、2023年後半から微妙な変化を見せ始め、バイデン政権への批判的な記事が増加。特に経済政策に関する報道では、前年比で批判的な論調が増加した。そして最終的に、伝統であった特定大統領支持は見送られた。なぜ彼がこの決定を下せたかはすでに記したとおりである。

 

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2024.11.06

AI規制を巡る米国とEUの違い

 AI技術の急速な発展に対して、米国と欧州連合(EU)は異なる規制アプローチを採用している。米国はイノベーションを重視し、柔軟な規制を模索する一方で、EUは人権と安全を重視し、リスクベースの厳格な規制を導入している。この対立は、両地域の政策やIT企業の戦略に大きな影響を与えている。まあ、日本も巻き込まれるでしょう。

米国議会の動向
 米国議会では、AI技術の規制についてそれなりに慎重な議論が続いている。上院多数党院内総務のチャック・シューマー(Chuck Schumer)は、昨年AIに関する立法措置を約束し、複数のAIフォーラムを開催して上院議員への教育を進めてきた。これらのフォーラムには、イーロン・マスク(Elon Musk)、マーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)、OpenAIの創設者サム・アルトマン(Sam Altman)といったテック界の重鎮たちが参加している。アルトマンは「これは重要で緊急を要する、ある意味で前例のない時期であり、政府のリーダーシップが本当に必要だ」と述べている。
 下院議長マイク・ジョンソン(Mike Johnson)は、「より少ない政府こそが解決策である」というレーガンの原則に基づき、イノベーション重視の姿勢を示している。保守派は、EUが今年初めに承認した包括的な法的枠組みは行き過ぎだと考えており、大きな政府がAIの可能性を阻害することを警戒している。
 バージニア州選出の民主党下院議員ドン・バイヤー(Don Beyer)は、ジョージ・メイソン大学でAIの修士号を取得中とのこともあり、必ずしも自由市場派の保守主義者だけが政府の関与を制限しようとしているわけではないと言う。「私たちは誰も、非常に規制的で指示的なEUのAI法を模倣したくない。米国がイノベーション、想像力、創造性の中心地であり続けられるよう、十分に軽いタッチを保ちたい」とのこと。

プライバシーの課題
 下院AIタスクフォースの共同議長を務めるジェイ・オーバーノルテ(Jay Obernolte)下院議員は、AIに対する一般の懸念が通俗的なSF映画の影響を受けていると感じている。「平均的な米国人にAIの最大の潜在的な欠点を尋ねると、『ターミネーター』映画のような悪のロボット軍団が世界を支配するというような答えが返ってくる。それは私たちが心配していることではありませんが」と述べている。実際の懸念は、誤情報の拡散、データプライバシーの侵害、悪意ある金融取引の可能性である。先のバイヤー議員は「悪意のある主体が存在する可能性があるため、ある程度の規制は必要になるでしょう」と警告している。ここで注目すべきは、アメリカの歴史上、本格的なプライバシー法が存在したことがないという事実である。彼は「主要なプライバシー法案がまだ保留中である」と指摘し、AI規制の進展はソーシャルメディアへの対応よりも速いと評価しつつも、包括的な法的枠組みの必要性を訴えている。

EUの包括的規制
 対照的に、EUは「AI法」を通じて世界で初めての包括的な法的枠組みを確立した。この法律では、AIシステムを4つのリスク区分で規制している。特に「受け入れがたいリスク」に分類される、人種、障害、社会的地位に基づく人々の脆弱性を利用するAIは完全に禁止される。また、生体認証データを使用して人々を分類し、微妙な手法で操作する可能性のあるAIシステムも厳しい規制の対象となる。EUの規制はまた、市場に参入するAIシステム間の「公平な競争の場」を創出することも目指している。すべてのAI開発者に同じ基準を適用することで、技術の発展と人権保護のバランスを取ろうとする試みと言われている。
 規制環境の違いは、主要IT企業の戦略にも大きな影響を与える。Googleは「Gemini」を発表してから、EUの規制に対応するため、透明性とデータ保護に関する基準を強化している。また、MicrosoftやAmazonなどの企業も、独自の倫理的ガイドラインを策定し、自主規制の強化を進めている。
 米国下院では、年内にAIタスクフォースから報告書が提出される予定だ。その内容が今後の立法の方向性を示す重要な指針となるだろう。しかし、テッド・リュー(Ted Lieu)下院議員が「共和党支配下のこの議会期では、政府機能を維持することすら困難だった」と指摘するように、実効性のある規制の実現には、そう、今日の選挙結果も影響するのだろう。

