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2020.05.28

国家安全法が香港に導入される

 先ほど、中国の国会に当たる全国人民代表大会(全人代)が「国家安全法」を香港にまで導入する方針を採択した。これで、中国本土政府が、香港での反政府活動を厳しく取り締まる法的基盤ができた。
 これで事実上、香港の高度な自治を認めた「一国二制度」が崩壊であり、中国は、国際世界が目を向けるなか、国際世界との約束ともいえる香港の「一国二制度」を公然と破った。国際法が通じない国家になった、驚きもないのだが。
 国際世界はこの事態を阻止できなかったのだろうか、というと、それなりに努力はした。なかでも特記すべきことは、米国トランプ政権下で共和党指導の下「2019年香港人権・民主主義法(Hong Kong Human Rights and Democracy Act of 2019)」が昨年末成立していたことだろう。
 が、所詮は阻止は無理だっただろう。その上で、もっとも懸念されることは、天安門事件の再来である。
 香港では、反対活動が盛り上がっていて、流血事態になるのではないかという懸念があったが、概ね、悲劇的な事態には至っていないようだ。それは、天安門事件を見つめてきた世代には、とりあえず良かったことだと思える。
 香港はどうなるのか?
 反政府活動がより弾圧されるようになる、というのは、ある意味当然の帰結だろうが、おそらく、それ自体は二義的なものになるだろう。
 何が香港を変えていくか? 香港人権法の必然的な帰結でもあるが、米国による香港の締め上げである。米国時間で27日、 ポンペオ米国務長官は、香港はもはや「一国二制度」を規定する、中国本土政府から自由で高度な自治はもう実現できないとの判断を連邦議会に通知した。これで、香港は米国との間の通商上の特別な地位を失い、国際的な金融センターとしての地位が危うくなる。
 誰が一番困るだろうか。香港市民は当然と言える。ゆえに、米国の対応を反対し、結果として中国本土になびく香港市民も一定は増えるだろう。
 あと、少し陰謀論めくのだが、こうして利益の視点に立つと奇妙な図が見えてくる。香港で利益を得ているのは、中国本土政府の権力者の一部でもあり、おそらく最高指導者の習近平氏も関わっているだろう。
 中国を考えるときなにが一番のキーになるか? 中国内部の権力闘争である。そのことを考えさせらる事例は、1978年の鄧小平氏の訪日だった。表向きは「中日平和友好条約」の批准書交換セレモニーに出席することだが、鄧氏は権力闘争上、軍を弱体化しようとしていたが、揚尚昆総参謀長を筆頭人民解放軍長老は彼を攻撃していた。日本は彼の援軍になりうる。
 こうしためんどくさい中国内部の権力図があるとすれば、その明瞭な対立はどこだろうか? 共青団と香港利権の政治集団ということはないだろうか。細かく言えば、中国経済としては香港がなくてもそれ以外のマーケットで国家的には保つという推定もあるだろう。
 さらにこの線で言えば、李克強氏と習近平氏との間に、あくまで構造的なものではあるだろうが、対立があるのではないか。新型コロナウイルスでは習近平氏は明白に失策であったが、これを李氏がカバーしているかに見えて、この過程で権力の均衡が崩れたのではないか。まあこれが陰謀論に近い推論ではあるが。ついでに言えば、共青団側には中国国家動向への危機感もあるのかもしれない。中国は、新型コロナウイルス問題より、長期の成長の鈍化と社会保障問題、他方格差拡大に対応できなくなりつつある。
 今後の動向について、妥当なところで注視すべきは、今週末に米国トランプ大統領が対中制裁措置を出すが、これがどういうリアクションを起こすか、だろう。
 今後はどうなるか。私の推測では、香港での揉めごと自体が、中国国家内や対米、対欧州との対立臨界、いわば仮想の国境線をどこに引くかという交渉なのではないかと思うので、交渉中は掛け金の釣り上げはあっても、当面の大きな変化はないのではないか。
 また、大きな変化がないのであれば、日本は余裕がもてる。その間、香港の市民への援助もだが、中国共産党の覇権化がもたらす弊害に国際世界が耐えられるように、直接的な影響の強い台湾やアジア諸国と穏やかな連携を深めていけばいいだろう。そういえば、中国のインテリジェンスは日本のSNSなどに介入して、その妨害にも出てくるかもしれない。

 

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