[書評] 英語独習法(今井むつみ)
正直なところ、この手の本は読まないことにしている。英語と限らず外国語、しかも日本語からかけ離れた異言語を簡易に習得する方法はないし、死んだ言語でもなければ独習というのもほぼ不可能だからだ。とはいえ、本書『英語独習法』(今井むつみ)は、表題の含意とは異なり、むしろ、そのような私の持論のような内容だと聞き、それではと、読んでみた。ベストセラーともなっているらしく、しばらく在庫切れだった。ふとアマゾンを見たら在庫があるのでポチった。
読んでみて、予想通りだった。論旨としてはほとんど異論がなく、僭越ながら、自分が書いた本のような錯覚すらした。その意味では、悪意で言うのではないが、やや退屈な本でもあった。書店で見たら買っただろうかと問い直して、まあ、買っただろうとは思った。コーパス関連の部分は購入してじっくり読んでみたい印象があった。が、実際にその部分を精読してみると内容は薄い感じはした。というか、英語コーパス関連については、別途書籍を読んだほうがよさそうだった。
ということで、話が尽きてしまうのもなんなので、一番共感したのは、「目標を考えない英語学習の不思議」という主張である。
英語学習を始める第一歩は、自分が必要な英語はどのようなレベルなのか――つまり英語学習で達成したい目標――を考え、自分はその目標のためにどこまで時間と労力を使う覚悟があるのかを考えることだろう。
まったくもってそのとおり。
なのだが、ふと再考するに、案外その目標設定は明確なのかもしれない。日本人が英語を勉強するのは、大学受験のためである。そして、ぶっちゃけた話になるが、大学受験でいちまいちだったら、その次は、リターマッチでTOEICで所定の点を取るということだ。700点台、800点台、900点台。グローバルに考えれば、CEFR(外国語の学習・教授・評価のためのヨーロッパ言語共通参照枠:Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment)のB1かB2だろう。TOEICでの対応概算もできる。
というところで、実は本書には、CEFRの言及はないことに気がつく。批判したいわけではないが、その言及があってもよかっただろう。
ついでにいえば、ESL(第二言語としての英語 :English as a Second Language)の実態と日本の中学校・高校の英語教育の比較があってもよかったようにも思う。
が、それだと、それもまた一冊の本になってしまうだろうか。
もったいぶった話になってなったが、むしろ、本書はあまりかまえずに読めるのが利点でもあるだろう。
あと、「だよね」とつい口を突く話もけっこうある。
たとえば、「リスニング力の向上」。
どうするか。まとめると、①語彙を増やす、②スキーマを使う、③マルチモーダルな情報を手がかりにする、と書かれているが、ようするに「スキーマ」って何?「マルチモーダルって何?」という知識を得るのも本書の目標でもあるだろう。認知科学である。著者の専攻には、他に言語心理学、発達心理学がある。別の言い方をすれば、第二言語教育の専門家ではない、が、そこがあえてヒットした好著ではあっただろう。
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