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2024.10.06

新型コロナワクチン追加接種をどう考えるべきか

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のパンデミックが始まってから約4年が経過し、mRNAワクチンの導入から3年以上が経った今、日本における新型コロナ対策は長期的な対応を踏まえる局面を迎えているはずだ。2023年5月、日本政府は新型コロナウイルス感染症を季節性インフルエンザと同様の第5類感染症に分類し、厳格な隔離措置や全数把握を不要とした。しかし、一部で無料のワクチン接種は継続され、高齢者や基礎疾患を持つ人々には追加接種が推奨されている。2023年時点ですでに一部の国民には6回目または7回目の接種が提供されており、ワクチン接種の進展により新型コロナに対する懸念は薄れつつあるものの、追加接種の必要性については疑問の声も上がっている。
 ここでは、関連研究を踏まえ、日本における新型コロナワクチンの追加接種の必要性について考えなおしてみたい。特に、「ハイブリッド免疫」と呼ばれる現象に注目し、ワクチン接種と自然感染の両方を経験した個人の免疫応答について再考した。

ハイブリッド免疫の重要性
 「ハイブリッド免疫」とは、ワクチン接種後に自然感染を経験することで獲得される強力な免疫応答のことを指す。この免疫状態では、通常のワクチン接種のみでは得られない、より高い中和抗体価や幅広い免疫応答が観察される。2024年に大阪歯科大学や兵庫医科大学の研究者らによって発表された論文「mRNAワクチン接種後の新型コロナ感染に伴う抗体価の増加と時間的変動:追加接種の意義に関する考察」(DOI: 10.1002/ccr3.8953)では、ハイブリッド免疫を獲得した個人の抗体価の長期的な推移が報告されている。
 この研究によると、事例件数は少ないものの、ワクチン接種後に新型コロナに感染した患者が、感染後6ヶ月以上にわたって高い抗体価を維持していることが確認された。具体的には、40代の女性医療従事者のケースでは、3回のワクチン接種後に感染を経験し、その後6ヶ月以上にわたって高い抗体価が維持された。また、70代の夫婦のケースでは、4回目のワクチン接種後に感染し、1年間にわたって高い抗体価が持続した。
 さらに注目すべきは、2023年2月時点で日本の人口の42.3%がN抗体(感染経験を示す抗体)を保有していたという事実である。これは、日本の多くの人々がすでに新型コロナの自然感染を経験していることを示唆している。2022年初頭には日本人の70%以上が2回目のワクチン接種を受けており、2023年5月までに累積感染者数は約3400万人に達していたことを考慮すると、日本では多くの感染者がワクチン接種後にオミクロン株に感染していると推測される。
 これらのデータから、日本人の大半がワクチン接種と自然感染の両方によるハイブリッド免疫を獲得していると考えられるのではないだろうか。このような免疫状態にある個人に対して、頻繁な追加接種が本当に必要なのかという疑問も生じてくる。

個人差と基礎疾患の影響
 ハイブリッド免疫の効果は個人によって異なり、年齢、性別、基礎疾患、遺伝的要因などが影響を与えることが知られている。特に、免疫機能が低下している患者や基礎疾患を持つ患者では、ワクチン接種後の抗体応答が弱くなる傾向がある。
 例えば、透析を受けている患者や血液疾患患者では、新型コロナワクチン接種後の抗体価が低いことが報告されている。このような患者群に対しては、追加接種の必要性が高いと考えられる。一方で、健康な成人やハイブリッド免疫を持つ人々に対しては、抗体価の維持が確認されている場合、必ずしも頻繁な追加接種は必要ではない可能性がある。
 また、新型コロナワクチンの接種により、血液悪性腫瘍患者においてワクチン関連高代謝性リンパ節症(VAHL)が誘発されることがあり、スパイクタンパク質に対する抗体価が高いほどVAHLの発症率が高くなるという報告もある。このような副作用のリスクを考慮すると、ハイブリッド免疫によって高い抗体価が維持されている場合、追加接種には慎重な判断が必要となる。

変異株への対応と長期的な免疫応答
 抗体価が高く維持されているとしても、新たな変異株に対する防御効果が限定的である可能性は否定できない。新型ウイルスは急速に変異を繰り返していると見られ(これにはまったく異なる観点からの重視すべき異論が存在するが)、新たな変異株に対する既存の抗体の効果は不確定である。この点を考慮するなら、抗体価だけでなく、中和抗体や細胞性免疫の役割についても検討する必要はある。
 中和抗体は、ウイルスが細胞に侵入するのを防ぐ重要な役割を果たし、感染防止に直接的な効果を持つ。一方、メモリーT細胞は長寿命であり、ワクチン接種後8ヶ月経過しても重症化を抑制するのに十分な数が維持されると考えられている。本来なら、これらの免疫応答の長期的な変化を追跡することが、追加接種の必要性を判断する上で重要となるはずだった。

専門家の見解と市民の認識のギャップ
 日本では、感染症専門家がメディアやソーシャルネットワーキングサービスを通じて新型コロナワクチンの接種を呼びかけてきた。しかし、専門家の発言に科学的な根拠が不十分であり、整合性に欠けると考えているという市民の声が高まっている。この認識のギャップは、「マスク食事法」の推奨など、一部の感染対策に対する批判的な意見にも表れている。
 追加接種に関して、市民の間で強い懐疑的な見方が広がっている背景には以下のような要因があるだろう。

  1. 効果の疑問:多くの人々が既にハイブリッド免疫を獲得している可能性が高い中で、追加接種の効果に疑問を持つ声が多い。特に、若年層や健康な成人において、頻繁な追加接種の必要性に疑問を呈する意見が増えている。
  2. 副反応への懸念:新型コロナワクチン接種後の副反応に関する報告が広まり、追加接種によるリスクを懸念する声が大きくなっている。特に、心筋炎などの稀ではあるが重篤な副反応のリスクが、追加接種を躊躇する要因となっている。
  3. 過剰な推奨への不信:日本が世界的に見ても極めて多い回数の接種を推奨していることに対し、その科学的根拠を疑問視する声が上がっている。6回目、7回目といった追加接種の必要性について、明確な説明が不足していると感じる人々が多い。
  4. 情報の不透明性:ワクチンの有効性や安全性に関するデータの公開が不十分だという批判がある。特に、追加接種の必要性を判断するための明確な基準や、長期的な安全性データの不足が指摘されている。
  5. メディア報道への不信:一部のメディアがワクチンの効果を過大に報道し、リスクを軽視しているという批判がある。これにより、ワクチン接種全般に対する不信感が高まっている。

 

 

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