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2020.05.07

ヨハン・ギーゼケ教授がこどもの日にランセット誌に寄稿しているのを読んだ

 スウェーデンのCOVID-19対応の骨格はヨハン・ギーゼケ(Johan Giesecke)教授に拠るものだろうと思うし、すでに彼はYouTubeなどで見られるインタビューでもCOVID-19について語っていたが、簡素にまとまったかたちで一昨日付けでランセット誌に寄稿が掲載されていたので、読んでみた。実に簡素にまとまっていたので、これもブログにメモしておきたい。なお、試訳も添えるが誤訳もあるだろうから、あくまでご参考まで。
 タイトルは、"The invisible pandemic(見えないパンデミック)"(参照)。簡素だが文学的な響きがないわけでもない。
 冒頭から世界が関心をもっているスウェーデンの対応について触れている、というか、それが寄稿の趣旨でもあるのだろう。

Many countries (and members of their press media) have marvelled at Sweden's relaxed strategy in the face of the coronavirus disease 2019 (COVID-19) pandemic: schools and most workplaces have remained open, and police officers were not checking one's errands in the street. Severe critics have described it as Sweden sacrificing its (elderly) citizens to quickly reach herd immunity. The death toll has surpassed our three closest neighbours, Denmark, Norway, and Finland, but the mortality remains lower than in the UK, Spain, and Belgium.
多数の国(それとその報道メディア関連者)は、コロナウイルス疾患2019(COVID-19)のパンデミックに直面して、スウェーデンの緩和戦略に驚嘆してきている。学校やほとんどの職場は開いたままであり、警察官は街の通りで人々の用事を検査していません。こうした状況について辛辣な批評家たちは、スウェーデンは集団免疫に急速に達するために(高齢者の)市民を犠牲にしていると書き立てている。死亡者数といえばは、私たちスウェーデン人に最も近い3つ隣人、デンマーク、ノルウェー、フィンランドを超えていますが、死亡率は、英国、スペイン、ベルギーよりも低いままだ。

It has become clear that a hard lockdown does not protect old and frail people living in care homes—a population the lockdown was designed to protect. Neither does it decrease mortality from COVID-19, which is evident when comparing the UK's experience with that of other European countries.
明らかになってきたことは、強硬なロックダウンは介護施設に住む高齢者や虚弱者を保護するものではないということだ。この措置が彼らを保護する意図であったのにである。しかもこの措置はCOVID-19の死亡率を減少させてもいない。このことは、英国の経験を他のヨーロッパ諸国の経験と比較すると明白である。

 つづいて、すでにスウェーデンにはこの抗体ができていただろうと続き、無症状の感染はかなり広まっているだろうともしている。そして、こう彼は推測している。

I expect that when we count the number of deaths from COVID-19 in each country in 1 year from now, the figures will be similar, regardless of measures taken.
これから1年が過ぎて、各国のCOVID-19による死亡数を数えあげてみると、対処法を問わず似たような数字になるだろうと私は思います。

 ここまではギーゼケ教授の説明も、欧米のことで日本の現状とはあまり関係ないような印象があり、日本についての言及もないのだが(明示的にあるべきだと私は思うけどね)、続く話はまるで日本に言及しているかのようだ。

Measures to flatten the curve might have an effect, but a lockdown only pushes the severe cases into the future —it will not prevent them. Admittedly, countries have managed to slow down spread so as not to overburden health-care systems, and, yes, effective drugs that save lives might soon be developed, but this pandemic is swift, and those drugs have to be developed, tested, and marketed quickly. Much hope is put in vaccines, but they will take time, and with the unclear protective immunological response to infection, it is not certain that vaccines will be very effective.
(感染の急上昇を示すグラフの)曲線を平坦にするための措置には所定の効果があるのかもしれないが、ロックダウンは重症化事例を未来に先送りするだけであり、予防にはならないだろう。確かに、各国は医療体制に過度な負担をかけないよう、感染拡大を遅らせることに成功している。そして、なるほど、命を救う効果的な薬が早急に開発されるのかもしれない。しかし、このパンデミックは素早い。これらの薬剤も迅速に開発、試験、販売されなければならない。多くの期待はワクチンに込められている。けれども、それらには時間がかかり、しかも、感染に対する免疫の防御反応が不明確だ。ワクチンが非常に効果的であるかどうかも不明なのである。

 そのあと、簡素なまとめがあり、締めの言葉は、"I declare no competing interests." つまり、利益相反はないですよということで、勘ぐり的な批判はしないでねということだ。ヨハン・ギーゼケ教授の業績を知るものなら当然のことではある。
 話はそれだけで、簡素すぎるようでもあるが、メッセージは強烈と言ってもいいだろうし、原文にはきちんと論拠の参照もあるので、関心ある人というか、批判する人は読んでおくといいだろう。
 こうした議論が出てくることは、まあ、世界の言論界では想定の範囲でもあって、良識的な反論は、みなさんご存知イアン・ブレーマーさんが、4日付けのニューヨーク・タイムズに"Coronavirus and the Sweden 'Herd Immunity' Myth(コロナウイルスとスウェーデンの「集団免疫」の神話)"という寄稿にしていて、まあ、各国のインテリさんのご商売向けのテンプレがきちんとしかも無内容に書かれている。こんなことが書かれているんじゃないかなと予想して読むと満足できます。
 とはいえ、考えようによってはギーゼケ教授の考えは「強烈」でもなく、この分野の国際的な第一人者の普通の考えでもある。

 

 で、私はふと疑問に思ったのだった。そもそもギーゼケ教授はWHOに指導的な権威を持ってるとみてよいんじゃないか。だったら、なぜ、WHOはギーゼケ教授の考えを推奨しないのだろうか? もちろん、イアン・ブルマー氏のNYT寄稿を待つまでもなく、大国で高齢者の死亡数グラフを見ることに国民は耐え難いからだし、そうした先進国は基本的に高齢層が政治的な権力を持っているからなおさら、無理だろう、というのは、わかる。それでも、WHOなら専門家向けに(専門家だけ通じるように)なんらかの指針が出せるのではないか?
 というか、指針がなくても、暗黙の合意だったのかもしれない。むしろ、欧州におけるロックダウンは当初は専門家は検討してなかったのではないか。そもそも、ロックダウンにパンデミックを抑制する効果があるかは、それほど強固なエヴィデンスを、今回のパンデミック以前にはなかったのではないかと思う。
 とはいえ、WHOも今となっては、逆に、急速のロックダウン解除は危ないとしているが、なぜかといえば、つまるところ、ギーゼケ教授の指摘で理解しやすいだろう。

 

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