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2020.07.04

「中华人民共和国香港特别行政区维护国家安全法」雑感

 「中华人民共和国香港特别行政区维护国家安全法」(参照)通称、「香港国家安全維持法」または「香港国安法」が6月30日の中国全人代常務委員会で可決され、全文公開期間の間もなく、しかも中国語(普通話)のみで同日午後11時から施行された。このどさくさ感。英文も仏文もないという国際世界無視。これだけでも、すぐに「これはやっべーやつだ」という印象を免れない。西側諸国としても、香港の一国二制度は死んだ、という報道が続いた。
 しかし、たぶん、こういう意味だろう程度のラフな感じではあるが、憶見なく冒頭を読んでみよう。

第一章  总    则

第一条  为坚定不移并全面准确贯彻“一国两制”、“港人治港”、高度自治的方针,维护国家安全,防范、制止和惩治与香港特别行政区有关的分裂国家、颠覆国家政权、组织实施恐怖活动和勾结外国或者境外势力危害国家安全等犯罪,保持香港特别行政区的繁荣和稳定,保障香港特别行政区居民的合法权益,根据中华人民共和国宪法、中华人民共和国香港特别行政区基本法和全国人民代表大会关于建立健全香港特别行政区维护国家安全的法律制度和执行机制的决定,制定本法。

(「一国二制度」、「香港人香港を統治する」、高度な自治の方針を揺るぎなく包括的かつ正確に実施するために、国家安全保障を維持し、国家権力を破壊し、テロ活動を組織し、国家安全保障およびその他の犯罪を危険にさらすことや外国または外国軍と共謀するなど、香港特別行政区に関連する国の離脱を防止、停止、処罰し、香港特別行政区の繁栄と安定を維持し、香港特別行政区の居住者の合法的な権利と利益を保護するために、中華人民共和国の憲法、中華人民共和国の香港特別行政区の基本法、および国家安全保障を維持するための香港特別行政区の法制度と執行メカニズムの確立と完全化に関する全国人民代表大会決定において、この法律を制定する。)

第二条  关于香港特别行政区法律地位的香港特别行政区基本法第一条和第十二条规定是香港特别行政区基本法的根本性条款。香港特别行政区任何机构、组织和个人行使权利和自由,不得违背香港特别行政区基本法第一条和第十二条的规定。

(香港特別行政区の法的地位に関する香港特別行政区基本法第1条および第12条は、香港特別行政区基本法の基本規定である。香港特別行政区の組織、組織または個人は、権利と自由を行使するのに、香港特別行政区基本法第1条および第12条の規定に違反してはならない。)

 へえと思ったことがある。まず、中国は、名目上は、「一国两制」「“港人治港」という高度自治的方针を尊重しているというのだ。その上で、香港を使った形で、中国政府を転覆するような危機に備えるためにこうした法を作るのだとしている。そしてその上で、これは香港人にも利益となるという。
 このあたりの中国の言い分は、中国大使館の「香港国家安全立法について知っておくべき六つの事実」(参照)にくどくどと書かれている。
 こうしてみると、中国政府の、けっこう被害妄想的な心象が伺えるが、このあたり、ようするに香港人は他の地域の中国人と同じであるということなのだろう。同じくらいに人権は抑制されるということでもあるが。
 言い方は悪いが、今回の立法で、香港人の人権は絶望的というなら、中国人全体の人権も絶望的ということにはなるのだろう、たぶん。
 二条に読み進めて、さらに、へえと思ったのは、この法律が、香港特別行政区基本法の拡張だという、なんというか珍妙な論理である。NHKの加藤青延・専門解説委員の説明だと(参照)こういうことらしい。

ところが厄介なことに、今回の国家安全維持法は、その香港基本法に付属文書の形で盛り込まれたのです。香港基本法の規定上、中国の全人代はそのようなことができる仕組みにはなっていましたが、高度な自治を脅かすことになりかねないことから極力控えられてきました。しかし今回その仕組みを使うことで、国家安全維持法を香港基本法の中に組み入れたのです。もし香港の法律と抵触する場合は、国家安全維持法の方を優先する形にもなりました。

 こういう中国政府の発想が、日本人にも西側諸国にも奇妙に見えるというふうには、思わないのだろう。というか、ようするに、これは、中国国内問題の意識が先行しているのだろう。
 加藤解説委員はさらにこのからくりが、9月実施予定の香港議会立法会議員選挙で民主派が躍進することを阻止するためだと見ている。

その理由は今回の国家安全維持法が、香港の憲法、香港基本法に付属文書の形で組み込まれた点にこそあるといえます。つまり国家安全維持法は基本法の一部ということになります。立法会の議員になるためには、香港基本法に忠誠を尽くすという宣誓をしなければなりません。その基本法に民主派の人たちがとても受け入れられない法律をあえて組み込むことで、基本法への宣誓を難しくし、結果的に立候補への意欲をそぎ落とす。
あるいは、これまでの主張が香港基本法とは相いれないものだとの理由をこじつけて、立候補自体を認めないという強硬手段に打って出ることも可能になると考えたのではないでしょうか。立候補の受付が今月18日から始まることを考えれば、今この時期に施行に踏み切った事情も読めてきます。

 なるほどねと思う。
 これで、香港議会の民主化は封じられたのだろうか? 中国政府としては封じる仕組みは作った。しかし、実質国家意識を持ち始めた香港市民が中国政府の思惑どおりに従うとも思えない。

 

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