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2024.11.05

世界は必然的に多極化する

 今年の2月、ロシアの外交政策とユーラシアの地政学を専門とするグレン・ディーセン(Glenn Diesen)博士が『ウクライナ戦争とユーラシア世界秩序』(The Ukraine War and the Eurasian World Order)を出版した。博士について私は「ニュートラリティ・スタディ」でなんどか見かけたが、「Quincy Institute for Responsible Statecraft」でその本に関連したインタビューがあり、興味深いものだった。基調はこうである。ウクライナ戦争は、冷戦後の一極秩序の崩壊を象徴するものであり、国際秩序が大きな転換点を迎えていることを示すというのだ。この戦争をきっかけに米国主導のリベラルな国際秩序が見直され、「ユーラシア型多極秩序」への移行が加速するという博士の分析には、私も同意せざるを得ない。

世界の多極化への歴史的展開
 ディーセン博士の考えによれば、冷戦後の国際秩序は大きな変革期にある。ソ連崩壊後、東欧諸国の民主化と市場経済への移行が進み、NATOとEUの東方拡大が実現した。同時に、中国の経済的台頭とロシアの復権が進行し、国際秩序に重要な影響を与えた。西側によるNATOの東方拡大とカラー革命の推進は、ロシアや中国などの大国の安全保障上の懸念を軽視し、新たな対立構造を生む結果となった。なるほどこれは「歴史的必然」とも言えるだろう。
 具体的には、NATOの東方拡大は1999年のポーランド、ハンガリー、チェコの加盟、2004年のバルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)およびブルガリア、ルーマニアの加盟と段階的に進められた。この拡大政策は、ロシアにとって直接的な安全保障上の脅威となった。さらに、ウクライナやグルジアでの「カラー革命」も米国主導で進められ、西側諸国の価値観の押し付けと受け取られ、ロシアや中国との対立を深刻化させた。

「利害共有圏」としての地政学的枠組み
 多極化する世界では、従来の「勢力圏」に代わって「利害共有圏」という新しい地政学的枠組みが重要性を増す。この枠組みでは、特定の国による支配ではなく、複数の大国が相互の利害を尊重しながら協力することが重視される。上海協力機構(SCO)は、中国、ロシア、中央アジア諸国が協力して地域の安定と安全保障を確保する具体例である。また、ユーラシア経済連合(EAEU)も、ロシアと旧ソ連諸国の経済的統合を進める成功事例として挙げられる。
 米国はこの多極化した世界を受け入れるだろうか。ディーセン博士は懐疑的な見方を示していた。米国はドル支配や国際金融システムにおける優位性、技術的優位を手放すことが困難な立場にある。対して、BRICS諸国は独自の決済システムやエネルギー供給体制の構築を進め、米国への依存度を低減させる努力を続けている。
 エネルギー分野では、BRICS諸国間での協力が強化され、ロシアの天然ガス供給を中心に、中国やインドが多様なエネルギー供給源の確保を目指している。サウジアラビアやイランなども、BRICSとの協力を通じてエネルギー供給の多様化と安定化を進めており、米国の影響力の相対的低下と多極化の加速が見られる。
 多極化において重要な要素の一つは、各国の技術的自立である。BRICS諸国やユーラシア諸国は、独自のインターネットインフラや通信技術の発展、デジタル通貨の導入、ブロックチェーン技術の活用を通じて、米国への技術依存度を低減させている。
 再生可能エネルギーの分野でも多極化の動きが顕著である。中国は太陽光発電や風力発電の技術で主導的な立場を確立し、技術供与を通じて影響力を強化している。インドも再生可能エネルギーの導入を積極的に推進し、国際協力を通じてクリーンエネルギーの供給網の構築を進めている。

