書評 『ヨーロッパ文学の読み方――近代篇』(沼野充義・野崎歓)
前回放送大学学部の『世界文学の古典を読む 』を聴講し、そのテキストを紹介したが、その続きで、『ヨーロッパ文学の読み方――近代篇』を聴講した。テキストはアマゾンなどでも販売されている。今見たら、残り一点とあるので、ここでその1点がはけて枯渇すると中古本プレミアム価格になりかねない。放送大学テキストは他書店でも販売しているが、放送大学に問い合わせても販売しているし、なにより最寄りの学習センターも販売しているので、そっちをあたったほうがいいかもしれない。
講義およびテキストでは、扱う作品は国ごとに分けられている。
第1回 スペイン
セルバンテス『ドン・キホーテ』
第2回 イギリス(1)
シェイクスピア『ロミオとジュリエット』
第3回 イギリス(2)
スウィフト『ガリヴァー旅行記』
第4回 イギリス(3)
ブロンテ『嵐が丘』
第5回 ドイツ(1)
ゲーテ『若きヴェルターの悩み』
第6回 ドイツ(2)
トーマス・マン『トーニオ・クレーガー』
第7回 フランス(1)
ルソー『告白』
第8回 フランス(2)
バルザック『ゴリオ爺さん』
第9回 フランス(3)
プルースト『スワンの恋』
第10回 ロシア(1)
ドストエフスキー『罪と罰』
第11回 ロシア(2)
トルストイ『アンナ・カレーニナ』
第12回 ロシア(3)
チェーホフ短編小説『せつない』『ワーニカ』『かわいい』と戯曲『かもめ』
第13回 アメリカ(1)
ホーソーン『緋文字』
第14回 アメリカ(2)
ジェイムズ『ねじの回転』『密林の獣』『黄金の盃』
どれも名前は聞いたことがあり、読んだことがあるものが多く、その分、筋立ては知っているだけというのもある。こうしたなんとなく馴染んでいる作品を、あらためて大学の授業として学ぶと得るところは意外に大きかった。特にイギリスの回では、フェミニズムやカルチュラル・スタディーズの視点が組み入れられているのだが、こうした視点を敬遠していた自分でも納得する点は多かった。あと、『黄金の盃』は関心事だったので、よかった。
受講しながら、青春に読み残した小説や、再読してみたい小説がいろいろ浮かび、これを機会に、ネットを使った読書会もやってみたいと思うようになった。というわけで、とりあず、『トニオ・クレーゲル』を課題にはじめてみた。参加は自由なので、よろしければ。
さて、この放送大学の講義なのだが、テキストには言及がないが、これは、過去のテキストもあった。2007年『世界の名作を読む』である。
第1回 セルバンテス『ドン・キホーテ』前篇
第2回 セルバンテス『ドン・キホーテ』後篇を読む
第3回 エミリー・ブロンテ『嵐が丘』
第4回 ドストエフスキー『罪と罰』
第5回 チェーホフ『ワーニカ』『可愛い女』『犬を連れた奥さん』
第6回 ハーマン・メルヴィル『書写人バートルビー』
第7回 マーク・トウェイン『ハックルベリー・フィンの冒険』
第8回 プルースト『失われた時を求めて』
第9回 プルースト『失われた時を求めて』
第10回 ヴァージニア・ウルフ『ダロウェイ夫人』
第11回 カフカ『変身』
第12回 カフカ『断食芸人』
第13回 イタロ・カルヴィーノ『魔法の庭』『楽しみはつづかない』
第14回 イタロ・カルヴィーノ『ある夫婦の冒険』『ある詩人の冒険』
これが、放送大学の講義ルーチンの4年である、4年後に改定される。2011年の『世界の名作を読む 改訂版』である。
第1回 セルバンテス『ドン・キホーテ』(一)
第2回 セルバンテス『ドン・キホーテ』(二)
第3回 昔話:シャルル・ペローとグリム兄弟
第4回 ダニエル・デフォー『ロビンソン・クルーソー』
