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2020.07.20

「粉飾決算」にはなぜ「粉」が付くのか?

  人によっては簡単な問題というか、愚問に近いのかもしれないが、ご存知?

飾決算」にはなぜ「」が付くのか?

 「粉飾」という熟語の構成は、「電飾」に似ている。この2語が同じ構造で、「電飾」が「色とりどりの電灯をつけて飾ること」というなら、「粉飾」は、「粉をつけて飾ること」のようになりそうだ。
 もちろん、違う。本来は、「扮飾」。
 「扮」の意味は、「装う」ということ。なので、「扮う(よそおう)」「扮る(かざる)」と訓じることもできる。なので、「扮飾」の構成は、「よそおいかざる」である。
 つまり、「粉飾」は「扮飾」とすべきところの、「扮」を「粉」で置き換えただけのことだ。
 別の漢字で置き換えていいのか?
 国語の問題だったら、「粉飾決算」という書き取りはバツじゃないのか?
 「扮飾決算」の「扮」を「粉」にするのは、「代用字」というのだが、これは、1956年(昭和31年)7月5日に国語審議会が示した「同音の漢字による書きかえ」という指針に沿っている。つまり、政府お墨付きの誤字なのである。

「同音の漢字による書きかえ」について(報告)
 国語審議会は,当用漢字の適用を円滑にするため,当用漢字表にない漢字を含んで構成されている漢語を処理する方法の一つとして,表中同音の別の漢字に書きかえることを審議し,その結果,別紙「同音の漢字による書きかえ」を決定した。
 当用漢字を使用する際,これが広く参考として用いられることを希望する。

 とはいえ、当用漢字表になければなんでも代用字にしていいかというと、そうもいかないので、いくつか例を挙げている(参照PDF)が、そこに、「扮」の代用字を「粉」とする例がある……と思ったら、なかった! たぶん、報道社などが適当に決めて流用したのだろうが(調べてみると日本新聞協会の指針ようだが)、とすると、「粉飾」が正しい表記であるという国家的な根拠はなさそうだな。
 とはいえ、「当用漢字」は、1981年(昭和56年)に廃止され、代わりに政府から、「常用漢字表」が告示された。で、これで、代用字はなくなったかというと、そうでもない。そもそも常用漢字表に「扮」がない。代用字は続くのだが、さて、この代用字のルールは何に依存しているのかよくわからなくなった。そしてまだ「粉飾決算」が残っているのである。ほかにも、ネットでたまに話題になるが、「日食」と「日蝕」なども。
 常用漢字表は2010年(平成22年)に文化審議会の答申をもとに改定された。新しく、196字が追加された。「扮」はない。「同音の漢字による書きかえ」については、「臆」「潰」「毀」「窟」「腎」「汎」「哺」「闇」の8字が戻ったはずだが、「闇」には「アン」の音がないので、「闇夜」には戻らない。ただ、志賀直哉が1921年(大正10年)から雑誌『改造』に連載した『暗夜行路』も「暗夜」なので、代用字がすでに戦前から普及していたのだろう。
 「扮」は使われていないかというと、普通に見かける。検索したら、映画ナタリーというサイトに《「弱虫ペダル」キンプリ永瀬廉、伊藤健太郎ら扮する総北メンバーを一挙紹介》とあった。
 常用漢字表に従うなら「ふんする」と書くか、あるいは、「粉する」と書くことになるのだろうか。よくわからない。
 「扮」はそれほど使いでのない、どちらかといえば珍しい漢字なのかというと、なんとも言い難い。ちなみに、「紛争」の「紛」は常用漢字表にある。
 「扮」は中国語ではかなり頻度高い。
 「扮」が「粉」になったのは同音だからということだが、中国語では、「粉(fěn)」と「扮(bàn)」 でまったく音は異なる。「扮」の意味は日本語とほとんど同じ。 

 

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