書評:『ようこそ実力至上主義の教室へ 2年生編9』(衣笠彰梧)
『ようこそ実力至上主義の教室へ 2年生編9』がキンドルのライブラリーに配信されていたことで、予定どおり発刊されていたことを知り、そのまま読んだ。このラノベ作品は魅力的で興味深い登場人物、スリリングなプロット、パズル的なテキストが含まれていて、魅力的である。
以下にネタバレを含む。
『ようこそ実力至上主義の教室へ 2年生編9』では、修学旅行が終了した12月、2学期最後の特別試験・協力型総合筆記テストが発表される。内容は、1人ずつ交代で試験問題を解き、最終的にクラス全員で全100問のテストを解くというもので、主人公・綾小路のいる堀北Bクラスは坂柳Aクラスとの対戦となる。
試験準備が始まる中、南雲が次期生徒会長を決めることになる。期待される2年生の生徒会メンバーは堀北と一之瀬であるが、立候補を問われるものの一之瀬は生徒会自体を辞めると伝える。これに、鬼龍院を狙った万引き偽装事件が絡んで発生する。一見関連のないような事件が有機的に探偵小説のように絡んでいる謎解きが今回の楽しみの一つである。
生徒会長の南雲だが、これまでも注目されてきたが、今回は噛ませ犬的に冴えない。冒頭、南雲はこれまで好敵手に恵まれてこなかったことや、高校に入るまでは勉強やスポーツなどが常にトップで、今のように人気者だったという挿話がペーソスになっている。南雲としては、異質な才能を持つ綾小路を試金石に自分の実力が本物かを試すために多くの策を打ってきた。が、結局、今回も不発に終わる。このあたりはさすがにネタバレは控えたいが、面白い展開だった。前生徒会長・堀北も不発で終わったが、こうした、なんだか残念でしたという挿話もこの作品の独自の趣向だろう。噛ませ犬といえば、けっこう人気の高いキャラである鬼龍院もその一人といっていいだろう。
今回の試験は、クラス全員が参加する学力テストで、AクラスとBクラス、CクラスとDクラスが勝負する「協力型総合筆記テスト」だが、既刊のようなパズル性はない。)試験日は、12月22日でその次の日に結果が明かされる。ということで、クリスマス前の事件が予感される。
生徒会室周りには変化が生じる。一之瀬が生徒会を抜け、八神が退学したので、堀北には1年生と2年生から1人ずつ生徒会役員を探すことになるが、まあ、そこは予想通りで、いつもの『ようじつ』の物語の慣性で、櫛田を含めた、期待した展開になる。あと、ここで、ボスキャラと目される石上のキャラ絵が登場する。
今回のテーマは一ノ瀬の変化だろう。一之瀬は、やっぱり綾小路が好きだと再認識することで(つまり軽井沢を蹴落とすこと)で、悪の深みのある人間に変容するが、ここも率直にいってさらなる悲劇のための仕込みだろう。あらかた予想されているが、二人は坂柳との関連で退学となるだろう。ボスキャラとして残るのは、堀北と石上だが、この構図では、龍園などワイルド要素が弱いので、なんか派手なバトルが組み込まれるだろう。あと、龍園と山村の関連で坂柳もその後退場するだろう。
新たなキャラクターの登場というか展開は次回以降の仕込みだろうが、うまい。表紙もそれだしな。率直に言って、彼らは一ノ瀬退場後の綾小路のコマとなっていくだろう。『ようじつ』で面白いのは、それほど目立たないキャラのキャラ感が面白い。現実離れしたキャラが多いのでいいバランスになっている。
次回作についてはすでに言及したが、軽井沢の悲劇と自立、一ノ瀬の悲劇と自立がかなりロマンチックに語られるだろう。
アニメのほうは、紆余曲折というかなかなかに奇妙な背景もあったが、2期13話も終わり、続きは原作小説の8巻となる。つまり、一年生編は三学期を残すばかり。原作のほうはその一年後という感じだろう。まあ、がちゃがちゃ適当なことを書いたが、このラノベは面白い。そして、最終的なテーマはけっこう形而上学的なものになるだろう、つまり、『ニーベルングの指環』でヴォータンが自身の滅びを期待するというあれである。さしあたり、ブリュンヒルデが堀北なのであろう。
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