ハングルに介音はあるか?
ハングルに介音はあるか? だが、これは、ちょっと馬鹿げた疑問で、あるわけがない。
ではなぜ、こんなことを思ったかというと、中国語に介音の仕組みがあるなら、それを朝鮮語に音転写したとき、彼らは介音をどのように捉えたのか?という疑問があるからだ。そもそもハングルというのは、訓民正音にあるように、無学というか漢字が読めない民衆のために音価を補助する注音符号であった。
さて、この解答に関連と思われることがらはネットで容易に見つかる。世界の文字というサイトの「ハングル」という項目に次のようにある。
それまで中国においては,1 つの音節を声母(音節初頭子音)と韻母(介音,母音,声調)という 2 つの要素への分析しかしていなかったのに対して,「訓民正音」では初声,中声,終声という 3 つの要素の分析が行われた。例義は,初声・中声・終声,および,中国音韻学における声調である去声・上声・入声のについて言及している
この説明だと、いかにもハングルが優れているかのような印象を与えるが、実際には、中国音韻の考え方の、介音をハングルでは中声に統合してしまったわけである。
つまり、ハングルでは成り立ちからして、介音は存在しないかのようだが、実際のハングルのシステムを見ると、y については存在している。基本字母を見るだけで、明瞭である。
ㅏ…IPA: /a/(IPA: /a̠/、IPA: /ɑ̟/)
ㅑ…IPA: /ja/
ㅓ…IPA: /ɔ/
ㅕ…IPA: /jɔ/
ㅗ…IPA: /o/
ㅛ…IPA: /jo/
ㅜ…IPA: /u/
ㅠ…IPA: /ju/
ところが、w の系統の介音は安定していない。これらは、現在では合成字母としてこのようになっている。
ㅘ…IPA: /wa/
ㅙ…IPA: /wɛ/
ㅚ…IPA: /we/ (注意)
ㅝ…IPA: /wɔ/
ㅞ…IPA: /we/
ㅟ…IPA: /wi/
ㅗとㅜが入り混じっているうえに、y 系の介音の仕組みとも混ざっている。
もちろん、朝鮮語がそういう言語なのだし、これが当時は最適だったとはいえるだろうが、少なくとも、訓民正音では介音の考えは明瞭にはなっていない。
それがなぜかというのは、元になるパスパ文字の影響というか制約であったかもしれないし、写される当時の中国語音の制約もあるのかもしれない。いずれにせよ、ハングルの不備というものではないだろう。
それはそれとして、ハングルの合成字母の合成の仕組みを見ていて奇妙なのは、ㅚ(IPA: /we/)である。法則からすると、/wi/ であるはずだ。
以前の記事で触れたが、ㅚは元来、(IPA: /wø/)である。フランス語の peu [pø]である。が、ソウル方言で /we/ になった。
一見すると、/wi/ → /wø/ →/we/の音変化のようだが、私にはわからない。ただ、拼音的に考えるなら、こうなるはずだ。
ㅘ…/oa/
ㅙ…/oɛ/
ㅚ…/oi/
ㅝ…/uɔ/
ㅞ…/ue/
ㅟ…/ui/
このㅟ(/ui/)だが、元来は、/y/ であったようだ。
なんとなくではあるが、ㅗ 二重母音のパーツだが、ㅜは介音的なパーツに思える。
この印象は、ㅡ(IPA: /ɯ/)との関連でも感じられる。実際には、この音価はIPA: /ɨ/になっている。だが、合成ではこうなる。
ㅢ…/ɰi/
実際には、IPA: /i/ともなることもある(助詞의はIPA: /e/)。
의사 /ɯisa/ (医者)― ソウル方言 /ɯsa/
예의 /yeɯi/ (礼儀)― ソウル方言 /yei/
朝鮮語の音韻構造といては、Wikipediaによるが、半母音として次のように考えられているようだ。
ただ、これらは、訓民正音の成り立ちから見て、中国語介音の転写の問題ではなかったか。
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