東アジアにおける米中対立の意味
 ディーセン博士の話で私が特に注目したのは、東アジアにおける米中対立の影響である。日本、韓国、フィリピン、ベトナムなどは、安全保障面で米国に依存しつつ、経済面では中国との関係を維持する「戦略的曖昧性」を採用している。この姿勢は、多極化時代における現実的な選択として評価できるだろう。ASEANは米中間で中立的立場を保ちながら、地域の安定と発展を促進する重要な調整役を務めている。これが危うい均衡のなかで維持できるものだろうか。多極化が進む中で、国際社会全体の調整メカニズムは依然として不十分である。各国が独自の利益を追求する中で、対立や衝突のリスクが高まる可能性は否定できない。
 多極化の進展には重要な課題も存在する。各国の文化的多様性を尊重しつつ、国際的な人権基準をいかに維持するかという問題は避けて通れない。中国における少数民族問題や、ロシアにおける反対派への対応など、権威主義的統治の強化が懸念される。


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2024.11.04

ドイツ経済の悪化と政府の失策

 ドイツ経済は今、以前の安定した成長から停滞へと変わり見通しが悪化している。2024年の成長率は-0.1%と予測されており、これは前年に続く二年連続のマイナス成長である。ドイツのキール世界経済研究所は、成長予測を引き下げており、政府や企業に対する不信感が高まっている。このままではドイツの経済基盤が弱まり、国際競争力がさらに低下する。

ドイツ経済の鈍化原因
 政府は当初、2024年の成長率を0.4%と見込んでいたが、最近の予測では成長が止まると発表した。キール世界経済研究所は成長率が-0.1%になると見ており、これでドイツは二年連続でマイナス成長になると予測している[1]。また、2028年までに税収が5,810億ユーロ(約9.5兆円)も下振れすると見られており、経済の不安が税収の減少に直結している[2]。税収が減ることで、インフラ整備や公共サービスにも悪影響が出て、さらに成長を妨げる要因となる。
 成長が鈍化している理由の一つはエネルギーコストの高騰である。ドイツは環境保護のために「エネルギーヴェンデ」と呼ばれる再生可能エネルギーへの転換政策を進めており、原子力や石炭からの脱却を目指しているが、その結果としてエネルギー価格が上昇し、特に電力コストが増大したため、多くの企業で経営負担が増加している。その連鎖で、投資が減り、生産活動も縮小し、経済全体の成長を抑えている。特に中小企業にとって、エネルギーコストの増加は大きな負担であり、経営が厳しくなる。労働市場の硬直性も成長の妨げになっている。ドイツでは高齢化が進んでおり、熟練労働者の不足が目立つ。そのため、企業が必要とする人材を確保するのが難しくなっており、労働力人口の減少がドイツの生産能力と競争力を長期的に弱めている。

ドイツ政府の政策の失敗
 ドイツ政府は悪化する経済状況に十分に応えていない。政府は成長プログラムを発表したが、効果は限られている。ドイツ連邦議会では、アンプル・コアリション(社会民主党、緑の党、自由民主党)に対する批判が続いている。アンプル・コアリションは、ドイツの3つの政党からなる連立政権で、その名称は3つの政党のシンボルカラー(赤、緑、黄)がドイツの信号機(アンプル)と同じ色であることに由来している。批判は、この連立与党が効果的な経済対策を打ち出せず、企業や国民に「集団的ショック」を引き起こしたとのことだ。経済政策の遅れや、企業活動に不利な環境を改善するための取り組みが不足している[3]。
 ドイツの官僚的な手続きも企業活動の妨げとなっている。新しい事業を始めることが難しく、企業は投資を控えている。官僚的な手続きの煩雑さは、新しいプロジェクトに着手する際の大きな障害であり、特にスタートアップ企業にとってリスクとなっている。ならば、規制緩和や税制改革などを通じて企業活動を促進し、新しい成長のきっかけを作るべきなのだが、現時点ではそのような動きは見られず、経済停滞の長期化が懸念されている。

