ヴィニエット(Vignette)はなぜヴィニエット?
「実践ビジネス英語」で英会話の部分は「ヴィニエット」と呼ばれている。先日、「あれ、なぜ、ヴィニエット、というのか?」と娘に聞かれ、返答に窮した。
言われてみれば、気にはなっていたが、意味が不明瞭ということもなく、特に調べていなかった。迂闊であった。
当初の違和感は覚えている。「ette」は「小さい」ものを示すフランス語由来の接尾辞だから(もとはイタリア語ではないかな)、それに比して大きな「Vign」があるはずである。というか、そりゃ、普通にある。「葡萄」である。つまり、vignetteは「小葡萄」であるはずだ。が、それがなぜなのか?
いや他にも違和感はあったのだった。
写真の加工でも「ヴィニエット」や「ヴィニエッティング」がある。縁側から暗くして焦点を明示するエフェクトだ。これもなぜ、vignetteなのか?
さらに欧州で、自動車のフロントガラスにペタこら貼ってある証明シールも vignette である。
どういう意味の派生になっているのか?
そのヒントはたぶんあれだ。ブックデザインで表紙や扉とかにつける装飾的なフレームや挿絵が vignetteと言われている。あれだ。
みなさんのお手元の岩波文庫があれば、どれでもいいから改めて表紙を見てほしい。縁に模様が付いているでしょ。何の模様か? 見ればわかるように、葡萄の模様である。つまり、これがヴィニエットの原義のようだ。ということで、「小葡萄」は、葡萄の実の小ささより、葉や弦を指しているのだろう。
ちなみに、新潮文庫の表紙も見てほしい(裏表紙も)。こっちは縁ではないけど、やっぱり葡萄の装飾画が付いている。以前の河出文庫もそうだった。なお、角川文庫や講談社文庫などは葡萄ではない。
この葡萄柄縁取りの起源だが、ざっと調べると、書籍には中世からあったらしい。なぜ、中世でそれが採用されたのかは、よくわからない。
そして写真加工の「ヴィニエット」だが、岩波文庫の表紙のように縁が葡萄模様のようになっているのが、その縁を暗くしたという比喩からのようだ。
自動車のフロントガラスに貼る証明シールが vignette と呼ばれる理由はよくわからない。フロントガラスの縁取りをするからだろうか? あるいは貼ってあるあの四角の紙に縁取り模様(というか罰金表記)があるからなのか。理由は、おそらく後者っぽい。
ところで冒頭にもどって、英会話例のようなちょっとしたお話がなぜ、「ヴィニエット」なのか。はっきりとはわからないが、新潮文庫のように、ちょっとした印刷物の表紙に葡萄模様があることから、ちょっとしたお話という意味の延長のようにも思われる。
語源辞書(etymonline.com)にはこう。
Meaning "literary sketch" is first recorded 1880, probably from the photographic sense.
ほかケンブリッジ辞書にはこうある。
vignette
a short piece of writing, music, acting, etc. that clearly expresses the typical characteristics of something or someone:
She wrote several vignettes of small-town life.
そういうえば、英会話の例を昔はなんて言ってたかと思い出すに、「スキット」だったように思う。こちらの語源はと、調べると、これも意外に複雑そうだった。直感的には、Sketch comedyのようにも思うが、語源辞書には別の説明があった。
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