"Seoul"をどう読むかとソウル方言について
"Seoul"をどう読むか? ふと疑問がわいた。
もちろん、答えは簡単である。[soul]である。英語の辞書を引くと"soul"(霊)と同じ発音と注書きがもある。注書きがあるのは、"e" の音は読まないということだ。Forvoに6例載っていたので確認したが、そこでの間違いはなかった。英語のスペリングは厳密な規則性がないので、スペリングから音声は決まらない。Seoulが問題にならないのはそのためであるが、eを無音にするのは、違和感がないわけでもない。
そこで、Seoulが実質、音声的にはsoulの異スペリングであるとして、ouは二重母音の扱いになる。つまり、Seoulで、1シラブルで、1母音である。
疑問はそこである。ハングルだと、서울であり、ハングル上は、ソ・ウルである。ここで、気がつくが、朝鮮語でも日本語同様、RとLの区別はない。が、ハングルのローマ字化では、初声は r 、終声は l 、ㄹが重なと ll である。パッチムは L で、後続が母音だと R である。なのだが、それはローマ字で合理的なのだろうか?
ちなみに、東京は日本語のローマ字だと、学校学ぶ訓令式だと Tôkyô で、ヘボン式だとTōkyōだが、どっちも普通は見かけない。Tokyo である。英語発音だと、トウキョだろうか。朝鮮語には長音はないので、東京は、도쿄である。トッキョが違いだろうか。
さて、"Seoul”というちょっと奇妙なローマ字がなされているのは、短母音のㅓ (/ɔ/)に"eo"を当てているからだが、そもそもは、ㅗ との母音区別からであった。
朝鮮語では、基本母音は、音素数では、10とされている(以下のまとめはWikipediaより)。
/a/ ㅏ [a] /ai/ 아이 [ai] (子ども)
/ɔ/ ㅓ [ɔ] /ɔdi/ 어디 [ɔdi] (どこ)
/o/ ㅗ [o] /oi/ 오이 [oi] (きゅうり)
/u/ ㅜ [u] /uri/ 우리 [uɾi] (我々)
/ɯ/ ㅡ [ɯ] /gɯ/ 그 [kɯ] (その)
/i/ ㅣ [i] /ima/ 이마 [ima] (ひたい)
/ɛ/ ㅐ [ɛ] /hɛ/ 해 [hɛ] (太陽)
/e/ ㅔ [e] /nue/ 누에 [nue] (蚕)
/ö/ ㅚ [ø] /sö/ 쇠 [sø] (鉄)
/ü/ ㅟ [y] /ü/ 위 [y] (上)
韓国語の学習書でもそう教えているが、外大の趙義成教授は、次のように述べている(参照)。
母音は南北ともに標準発音では10種類の単母音が区別される音として規定している。ただし,韓国の首都であるソウルで若い世代において実際に話されている言葉(ソウル方言)の発音を見ると,区別されている単母音は7種類である(以下【表1】参照。北の実際の発音は,現地に行ったことがないので不明)。日本語に即していえば,「ウ・オ」に当たる音がそれぞれ2種類ずつある。以前は「エ」に当たる音も2種類あったが(下記【表1】の標準語の母音を参照),現在この区別は急速になくなり,中年以下の世代では全く区別していない。いずれにせよ,5種類の単母音しか区別していない我々日本語母語話者にとって,少なく見積もっても7種類の母音を区別する朝鮮語は,発音の区別が難しいということができよう。
一見複雑そうに見える韓国語の母音だが、ソウル方言についていえば、7音と見ていいだろう。ここで気になるのは、韓国語の標準語とは何か?だが、「ソウルの教養ある人々が使用する言語」ということらしい。ただ、現実的には、ソウル方言としてよいのではないか。つまり、まず言えそうなことは、ㅐ と ㅔ の実質的な違いはない。ㅡとㅜは分かれているようだが、在日朝鮮語では消えると聞いたこともある。また、ソウル方言ではㅓの唇の丸めが弱いので実質音としては、日本語のオに近いだろう。実際、日常的な韓国語を聞いていると、日本語の響きとそっくりに聞こえるのは、それなりに母音の近接性があるからなのだろう。
いずれにせよ、基本母音が7音であるなら、ローマ字化にあたっては、Seoulのように、ラテン字母2を短母音に当てるよりは、フランス語のようにアクサンを使ったほうが良かったのではないだろうか。
ㅗ ó
ㅜ ú
この2つの導入でかなり母音表記はシンプルになるはずだ。あと、あくまで標準語にこだわるなら、記法上、次の3つを加えておくといいだろう。
ㅚ ö /we/ (ソウル方言)
ㅟ ü
ㅢ ý
そういえば、Duolingoでは、/y/母音系で、特に、ㅅ前で sh と表記されるので、調べてみると、これは、マッキューン=ライシャワー式の名残のようだ。この点、Duolingoは言語学的に整備しなおしたほうがいいだろう。ただ、実際のところ、/y/母音系としているうちㅅ前は、口蓋化ではないか。
濃音やパッチムもソウル方言の実音声的に整理して、合理的な再ローマ字化ができそうにも思うが、また。
あと、これに直接関係ないが、朝鮮語も漢字音を漢字に戻して、ハングルの使用を減らした記法にしたほうが、読みやすいし、日本人や中国人とも意思疎通がしやすくなると思う。ただその場合、日本漢字や簡体字を使うわけにもいかないというナショナリズム的な問題も起きるのかもしれない。総じていえば、簡体字にすればよいと思う。
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