産業の空洞化と失業問題
 ドイツの産業は空洞化しつつある。象徴的な例は自動車産業である。ドイツの自動車メーカーは電気自動車(EV)への移行が遅れた結果、競争力を失いつつある[1]。中国の新興EVメーカーと比べて、生産コストや技術面でも遅れを取っている。このため、ドイツの自動車産業は生産拠点を海外に移転することを余儀なくされ、一部の工場では閉鎖や人員削減が進む。国内での雇用喪失を引き起こし、多くの労働者が不安定な状況に置かれている。
 全体的な失業率も増加傾向にある。2024年8月時点で、失業者数は287万人に達し、前年同月比で17.6万人増加している[1]。消費者の心理も冷え込んでおり、消費者信頼指数は9月に-22.0ポイントに低下した。高い失業率と低迷する消費者心理が、経済全体の需要を抑え、さらに景気悪化を招く。小売業やサービス業にも悪影響が広がり、これらの業種での倒産が増加している。地域経済の活力が失われつつあり、地方での雇用機会が減少し、若者の都市部への流出が進んでいる。

【参考】
1. キール世界経済研究所の経済成長予測に関する報告 - [参照]
2. ドイツ財務省による税収の下振れ試算 - [参照]
3. ドイツ連邦議会でのアンプル・コアリションに対する批判と政府の経済政策に関する議論 - [参照]

 

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2024.11.03

フランスの出生率改善に関する課題と展望

 少子高齢化の日本では出生率向上が問題となっているが、今までお手本とされてきたフランスでもその向上は難しくなってきている。

フランスの出生率
 フランスの最新の出生率は2023年に1.68人/女性となり、人口維持に必要とされる2.1人/女性を大きく下回った。2010年には2.03人/女性だった出生率が、わずか13年で急激に低下しており、これにより世代交代が難しくなり、将来的にはフランス社会に深刻な影響を及ぼすことになる。
 このまま出生率の低下が続くと、フランスはイタリアや日本と同様に、経済的な停滞に直面する。研究機関のシミュレーションによると、出生率がこのまま低下し続けた場合、2040年までに雇用率が約4%減少し、約100万人の職が失われる。労働力の縮小は生産性の低下と企業の利益減少をもたらし、特に製造業、サービス業、小売業といった産業に大きな影響を与える。消費者の購買力も落ち込み、国内市場の縮小も避けられない。こうした状況が続けば、フランス経済全体が停滞し、国際的な競争力の低下につながる。日本とはには、見慣れた風景のように思うが、フランスはちょっとした社会暴動で自動車がリアルに簡単に炎上する国なので、そのさらなる悪化を日本の風景と比較するのは困難だろう。

制度への影響
 フランスの年金制度は日本と同様に「賦課方式」に基づいており、現役世代の納める保険料で高齢者への年金を支払う仕組みである。出生率の低下によって現役世代が減少すれば、将来的に年金制度は深刻な財政難に直面する。労働力が減少すると、年金保険料の納付者が減るため、年金支給額が減少し、支給開始年齢の引き上げや支給額の削減せらずをえない。年金受給者の生活水準も低下する。すでにその兆候をフランス国民は感じており各種の社会問題を引き起こしている。
 出生率が低下する中で、フランスの若年層が移民として他国に移住する傾向が強まると見られている。すでに高学歴の若い研究者のフランス国外流出も顕著だが、経済の停滞や労働市場の競争激化により、より良い生活環境を求めて国外に出る若者も増加するだろう。すでにイタリアでは、出生率の低下と経済停滞により、若者が移民として他国に移る傾向が顕著に見られるが、同様の現象がフランスでも発生する。若年層の流出は、さらに国内の労働力不足を加速させ、人口減少の悪循環に陥るリスクを高め、社会的な不安感や不平等感が広がり、社会全体の結束力が低下させる。

フランスの出生率低下の原因
 フランスの出生率の低下には複数の要因が関わっており、各種議論はされているが、具体的な原因の特定は困難である。住宅の取得難や収入減少、男女間の不平等、女性のメンタル負担、エコ不安などが複合的に影響しているとされる。なかでも住宅取得の困難さは、若年層に対して安定した生活基盤を築くことを難しくし、結婚や子育てをためらわせる要因となっている。また、収入の減少は育児にかかる費用の負担感を増大させ、子どもを持つ決断を阻害している。調査によると、フランスの女性が望む子どもの数は平均で2.4人であるが、現実にはこの希望が実現されていない。これは、社会的・経済的な要因によって、子どもを持つことが難しくなっていることを示唆している。こうしたことは、しかし、フランスに限った話でもない。

