« [書評] はたらく魔王さま(全26巻) | トップページ | bellumという言葉 »

2020.08.24

『はたらく魔王さま』の時代 リーマンショック後の1年

 『はたらく魔王さま』を全巻読み終えて、昨日のエントリ書いて、なんかとても大切なことを忘れているなと思った。一晩寝たら、思い出した。時代である。デフレが永遠に続くように思われ、そして東北震災が来ていない時代である。あの時代の、風景や人々の心情をよく描いている、と。
 物語の時間は、一年ほどではないだろうか。ヒロインの一人、佐々木千穂(アニメでは声・東山奈央)は、物語の初めでは、東京都立笹幡北高校2年生、16歳。ウィキペディアを見ると、「8巻で17歳」とある。最終巻近くでも受験生なので、せいぜい18歳くらいか。もっとも物語では回想や未来的な部分もあるが。
 リアルタイム時間では、2010年の第17回電撃小説大賞銀賞の『魔王城は六畳一間!』からなので、魔王が日本にやってきたのは、2009年としてよさそうだ。リーマン・ブラザーズ・ホールディングスが破綻したのが2008年9月15日。リーマンショックはその少し前から始まっている。ウィキペディアを借りると、日経平均株価も大暴落。9月12日(金)終値は12,214円は、10月28日には一時6,994.90円まで下落。余談だが、経済打撃がこれ以上のコロナ騒ぎだが、株価にはまだ影響が来ていない。リーマンショックで各国政府はインフレ政策を取って金はできるだけ流れるようにはしていた。
 第一次・安倍改造内閣がぶっ倒れたのが、2007年9月26日。福田康夫内閣が約1年、麻生内閣が約1年、終了が2009年9月16日。麻生さんなりに、リーマン対応をして力尽きる。政権交代して、鳩山内閣、菅内閣、野田内閣と、目まぐるしい入れ替わりが終了したのが、2012年(平成24年)1月13日。それから、自民党に戻り、石原伸晃内閣かと思われたが、事実上の麻生さんのクーデターみたいなもので予想外に第二次安倍政権ができたものの、今や日本史史上最長安定政権となり今に至る。
 話を、『はたらく魔王さま』に戻ると、つまり、この世界は概ね、民主党政権にあたる。そして、もう一つのエポックが2011年(平成23年)3月11日の東北地方太平洋沖地震と福島原発事故。で、こちらは、『はたらく魔王さま』のあとがきにもあるが、扱わなとしている。それは、震災以前というより、震災のなかったパラレル・ワールド日本という含みとして捉えていい。
 つまり、『はたらく魔王さま』には、東北震災という日本史の事件はないのだが、まったくのパラレルではなく、風物はその時代に固定されている。印象深いのが、バスタ新宿のない新宿である。というわけで、この物語の新宿南口の描写はとても郷愁を誘う。とはいえ、バスタの起工は、2006年4月8日。完成までに10年というところだったが、なんだか、当時は永遠に工事してなんあという印象があった。そういえば、新宿駅も中が通り抜けできるらしいが、コロナ籠もりで行ってないな。
 『はたらく魔王さま』の時代背景で特徴的なのは、携帯電話である。ヒロインの一人、遊佐恵美(アニメでは声・日笠陽子)は「ドコデモグループ」のお客様相談センターの契約社員になっている。ここでスマホの歴史を振り返ると、日本でiPhoneが出たのは、2008年(平成20)年のソフトバンクから。ドコモがiPhoneを出したのは、2011(平成23)年。このあたりから、「スマートフォン」の呼称が現れる。つまり、『はたらく魔王さま』はこの過渡期にあたる。
 魔王は日本では、しばらく携帯電話を持っていない。購入したのは13巻で、「ドコデモ」SIMフリーの「スリムフォン」だが、まあ、2011年のスマホでよかったか。再読時に確認したい。なお、魔王の日本の初期設定年齢は20歳。バイトに明け暮れるが、就職氷河期の大学生という世代ではない。
 というわけで、概ね、2010年から2011年の日本の風景を『はたらく魔王さま』はよく描いていた。ラノベはいずれ史料となるのだろう。
 ここでは風俗的なエポックを抜き出したが、史料のメインとなるのは、マクドナルドなどのバイト労働者や、携帯のお客様対応契約社員の生活風景だろう。
 ラノベといえば、『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の刊行は、2011年3月18日から2019年11月19日。物語時間は、2011年から始まるとしていいだろう。1年間の出来事だ。リアル日本で言えば、東北地方太平洋沖地震と福島原発事故の世界だが、そうした風景は見えない。携帯電話はガラケーからスマホに以降していく。
 『はたらく魔王さま』とほぼ同時代日本設定だが、こちらが無残な改編アニメ化だったのに対して、『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』は比較的ラノベに沿って(というか作者が声優指導に入っているらしい)、2020年時点の完結となったので、映像的には風俗が微妙に変化されているようにも感じられる。

 

|

« [書評] はたらく魔王さま(全26巻) | トップページ | bellumという言葉 »