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2020.05.01

新潮社の雑誌『波』2020年5月号に岡田尊司著『ADHDの正体』の書評を書きました

 4月28日に発売の新潮社の雑誌『波』2020年5月号(参照)に岡田尊司著『ADHDの正体』の書評(というか感想)を書きました。以前、岡田尊司先生の『人間アレルギー』の文庫について一筆したことがあり、その関連で同じく岡田先生がADHDについて詳しい本を書くのですが関心ありますかと言われ、自称大人のADHDの私は当然関心を持ったという次第。

Nami5

目次より
岡田尊司『ADHDの正体―その診断は正しいのか―』
finalvent/その症状、本当に「大人のADHD」ですか


 以前から、岡田先生はDSM-5について何か興味深いことを書きそうだなという予想を持っていたので、その期待も含まれていた。実際、読んでみたら、どんぴしゃり(昭和用語)だった。驚いた。

 


 率直に言って、「大人の発達障害」「大人のADHD」というもの、さらに、DSM-5と聞いてびびっと来た人は読んだほうがいいと思う本だった。さらに率直に言えば、新しい知見というより、この関連の問題の所在について、実によくまとまっていた。
 話が走ってしまったので、あえて少し回り道すると、日本の社会の精神障害を取り巻く事情には、奇妙なことが起こっている。この分野を一般向けに概括した2010年刊『やさしい精神医学入門』(岩波明)の「発達障害」に、こう言及されている。引用したい。なお、同書はその後、角川ソフィア文庫『精神疾患』(岩波明)に改題されている。

 この数年、「発達障害」はマスコミの話題として取り上げられることが多く、「はやり」の病気となった。これはジャーナリズムによる虚像の部分が大きいが、臨床の現場では、自ら進んで「発達障害」と診断してほしいと受診する人は数多い。
 特に、精神的な「不調さ」を自覚している人や、対人関係に不得手なために社会生活に適応できないと感じている人たちが、自ら「アスペルガー障害」ではないかと精神科を受診するケースが増加している。
 このような受信者たちは、「アスペルガー障害」や「ADHD」などの病名がつけられると、ほっとするようである。自分の人生が他の人と異なったり不調であったりする原因が、ようやくわかりましたと話すこともある。
 ところが発達障害という診断が否定された場合には、彼らは決まって強い不満を訴える。自分の状態はこの本に書いてあるように、あるいはインターネットのサイトに述べられているように、アスペルガー障害の症状にぴったりとあてはまっている。それなのに、どうして診断が違うというのか。医者にアスペルガー障害を診断する能力がないのではないかとしつこくいらだちを口にすることもある。

 この状況は私のような人間には痛いほどわかるというか、実際、痛い。
 とはいえ、私は私でひねくれた人間なので、なぜ近年、大人のアスペルガー症候群が社会の話題に出てきたのかについてある程度知っていた。端的に言えば、診断基準も変化し、診断しやすくなったし、お薬も対応するようになったからだ。この経緯は、本書『ADHDの正体』に詳しい。
 この問題はさらに混迷しているようだ。『やさしい精神医学入門』が書かれた時点では、《自閉症にしても、ADHDにおいても、脳機能の障害を基盤とした「疾患」である》とされていた。この部分は、前提としては現状でもそうだろうが、実態としてはそうではないだろうことが、最新の状況を描いた本書『ADHDの正体』から読み解ける。
 いずれにせよ、なんであれ、困惑している本人が、なんらかの診断がつくことで安心できたとしても、問題の根幹である症状が緩和するか、あるいはお薬が効けばよい。だが、これも実態としては、うまく対応できているようではないのだ。
 こうした現実において、本書『ADHDの正体』は、精密に問題の切り分けを進めている。それがさらにDSM-5の改訂にまで進むかわからないが、本書の方向はおそらく正しい道ではないかと私は思う。
 本書の理論構成としては、環境か遺伝かという二分法に陥りがちな問題領域でありながら、その中間的とも言えるエピジェネティクス的な視点にも着目している。その意義は、後期の吉本隆明の心的現象学の一部をなす『母型論』にも似て、社会的な受容においては難しい側面もあるだろう。
 本書は、ハウツー的な安易な解決を与えてくれる本でもなければ、偽の安心を与えてくれるわけでもないように思われる。それでも、この分野の社会問題がどこに進むべきかを示してくれる。
 もし、現状の社会が間違った道に進んでいるなら、人は立ち止まり、自分を見つめ直すきっかけが必要である。本書はそのきっかけになるだろう。その意味で、私のような自称ADHDに近い人間のみならず、教育者や、こうした問題に関心を持つことになった育児中の親御さんにも一読を勧めたい。

 

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