他国の成功例
 日本には出生率向上の手本はフランスだという頓馬がまだ山間地域などに生息しているようだが、本場おフランスでは、ドイツやチェコが出生率を回復させた成功例として注目されている。ドイツでは出生率が1.3という非常に低い水準から1.6に回復し、その要因の一つとして移民政策の効果が挙げられている。チェコでは出生率がさらに高い1.8まで回復しており、これも公共政策と移民の役割が大きく影響しているようだ。 移民政策は出生率低下の影響を和らげる手段として有効だ。フランスも移民の受け入れを進めてきたが、ドイツは、移民の積極的な受け入れにより、出生率改善に成功しており、特に若年層の労働力を増やすことで、人口減少のリスクを抑えることができた。フランスも移民政策を強化することで、出生率の低下による労働力不足を緩和し、経済の停滞を避けることが期待されている。というお話もなんだかな感はあるように、この問題は裏面で複雑な問題を引きこす。

生産性向上の可能性
 人口減少に伴う労働力不足に対処するもう一つの方法として、さらなる生産性向上が挙げられる。この点でお手本となっているのは、日本である。冗談ではない。日本はテクノロジーとロボット化により、生産性を向上させることで人口減少の影響を緩和しようとしているとフランスは見ている。が、その効果はまだ限定的であるとも分析されている。高齢化の進展も急激な日本の介護分野では、ロボットを活用することで労働力不足を補おうとする取り組みが進んでいるが、コストや技術面での課題があり、改善は進行しているものの普及にはまだ困難な状況にあるというのだ。また、日本の製造業では自動化とロボット導入によって一部の生産効率が向上しているが、中小企業においては導入コストの高さが障壁となっている。とはいえ、経済の長期的な停滞を防ぐためには、移民等による労働力を増やすだけでなく、技術革新やデジタル化による生産性の向上は重要である。

参考】Le Cercle des Economistes: Natalité en baisse : le choc !

 

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2024.11.02

中国と台湾の軍事緊張

 2024年10月、台湾海峡で中国による大規模な軍事演習「Joint Sword-2024B」が実施された。戦闘機、艦船、ロケット部隊が動員され、台湾周辺の港の封鎖や海上・地上目標への攻撃がシミュレートされた。タイミングは台湾の頼清徳総統が10月10日の国慶節演説で台湾の独立を再確認した直後であり、中国政府による台湾への強い警告の意図が明確だった。
 軍事演習に至る背景には、両岸の政治的立場の違いがある。頼総統は演説で「中華人民共和国は台湾を代表する権利を持たない」と明言し、台湾の独立国家としての立場を強調。中国政府は強い反発を示し、台湾独立への断固たる反対を表明。ここまでは例年通りといってよく、軍事的圧力の強化へとつながる。が、エスカレートしている。
 緊張の高まりは数字にも表れている。中国軍用機の台湾防空識別圏(ADIZ)侵入回数は急増し、2021年の2回から2023年には726回に達した。ADIZとは国家が安全保障上の理由から設定する領空外の空域を指す。この侵入回数の増加に伴い、台湾軍のスクランブル発進回数も増加し、しだいにパイロットや機体への負担が深刻化している。どこかで何かが切れるのを中国は待っている。

政治的・外交的側面の複雑さ
 軍事的緊張の背景には歴史的・政治的要因が存在する。中国政府は「一つの中国」原則を堅持し、台湾を中国の一部とみなしている。この方針に基づき、中国は「一国二制度」の下での統一を提案している。「一国二制度」とは、一つの国家内で異なる政治体制を認める中国の統治方針を指す。しかし、香港での民主主義の後退が台湾の不信感を強めており、この提案の実現性は低下している。なお、日本人には奇妙かもしれないが、台湾政府、特に国民党独裁時代には、台湾も「一つの中国」原則を持っていた。形式的には今も持っている。台北政府は中国本土の政府であるという建前はある。
 さて、中国の強面の姿勢に台湾側の対応は慎重だ。頼清徳政権は「現状維持」を強調し、「台湾は独立も統一も求めず、現状も変えない」という立場を取る。この政策は台湾国内で広く支持されているが、中国は圧力をじわじわ増大する。この問題は両岸関係にとどまらず国際社会を巻き込みつつある。米国はキシンジャー政策で国連の中国政府をしゃらっと北京政府に入れ方さい、これまでの台北政府への責務から、米国法だが「台湾関係法」を事実上台北政府に与えた。機能的には日米安全保障条約に近いが、台湾の安全を保障するもので、以来台湾への武器供与を続けている。台湾関係法は、台湾との非公式な関係も規定しているが、国連の都合上、長く北京政府のメンツを守ってはいた。が、近年戦略的になし崩しになっていく。
 台湾は台湾で自国の国際的地位向上を試みてはいるが、中国はこれを阻止するために様々な手段を講じており、特に台湾の国際機関への参加を阻止する活動が目立つ。この外交戦は、軍事的緊張とも並行して進行しており、各地域の安定に大きな影響を与えている。端的にいえば、中国政府がお金をばらまくならまだよいが、小武器をばらまいているのだ。

