中国語を学んでいて、ある種困惑するのは、それが読めてしまうことだ。例えば。
我认识他。
Wǒ rènshí tā.
我認識他。
我、他ヲ認識ス。
われにんしきた
わ れんし た
Wǒ rènshí tā.
恐らく、「认识」は日本語であったものが、中国語に入ったのだろう。
いずれにせよ、この類推は便利なようでやっかいである。しかも、朝鮮語にも類似の関連がある。
音価についても、日本語の漢字音読みは中国語の「中古音」をもとにしている。中古音は変化したし、また、現代中国語普通話は北京語をもとにしているので、明白な対応はない。が、まったくないとも言えない。
こうした関係について、どうせなので、まとめてみたい。メモ作成は、東京外国語大学大学院総合国際学研究院 趙義成研究室の例をもとにした(参照)。この例は、漢字の日本語読み(音読み)からハングルを想定するための便宜だが、以下では、日本語の音読みと現代中国音の類推例の材料にしたい。
終声
国 guó 국 コク、学 xué 학 ガク、楽 lè 락 ラク
石 shí 석 セキ、激 jī 격 ゲキ、式 shì 식 シキ
経 jīng 경 ケイ、明 míng 명 メイ、生 shēng 생 セイ
江 jiāng 강 コウ、峰 fēng 봉 ホウ、風 fēng 풍 フウ
質 zhì 질 シツ、月 yuè 월 ゲツ、末 mò 말 マツ
一 yī 일 イチ、吉 jí 길 キチ、八 bā 팔 ハチ
万 wàn 만 マン、韓 hán 한 カン、本 běn 본 ホン、人 rén 인 ジン、君 jūn 군 クン
葉 yè 엽 エフ、甲 jiǎ 갑 カフ、法 fǎ 법 ハフ、集 jí 집 シフ
三 sān 삼 サン、談 tán 담 ダン、音 yīn 음 オン、心 xīn 심 シン、林 lín 림 リン
雑 zá 잡 ザツ、立 lì 립 リツ、接 jiē 접 セツ、圧 yā 압 アツ
母音
可 kě 가 カ、馬 mǎ 마 バ、打 dǎ 타 ダ、漢 hàn 한 カン、南 nán 남 ナン
健 iàn 건 ケン、言 yán 언 ゲン、鉄 zhí 철 テツ、先 xiān 선 セン
古 gǔ 고 コ、路 lù 로 ロ、祖 zǔ 조 ソ、温 wēn 온 オン、速 sù 속 ソク、農 nóng 농 ノウ
宇 yǔ 우 ウ、武 wǔ 무 ブ、物 wù 물 ブツ、分 fēn 분 フン、屈 qū 굴 クツ
金 jīn 금 キン、銀 yín 은 ギン、急 jí 급 キフ
美 měi 미 ビ、利 lì 리 リ、地 de 지 チ、引 yǐn 인 イン、室 shì 실 シツ、針 zhēn 침 シン
初音
落 luò 락 ラク、連 lián 련 レン、論 lùn 론 ロン、李 lǐ 리 リ
毎 měi 매 マイ、無 wú 무 ム
文 wén 문 ブン、謀 móu 모 ボウ
難 nán 난 ナン、寧 níng 녕 ネイ
男 nán 남 ダン、努 nǔ 노 ド
安 ān 안 アン、以 yǐ 이 イ、億 yì 억 オク、約 yuē 약 ヤク、腕 wàn 완 ワン
感 gǎn 감 カン、快 kuài 쾌 カイ
技 jì 기 ギ、軍 jūn 군 グン
単 dān 단 タン、択 zé 택 タク
団 tuán ダン、脱 tuō 탈 ダツ
反 fǎn 반 ハン、皮 pí 피 ヒ
部 bù 부 ブ、便 biàn 편 ベン
作 zuò 작 サク、創 chuàng 창 ソウ
造 zào 조 ゾウ、銃 chòng 총 ジュウ
散 sàn 산 サン、氏 shì 씨 シ
城 chéng 성 ジョウ、善 shàn 선 ゼン
漢 hàn 한 カン、希 xī 희 キ
賀 hè 하 ガ、現 xiàn 현 ゲン
電 diàn 전 デン、停 정 tíng テイ
鉄 zhí 철 テツ、添 tiān 첨 テン
では、暫定的な規則を考えてみたい。
規則1
入声(音節末子破裂音)は消える。
式 シキ(shiki) → shì
規則2
日本語読みで「ン」で終わるなら中国語音は「n」で終わる。
万 wànマン、本 běn ホン、人 rén ジン、君 jūn クン
規則2補足
中国語で「ン」のように聞こえても日本語読みが「ン」でなければ「ng」。
江 jiāng コウ、峰 fēng ホウ、風 fēng フウ
規則3
日本語読み(中古音)の有声子音は中国語では変化している。(規則的ではない)
学 xué ガク ga → x
激 jī ゲキ ge → j
月 yuè ゲツ ge → y
人 rén ジン ji → r
談 tán ダン da → t
言 yán ゲン ge → y
文 wén ブン bu → w
謀 móu ボウ bo → m
規則4
中古音のpは中国語ではb、日本語読みではh。(例外あり)
本 běn ホン
八 bā ハチ
やはりうまく規則にはまとまらない。だが、中古音からの変化が基点にあることはわかる。