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2024.10.10

ハリケーン「ミルトン」は米国大統領選挙に影響するか?

 現在(日本時間10月10日)、カテゴリー5という最大級のハリケーン「ミルトン」がフロリダ州を襲っている。このハリケーンはフロリダ州に甚大な被害をもたらすだけでなく、11月に控えた大統領選挙にも大きな影響を与える可能性がある。
 すでに9月末にアメリカ南部を襲ったハリケーン「ヘリーン」はカテゴリー4で、フロリダ州に広範な被害をもたらし、洪水や土砂崩れ、家屋の損壊により230人以上が犠牲となった。多くの地域で復興が遅れており、被災者は厳しい生活を続けている。
 そうしたなか、10月5日(以降米国時間)に発生したハリケーン「ミルトン」はフロリダ州西海岸に接近し、2024年10月8日にはカテゴリー5の勢力に達し、中心気圧は897hPa、最大風速は155kt(約80m/s)となった。その後、一度カテゴリー4に弱まったものの、再びカテゴリー5に再発達した。ミルトンによる高潮は最大13フィート(約4メートル)に達する見込みで、過去最大規模の被害が懸念されている。総雨量は広範囲で200mmを超え、局地的には400mm以上に達する見込みで、ヘリーンの影響が残る地域にはさらなる被害が予想される。
 フロリダ州では、すでに2024年10月9日時点で51郡に非常事態宣言が発令され、約590万人に避難命令が出された。ミルトンの上陸を前に、多くの避難所が設置されたが、停電や生活インフラへの影響が長引くかもしれず、住民の生活に深刻な打撃を与えることが予想されている。
 余談だが、「ヘリーン」「ミルトン」という命名は所定のリストから選んでいるだけのようだ。なお、ミルトンは『失楽園』で有名な詩人を連想させ、ヘリーンはギリシャ神話のヘレナに由来する。

オクトーバーサプライズの可能性
 このハリケーン「ミルトン」はオクトーバーサプライズとなるだろうか。「オクトーバーサプライズ」とは、選挙直前の10月に発生し、有権者の投票行動や選挙結果に大きな影響を与える出来事を指す。これは意図的に引き起こされた事象だけでなく、自然災害のような予期せぬ出来事も含む。重要なのは、その出来事が選挙結果を左右するほどの影響力を持つことである。
 今回のハリケーン「ミルトン」の襲来は、2024年11月5日に予定されている米大統領選挙にも大きな影響を与える可能性がある。自然災害への政府の対応は、有権者の支持率に大きく関わるものだ。過去の事例を見ると、2005年のハリケーン「カトリーナ」では、ブッシュ政権の遅れた対応が強く批判された。具体的には、連邦緊急事態管理庁(FEMA)の初動の遅れ、被災者への支援物資の配布の遅延、避難所の不十分な管理などが問題視され、これらの要因が2006年の中間選挙で共和党が大敗した一因となったと分析されている。対して、2012年のハリケーン「サンディ」では、オバマ大統領の迅速な対応が評価され、再選に寄与したとされている。オバマ大統領は災害発生前から各州知事と直接連絡を取り、迅速な災害宣言を行った。また、被災地訪問や救援活動の指揮など、リーダーシップを示す行動が有権者に好印象を与えたと考えられている。
 バイデン政権は、ヘリーンとミルトンの両ハリケーンに対して迅速かつ適切な対応が求められている。この対応の結果は、民主党のハリス候補と共和党のトランプ候補のどちらに有利に働くかを大きく左右するだろう。特に、災害対応は有権者にとって政府の能力を評価する重要な指標となり得るため、ミルトンへの対応が今後の選挙に与える影響は非常に大きい。
 政府の対応が迅速で効果的と評価されれば、ハリス候補にとって支持率の上昇や選挙での優位性につながる。市民の安全を最優先し、困難な状況でリーダーシップを示すことで、有権者からの信頼を得ることができるからである。他方、対応が遅れたり問題が生じたりすれば、トランプ候補にとって現政権の不備を攻撃する絶好の機会となる。特にバイデン政権の災害対応能力への批判を繰り返してきたトランプ候補にとって、ミルトンへの対応の失敗は選挙戦を有利に進める材料となるだろう。選挙直前に発生する自然災害は有権者の心理に大きく影響を与える。やはり、今回の対応が選挙結果を大きく左右する「オクトーバーサプライズ」となる可能性が高まっている。

フロリダ州への影響と選挙結果
 フロリダ州は、米国大統領選挙の重要な激戦州であり、選挙結果において非常に大きな役割を果たす州である。フロリダは選挙人票の数が多く(30票)、過去の大統領選挙においても勝敗を左右する決定的な州でもあった。近年の選挙では、フロリダ州はわずかな差で勝敗が決まることが多く、2016年の選挙ではトランプ候補がフロリダで勝利し、それが最終的な当選に大きく寄与した。また、2000年の選挙ではフロリダ州の票が最終的にブッシュ候補の勝利を決定づけた。このため、ハリケーン対応が選挙結果に直接影響を与える可能性が高く、ミルトンへの対応がハリス候補とトランプ候補のどちらに有利に働くかが注目されている。フロリダ州は政治的にも多様性があり、高齢者層、ヒスパニック系住民、都市部と農村部のバランスなど、様々な有権者層が存在するため、各候補にとって重要な戦略拠点となっている。
 ミルトンは選挙の技術的な面にも影響を与える可能性がある。2024年9月末のヘリーンでは、ノースカロライナ州で郵便投票用紙の配布に支障が出た例があった。同様に、ミルトンによる投票所の運営や郵便投票への影響が予測されており、投票率の低下や投票権の行使に制約が生じる恐れがある。洪水や道路の閉鎖が投票所へのアクセスを困難にし、多くの有権者が投票に行けないという事態になる。停電や通信インフラの損傷により、電子投票システムや郵便投票の手続きに遅れが生じる恐れもある。こうした状況は、投票率の低下だけでなく、選挙の公平性や透明性に対する懸念を引き起こしうる。さらに、災害による混乱が長引けば、一部の地域で投票日が延期され、その対応が両候補にどのように影響を与えるかが注目される。

 

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