経済的相互依存と半導体産業の重要性
 政治的・軍事的な緊張とは対照的に、中国と台湾の経済は深く結びついている。2023年の両岸貿易総額は約2,800億米ドルに達し、特に台湾の対中輸出依存度は高く、全輸出の約40%を占めている。この経済的相互依存関係は、両岸関係の複雑にする。注目すべきは台湾の半導体産業の存在である。台湾は世界の半導体生産の重要拠点であり、特に先端半導体の生産では圧倒的なシェアを持つ。この産業の重要性が、台湾の戦略的価値を高めると同時に、安全保障の一環でありつつも、中国との緊張関係における脆弱性にもなっている。
 最近の軍事的緊張の高まりは、経済関係にも影響を及び、台湾企業が中国からの生産拠点移転を加速させている。これがグローバルなサプライチェーンの再編にも波及し、特に半導体産業では、各国が自国生産の強化を図るなど、地政学的リスクへの対応が進む。日本では、表向きは「ものづくり日本、栄光の半導体産業」のような馬鹿げた修辞が使われるが、裏にある動機は、半導体に依存する安全保障上の恐怖なのである。

偶発的衝突のリスクと日本の立場
 経済的な微妙な相互依存関係がある一方で、先に触れたように軍事的な緊張の高まりは偶発的な衝突のリスクを増大させている。軍事活動の増加に伴い、誤解や事故から紛争が拡大する危険性が現実味を帯びてきている。2024年2月には金門島付近で中国漁船と台湾当局の船が衝突し、中国人2人が死亡する事件が発生したが、このような小規模な衝突が、より大きな紛争に発展するリスクが懸念される。中国の軍用機が台湾のADIZに頻繁に侵入していることは、誤解や事故のリスクを高める要因となっている。こうしたリスクを軽減するため、現実的に様々な取り組みが進められている。両岸間のホットライン設置や、国際的な仲介努力などがその例だが、これらの取り組みが十分な効果を上げているとは言い難い。
 緊張状態は、地域全体の安全保障に影響を及ぼし、日本もその例外ではない。日本は国連の手前「一つの中国」政策を支持しつつ、台湾との非公式な関係を強化するという微妙なバランスを取っている(この背景には民間レベルで膨大な物語もあるのだ)。とりあえず日本も防衛政策として、台湾有事を想定した準備を進めるてはいるが、率直なところ、斜め上に暴走しそうな石破政権自体が大きなリスク要因になりつつある。

今後の展望と国際社会の役割
 今後の展望だが、短期的には(1-2年)、現在の緊張状態が続く可能性が高い。中国は軍事的圧力を維持しつつ、経済的な影響力を利用して台湾の孤立化を図ると予想される。一方、台湾は国際社会との連携強化を通じて、中国の圧力に対抗しようとするだろう。この期間、先述した偶発的な衝突のリスクは高い水準で推移すると考えられる。中期的な展望(5-10年)では、軍事バランスが中国に有利に推移すると予想されるが、台湾の戦略的重要性は半導体産業などを背景にまだ維持されるだろう。この状況下で、国際社会の関与がこの地域の安定に重要な役割を果たすと考えられる。長期的には、というのを以前、𝕏(Twitter)で呟いたら、奇妙なバッシングをくらった。世界を中長期的に見れない輩にそのヴィジョンを見せるものでもないなあと思ったので、ここでは控えておく。
 中長期的には米中関係の動向が重要になる。これは特段言うまでもないが、問題は従来のような継続的な米国関与の延長ではどうにもならなくなる地点が見始めることだ。おっと、そこを述べるのは控えておくということだった。
 

