中国語音韻がどのようにハングルに写るか
訓民正音は元来は中国語のふりがなの便宜として作られたもので、当時はなんらかの元になる中国語音があったと思うし、その対応の研究もあるだろうが、それとは別に現代中国語と現代朝鮮語の音韻をそのまま比較したらどうなるかと思っていたので、とりあえずまとめてみたい。中国語音韻がどのようにハングルに写るかという観点に立つ。
まず、訓民正音に立ち返る。訓民正音では、子音について、当時の中国音韻学に合わせて、牙音・舌音・唇音・歯音・喉音の5種類に分類している。つまり、もともとハングルは中国に適合するようにデザインされている。
子音について、牙音・舌音・唇音・歯音・喉音は、現代の、軟口蓋音・歯茎閉鎖音・両唇音・歯茎摩擦音・咽喉音に概ね相当する。ただし、朝鮮語の平音・激音・濃音という3対立は、少なくとも現代中国語にはない。
まず、朝鮮語の牙音・舌音・唇音・歯音・喉音のハングルだが、平音・激音・濃音で見ると、こう。
牙音 ㄱ→ㅋ
舌音 ㄴ→ㄷ→ㅌ
唇音 ㅁ→ㅂ→ㅍ
歯音 ㅅ→ㅈ→ㅊ
喉音 ㅇ→ㆆ→ㅎ
子音でもっとも簡単なのは、両唇音だろう。この対比は容易だ。これに唇歯音であるfを加えたいが、存在しない。
b ㅂ
p ㅍ
m ㅁ
f Φ(なし)
歯茎音で閉鎖音の比較も簡単にできる。簡易という点で鼻音と流音も加えておく。
d ㄷ
t ㅌ
n ㄴ
l ㄹ
軟口蓋音の対比も容易だ。咽喉音も含める。
g ㄱ
k ㅋ
h ㅎ
歯茎音の破擦音の対比はわからない。
z ?
c ?
s ?
そり舌音は朝鮮語には存在していない。
zh Φ
ch Φ
sh Φ
r Φ
歯茎硬口蓋音は近似で対比できそう。
j ㅈ
q ㅊ
x ㅅ
次に母音だが、単母音の対比は近似的に容易。
a ㅏ
o ㅓ ㅗ
e Φ
i ㅣ
u ㅜ ㅡ
ü ㅟ
意外なのだが、中国語には、単母音としては、[ɛ]と[e]が存在しない。
二重母音を見ていく。朝鮮語の二重母音と呼ばれているのは、 /y/ と /w/ という半母音(介音であろう)との組わせしかない。
ai Φ
ao Φ
ei Φ
ia ㅑ
ie ㅖ ㅒ
ou Φ
ua ㅘ
uo ㅝ
üe Φ
あと、中国語には「三重母音」とみなす場合もあるが、介音だろう。朝鮮語の場合は、二重母音に事実上の介音が混ざっているので、比較が実際はできない。
さらに、中国語の鼻韻母は介音を含めて16あるが、朝鮮語ではパッチムの対応になる。
an ang / ian iang / uan uang / üan
en eng / in ing / uen ueng / ün
ong iong
訓民正音における終音は、パッチムとして古代中国語音の印象を残している。
ㅇ(g) 응
ㅁ 음
ㄴ(n) 은
ㅂ 읍
ㄹ 을
ㄱ 역
以上、メモを作ってみて思うのは、訓民正音には介音の視点が抜けているため、どうしても中国語の韻母の対応ができない。もともと、東国正韻は漢字音に対応していないのではあるが。
不毛な試みのようではあるが、東アジアの漢字文化圏の生成的な俯瞰のイメージには寄与するものがあるように思う。
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