第5回 シャーロット・ブロンテ『ジェイン・エア』
第6回 ドストエフスキー『罪と罰』
第7回 チェーホフ『ワーニカ』『可愛い女』『犬を連れた奥さん』
第8回 ハーマン・メルヴィル『書写人バートルビー』
第9回 マーク・トウェイン『ハックルベリー・フィンの冒険』
第10回 ジュール・ヴェルヌ『八十日間世界一周』
第11回 フローベール『ボヴァリー夫人』
第12回 フローベール『純な心』
第13回 フランツ・カフカ(一)『変身』
第14回 フランツ・カフカ(二)『断食芸人』
第15回 女性と文学-ヴァージニア・ウルフとコレット
大きめな変更としては、イタロ・カルヴィーノがフローベールに入れ替わった感じである。で、このテキストには朗読CDがついているのが特徴である。
この2011年版が一般書籍かされている。『世界の名作を読む 海外文学講義 (角川ソフィア文庫) 』である。作者は、講師陣がならんでいる。工藤庸子、池内紀、柴田元幸、沼野充義という並びを見ただけで買いでしょう。Kindle Unlimitedにも入っている。
「放送大学でロングラン9年の大人気講義」とあるが、こうして比べてみると集大成感はある。
1. セルバンテス 『ドン・キホーテ』 (工藤庸子)
2. 昔話――シャルル・ペローとグリム兄弟 (工藤庸子)
3. ダニエル・デフォー 『ロビンソン・クルーソー』 (工藤庸子)
4. シャーロット・ブロンテ 『ジェイン・エア』 (工藤庸子)
5. ドストエフスキー 『罪と罰』 (沼野充義)
6. チェーホフ 『ワーニカ』『かわいい』『奥さんは小犬を連れて』 (沼野充義)
7. フローベール 『ボヴァリー夫人』 (工藤庸子)
8. フローベール 『純な心』 (工藤庸子)
9. ハーマン・メルヴィル 『書写人バートルビー』 (柴田元幸)
10. マーク・トウェイン 『ハックルベリー・フィンの冒険』 (柴田元幸)
11. ジュール・ヴェルヌ 『八十日間世界一周』 (工藤庸子)
12. フランツ・カフカ 『変身』 (池内紀)
13. フランツ・カフカ 『断食芸人』 (池内紀)
14. 女性と文学――ヴァージニア・ウルフとコレット (工藤庸子)
15. マルセル・プルースト 『失われた時を求めて』 (工藤庸子)
16. イタロ・カルヴィーノ 『魔法の庭』『楽しみはつづかない』『ある夫婦の冒険』 (工藤庸子)
というわけで、これは「買い」として、最初の現在の講義である『ヨーロッパ文学の読み方――近代篇』との異同はどうかというと、作品としては同じである『ドン・キホーテ』『失われた時を求めて』が異なっていて、また、沼野充義先生の講義も若干変わっている。全体的に、一般書籍は軽い印象はある。
ところで、こうした世界の名作というか、西欧の近代文学の古典は、一種の教養の一部のようにみなされているわりに、実際にはどのくらい読まれているかというと、意外と読まれてはないだろう。ただ、光文社の新訳はそれなりの評価を得ているとは思う。
今回、講義を聞いてまた、書籍化された『世界の名作を読む』も読んで思うのだが、こうした作品は現代からはなんらかのガイダンスがないと読みにくいだろう。定評ある学者によるまとまった入門書はとてもヘルプフルだし、そこから原典を読んでみると、なるほど面白い。
あと、現代の大学では、教養学部でこうした世界文学の講義はあるのだろうかとも思った。私の大学時代では、講義でも指摘されていたが「原語主義」で翻訳書は扱われなかった気がする。おかげで 、Paradise Lostも原典で読まされたし、Bertlebyも。
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