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2024.11.01

米国大統領選挙予測技術

 米国大統領選挙の予測技術が変化している。変化せざるをえない。従来の世論調査や経済志向に基づく予測手法では、複雑化する米国選挙情勢は捉えきれなくなった。米国では社会的分断が深刻なほど進み、選挙戦となれば過剰なほどの接戦化する中で市民の意思の流動も激しく、実態が掴めず、常に新しい選挙予測モデルが模索される。というわけで、ブロガーもお勉強してみるというわけだ。
 米国では当然ながら、大統領選挙予測技術が話題になるし、なり続けてきた。2008年の米大統領選挙で注目された「FiveThirtyEight」や2012年の大統領選挙のために開発された「Votamatic」など、それぞれに当時は高い予測精度を誇った。が、2016年選挙では失敗。全国レベルの支持率などの予測からでは、もはや現在の大統領選挙結果を正確に予測することができそうにもない。マスメディアが採用する州レベルでの予測でも従来のモデルは限界を見せている。

高度な機械学習技術
 そこでAIの登場である。最近はなにかとそうだが。しかたないよ。高度な機械学習技術が応用されているんだし。こうした現代の選挙予測注目すべき技術の一つは「Fuzzy Forests」。これは従来の「Random Forest(複数の決定木を組み合わせる学習モデル)」を拡張した手法で、相関性の高い特徴をグループ化し、各グループから最も影響力のある特徴のみを選別して、その影響力を見る。分極化の実態がわかるというわけだ。2020年選挙の分析ではこの技術で「党派的分極化」が選挙結果に与える影響を定量的に評価できた。
 他の新技術、でもないが、実際はすでに枯れた技術とも言えるかもしれないが、選挙が近づく市民の感情分析にはNRCクラスファイアも依然応用されていて、発展している。これは約14,000語の語彙を「怒り」「期待」「嫌悪」「恐れ」「喜び」「悲しみ」「驚き」「信頼」という8つの基本感情に加え、「ポジティブ」「ネガティブ」という2つの感情極性を評価するのだが、加えて、Transformerアーキテクチャに基づく(いや単に昨今のGPTのことだが)、BERTやRoBERTaが導入される。文脈を考慮したより高度な感情分析が実現しているというのだが、どうだろうか。技術的には対しかことなくても、選挙で妥当性が証明されれば、へーということにはなるだろう。

マルチモーダル分析
 選挙予測技術には、画像や動画も含めた総合的な分析手法として、マルチモーダル分析も試される。言語情報以外にも着目しましょうと。まあ、これもこの分野の人間なら、「これ、どうすか?」くらいなものであるが、主にSNS上に投稿される様々な形式のコンテンツがマルチモーダルに統合的に解析されている。というか、単純な話、𝕏(Twitter)に文字も書けない、読めない層が、インスタとかショートムービーとかやってるけど、それも拾っておけよという話だ。また、マルチモーダルというわけで、CNN(畳み込みニューラルネットワーク)やRNN(リカレントニューラルネットワーク)を用いた視覚・音声データ解析で、選挙集会の様子や候補者の表情、支持者の視覚的反応などから情報が抽出されるようになった。従来の感情分析では見落とされていた非言語的な情報が予測モデルに組み込める、のだが、どんなもんすかね。
 こうした各種処理には、定番のAWSやGoogle Cloud Platformなどのクラウドインフラが活用される。選挙直前の急激なデータ量の増加にも対応するスケーラブルな予測システムの構築が用意される。そりゃ、祭りには想定外の熱狂が起きるかもしれない。Apache KafkaやApache Flinkといった分散型データ処理フレームワークも導入される。選挙期間中の急激な意見変動や感情の変化を即時に捉えようとする。まあ、これは予測技術というより、メディアにネタを提供するためだ。バスケットボール観戦みたいにするための技術だ。

