新潮社の雑誌『波』2020年8月号に中島真志著『アフター・ビットコイン2』の書評を書きました
連絡が遅れてしまいましたが、新潮社の雑誌『波』2020年8月号に掲載した、中島真志著『アフター・ビットコイン2』の書評がネット公開になっていました。『奇っ怪なマネーの世界』(参照)です。
同書については、先日ブログにも書評的なものを書きましたが、『波』のほうは、一般向けに書いた比較的短い文章なので、よろしかったらお読みください。というか、該当の『アフター・ビットコイン2』はお勧めです。
* * *
現時点での余談のような話を以下に追記的に書きたい。
本書『アフター・ビットコイン2』は、副題の《仮想通貨vs.中央銀行 「デジタル通貨」の次なる覇者》にも示されているように、各種の仮想通貨と各国政府の中銀行デジタル通貨の争いということで、民間と国家に大別される各種のデジタル通貨の便覧的なまとめとして読むことができる。
が、本書は、そうした各種のバラエティをフラットにカタログ的に記述するのではなく、時代の潮流を変えた象徴としてのリブラを基軸に、そこに内包された重要性から、体系的に描いている。つまり、デジタル通貨原理から描かれているので、その本質がわかりやすい。そこが本書の真価であろうと思う。
また著者はこの決済分野の実務経験が豊富なこともあり、いわゆるデジタル通貨技術という側面に加え、実際に決済として利用されたときの、大口と小口の関連についても詳細に描いている。端的に言えば、デジタル通貨という大きなくくりよりも、その運用面である決済に利用される大口と小口とい運用の差からデジタル通貨の実際を理解することも重要である。
とはいえ。『波』掲載の書評では、あえて現在のデジタル通貨の薄暗い側面を中心に捉えた。この部分の興味深い点は、端的に言えば、特にビットコインの投機性である。
デジタル通貨が決済手段であれば、価格が安定していることが望ましく、その安定性からドルなどと連動する「ステーブルコイン」が活用されるはずだ。が、現実には、投機性の高いデジタル通貨は投機の過程での一時退避・蓄積として「ステーブルコイン」が使われているようだ。
あたかも、各国の金融規制から逃れるようにマネーが動く側面において、現在の民間のデジタル通貨が利用されている実態がある。
これが、近未来、各国の中央銀行デジタル通貨の登場によって、一掃されるか、整理されるか。
本書はそうしたダークサイドへの踏み込みは抑制的だ。にもかかわらず、こうした投機性の背景に、香港が重要な意味をもっているだろうことがかなりきっちり暗示されていて興味深い。
あまり陰謀論めいた関心をひっぱりたくはないのだが、国家安全法をめぐる香港の動向の裏で、香港の金融、特にデジタル通貨の背景はどのようになっているのか、なにかしら薄暗いものはありそうだ。
また、本書はまさに、デジタル通貨への大変動気の過渡期に書かれたことも、結果的に特徴となっている。すでに今月に入って、中国のデジタル通貨は香港を含め、グレーターベイエリアでの運用も視野に入てきている。中国デジタル通貨の動きは、西側諸国が新型コロナ騒ぎに囚われているなか、実に着実に進められている。
日本のジャーナリズム的にはどうか。奇妙な期待論が浮かんでいる。香港は一連の騒動で金融センターの競争力を失い、そうした機能は東京に移るのではないかという期待論である。
こうした話題をふかしたい気持ちもわかるが、東京が国際的な金融センターとなるとき、デジタル通貨の扱いの面で、どのように想定されているのか、像が結ばない。
7月に経済財政諮問会議で示された『骨太方針の原案』にもデジタル通貨の記載が含まれているが、具体的なイメージはわいてこない。
おそらく骨太は、7月の日銀の『中銀デジタル通貨が現金同等の機能を持つための技術的課題』(参照PDF)を背景にしているのではないか。そのわりに、同書は基本的にスマホベースの小口の技術論のように見え、日本政府や日銀動向からは金融センターとの関わりは見えてこない。この点はまさに、同書の結語の曖昧さが暗示的だ。
CBDC を巡っては、本稿で取り扱った決済⼿段という視点だけではなく、その発⾏が⾦融システムや⾦融政策に与える影響も含め、検討すべきテーマが多岐にわたる。社会の中銀マネーに対するニーズを的確に汲み取り、デジタル社会に相応しい中銀マネーのあるべき姿について、様々な視点から議論を深めていく必要がある。
その必要性は、象徴的な言い方になるが、本書『アフター・ビットコイン2』が方向性をすでに示しているのである。
| 固定リンク