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2020.07.10

中国語には単独の子音は存在しないのではないか

 前回の記事で介音と四呼についても書くつもりだったが、ブログの1記事としては長過ぎるようにも思えたし、書いてみると別の話題にも思えたのでこちらに分けた。
 さて、介音と四呼について考えているうちに、どうもこれは何か変だなという感じがしていた。チョムスキーが昔、アイロニーとしてではあっただろうし、正確な引用ではないが、言語の音声は子音と母音に分けられる、というような説明はそもそも言語学の範疇ではないというようなことを言っていた。とはいえ、言語の音素体系がどのようになっているかというとき、子音と母音の区別はアプリオリな前提のようにも思える。実際にはその境界的な音も存在するが、音素体系としては子音と母音の区別を前提に構造的に記述できる。
 現代中国語音も同様に思える。ローマ字化された拼音を見ていても、台湾華語の拼音として採用されている注音符号を見ても、基本、声母と韻母で分けられていて、声母は子音のように見える。
 だが、中国人 YouTuber の話を見ていて、また、実際の中共・台湾での音声教育を見ていても、声母は介音とセットで発音されている。それにさらに韻母が付くという学習をしているようだ。注音符号の場合、その事実上の別称である「ㄅㄆㄇㄈ」からして、「ボポモフォ」のように介音的な母音を含めて、呼ばれている。
 これらは、印欧語のラテン字母であるABCDを「エービーシーデー」といったように、字母名として理解しがちなのだが(実際その理解でよいのだが)、彼らの幼児教育を見ていると、単に字母名ではなく、介音つきで発話された音声が事実上の字母であり、子音それ自体と区別されていないようだ。
 というあたりで、中国語には単独子音は存在しないのではないかもしれない、という疑問が湧いてきた。そもそも、「ㄓ ㄔ ㄕ ㄖ ㄗ ㄘ ㄙ」では単独でも声帯音を含んでいる。ここがローマ字化では、特にsi などで混乱の元になる。
 中国音の子音の、こな奇妙な特性は、ようするに介音が事実上、子音の付属であることがある、というを暗示しているのではないか(もっとも完全に付属ではないが)。そこを織り込んだ形で、「四呼」の分類法もあるのだろう。ただ、それがローマ字化拼音とうまく整合しているようには見えない。
 そこで四呼だが、これは明代以降の韻母の考えかたで、開口呼・斉歯呼・合口呼・撮口呼の四つに分類することだ。これらは、Palatalization(口蓋化)、Labialization(口唇化)、Labio-palatalization(口唇・口蓋化) であり、構造減額的には音素論に統合されるallophones(異音)なのではないかとも思える。つまり、斉歯呼・合口呼・撮口呼と呼ばれているものは、すべてではないにせよ、子音側の調音(articulation)の影響なのだろう。 -ian が[iɛn]となるのも、、Palatalizationに類する現象だろう。
 具体的に見ていよう。

両唇音 ㄅ ㄆ ㄇ ㄈ
 両唇音のㄅ ㄆ ㄇ ㄈは、b p m f ではあるが、どちらかというと、bo po mo fo である。またこのdistribution(分布)を見ていくと、介母音iは付くが、介母音uと介母音üが付かない。両唇調音時点で、Labializationで 事実上の介母音 u が子音に含まれているのだろう。

歯茎音 ㄉ ㄊ ㄋ ㄌ
 歯茎音のㄉ ㄊ ㄋ ㄌでは、介母音üはnüのみでAssimilation(同化)は見られない。Neutralな ㄜ [ɤ]を事実上の介母音として持っているのだろう。

軟口蓋音 ㄍ ㄎ ㄏ
 軟口蓋音のㄍ ㄎ ㄏでは、介母音iと介母音üが付かないのは、Palatalizationできないためだ。介母音uを持っていると見てもよいだろう。

歯茎硬口蓋音 ㄐ ㄑ ㄒ
 歯茎硬口蓋音のㄐ ㄑ ㄒはそもそも、介母音iを含んでいる。これに対して、そり舌音のㄓ ㄔ ㄕ ㄖは、介母音iが後続しない。介母音iについては、ㄐ ㄑ ㄒとComplementary Distribution(相補分布)なっている。つまり、これらは同一の子音なのではないか。また、これらの分布は歯茎音のㄗ ㄘ ㄙについても同様であり、軟口蓋音とも同関係になる。
 どうなっているのか?
 おそらく歴史的な音変化の経緯からすと、ㄐ ㄑ ㄒは軟口蓋音のㄍ ㄎ ㄏの口蓋化音であろう。いわゆるCentumとsatemが言語境界ではなく同一言語内になっているような現象だ。とはいえ、現在の調音点(point of articulation)の差から同一音素とするのは学習者には混乱するだろう。

 話がごちゃごちゃしたようだが、いくつか簡素に言えそうなことはあるように思う。

① ㄐ ㄑ ㄒ(j q x)は、ㄍ ㄎ ㄏ(g k h)の一種だろう。
  なので、日本語の「九(kyu:kiu)」が、ㄐㄧㄡ(jiǔ)なるのが理解しやすい。

② 摩擦音(fricative)の子音系の対立は、そり舌の有無だろう。
  拼音では、z c sとzh ch shとしているが、このhがそり舌化の直感を示しているかもしれない。
 ところで、このそり舌なのだが、北京語のㄦ化から推測するに、ㄜの強意形であり、もしかすると、介音としてㄦがあるのではないか。

③ 純粋に単独の母音と言えるのは、ㄚ ㄛ ㄝ(a o e)だけではないか。
  つまり、ㄞ ㄟ ㄠ ㄡ(ai ei ao ou)では、いわば、「語末の介音」のような現象なのではないか(ㄦ化も含めて)。

 

 

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