SNSデータの高度な活用
 当然ながら、SNSである。ゴシップなんかも、これだしね。で、インフルエンザ、じゃないや、インフルエンサーだ。SNSデータの分析において、インフルエンサーの影響力を定量的に評価することは重要な課題となっている。なんの地獄? でもこのソーシャルネットワーク分析では、グラフ理論から発展した「中心性指標」を用いてネットワークの主要ノードの影響力を測定する。ページランクやクラスタ係数といった指標も、特定のユーザーが持つ情報拡散力を評価する上で有効な手段となっている​。これは、しかし、もう自己ループの世界だよな。ようつべでひろゆき踏んだら、延々に出てくるみたいな、あれだ。ホリエモンも出てきたりする。なんの地獄?
 そうそう。これらの分析の前段ともなるが、選挙予測の精度を脅かすボットやフェイクニュースへの対策も進んでいる。機械学習を用いたボット検出技術により、不自然な投稿パターンや特徴的な文章構造を持つアカウントを自動的に特定し、データセットから除外できる。

予測精度向上のための新技術
 選挙予測モデルの信頼性を確保する上では、AIの判断過程の透明性確保も課題だ。うん、課題だろ? この課題に対応するため、SHAPやLIMEなど機械学習モデルの予測結果を解釈するツールの導入が進んでいる。ブラックボックス化してしまう深層学習モデルの判断プロセスを可能な限り可視化し、どの要因が予測結果に影響を与えているのかを明らかにする必要がある。この分野で、特にSHAPは、ゲーム理論に基づくアプローチを採用して各特徴量が予測結果に与える影響を定量的に評価する。米国大統領選挙では、特定の州での選挙結果の予測において、経済指標、SNSの感情スコア、世論調査データなど、どの要因がどの程度影響しているかも分析できる。

選挙予想技術の課題
 選挙予測技術はAIの進化にともない、各種急速に進化を遂げている。巨大な鉛筆も考案されている。わけないか。でも依然重要な、そしてシンプルな課題も残されている。SNSデータのカオス的な特性である。SNS利用者は必ずしも全有権者を代表していない。それどころか、世論とは逆になることもある。いや、そればっかじゃん。お友だちのなかにれいわ新選組なんていますかね。こうしたデータのバイアスは補正しなければならないが、これに対する基礎的な理論は構想されていない。まあ、鞭なの紙布であるが、いろいろ模索されているから、補正のための個人情報保護やプライバシーへの配慮も必要になっている。意味あるんだろうか。
 選挙予測技術の発展で、地域別の感情動向分析に基づくマイクロターゲティングは当然活用される。都市部と農村部で異なる政策課題への関心度を分析し、それぞれの地域に最適化されたキャンペーンメッセージを配信ているからな。まあ、これは、どっちかというと選挙予想技術じゃないか。でも、SNSプラットフォームの広告配信機能と組み合わせることでうんたらといっても、SNSのカオス的な特性を考慮すると、その効果そのものが確かなものであるとも言い難い。

 AIとSNSデータを活用した選挙予測は、さらなる発展を遂げるだろうが、これらの技術は、民主主義のプロセスに寄与していると言えるのだろうか。そもそもこれらは、いったい何に寄与しているのだろうか。まあ、そんなに古場化にしていても、私たちの市民生活はこんなものに飲み込まれてて、そして精神は蝕まれている。この記事がすでにそうだろ。

参考
1. Dey, Sreemanti, and R. Michael Alvarez. Fuzzy Forests for Feature Selection in High-Dimensional Survey Data: An Application to the 2020 U.S. Presidential Election. 3rd International Conference on Applied Machine Learning and Data Analytics, 16-17 Dec. 2021.
2. Srinivasan, Satish Mahadevan, and Yok-Fong Paat. "A Data-Centric Approach to Understanding the 2020 U.S. Presidential Election." Big Data and Cognitive Computing, vol. 8, no. 9, 2024, p. 111. MDPI, https://doi.org/10.3390/bdcc8090111.
3 Hasan, Md Rumman, Elke A. Rundensteiner, and Emmanuel S. Agu. "EMOTEX: Detecting Emotions in Twitter Feeds for the 2016 U.S. Presidential Election." Proceedings of the 2022 IEEE/ACM International Conference on Advances in Social Networks Analysis and Mining (ASONAM), IEEE, 2022.

 

 

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