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2020.04.21

科学的な真実について考えさせられる3つの事例

 科学とはなにか? 科学的な真実とは何か? といった大問題は当然難しいが、個々の事例で考えると、さて、これをどう受け止めたらいいだろうかと思うことがある。3つほど心にたまっているので、ブログのネタにしてみよう。

1 モルの定義が教科書で変わった
 Twitterを見ていたら、野島高彦先生が自身の書かれた高校の化学の教科書『はじめて学ぶ化学』の今年の最新版でモルの説明を変更したと書かれていた。Tweetは簡素なアナウンスだったが、背景はWikipediaを見てもわかる。

 2019年5月19日までの国際単位系におけるモルの定義は以下の通りであった。

モルは、0.012 キログラム(12グラム)の炭素12の中に存在する原子の数と等しい要素粒子 (elementary entities) を含む系の物質量である。
モルを用いるとき、要素粒子を指定する必要があるが、それは原子、分子、イオン、電子その他の粒子、またはこれらの粒子の集合体であって良い[7]。

 1980年に国際度量衡委員会(CIPM)により以下の補則が加えられていた。これはモルの定義の一部であった[8]。

:補則:この定義の中で、炭素12は結合しておらず、静止しており、基底状態にあるものを基準とすることが想定されている。

現在の炭素原子によるモルの定義を「炭素スケール」とよび、過去の酸素基準と分けて呼ぶこともある。 なお、新定義では、アボガドロ定数を正確に6.02214076×1023とすることによりモルを定義したので、1モルの炭素12の質量は、12グラムではなくなり、11.999 999 9958(36) グラムという実験値となった[9]。

 この問題は私が高校生になる以前から議論にはなっていた。1964年の『科学教育』に『高等学校改訂教科書におけるモルの取り扱い』という論考がある。近年の教育上の問題については、京都大学大学院理学研究科化学専攻、高大接続・入試センターから『高等学校理科教科書における量と単位の扱いにおける問題点、その影響、および改善案について』が参考になるだろう。
 この事例では、科学的な真実が変わったというわけではないが、科学という学問でのルールの変更と科学教育の見直しになった。

2 単子葉類は双子葉類から進化した
 単純にGoogleで「双子葉」と「単子葉」で検索すると、「【中学生】単子葉類と双子葉類の違いは?覚え方のコツを伝授します!」というサイトがトップに出てくる。こう書かれている。

植物は最初に生える葉っぱ(芽)の枚数で分類されます。
子葉が一枚だと単子葉類、子葉が二枚だと双子葉類となります。

 全くの間違いとも言い切れないのだろうが、なぜ、「単子葉類と双子葉類の違い」が話題になるのかは、よくわからない。高校入試に出るからというのは前提的な答えではあろうが。
 ちなみに、APG植物分類体系ではこのような分類はしない。
 これを中学校でどう教えるかなのだが、よくわからない。現状の中学校の教科書は見ていないのでなんとも言えないが、きちんと最新の知見が補われているといいだろうと思う。

3 オゾンホールは縮小している
 若い世代は知らないかもしれないが、オゾンホール問題は大きな地球環境問題だった。いわく、地球を覆うオゾン層は、太陽光の紫外線を多く吸収することで地上生命を守っているが、人間が作り出したフロンという物質によって壊され、大きな穴「オゾンホール」ができている、と。
 このため、1987年のモントリオール議定書 (Montreal Protocol)で、オゾン層破壊物質の削減・廃止が方向づけされ、5種類のフロンについて1998年までに半減、3種類のハロンを1992年以降に増加させないとした。日本では議定書翌年「オゾン層保護法」を制定し、規制を始めた。
 このオゾンホールだが、どうなっているか。気象庁から。

2019年の南極域上空のオゾン層・オゾンホール
衛星観測によると、2019年の南極オゾンホールは8月中旬に現れ、その面積は8月中は拡大し、9月7日に面積が最大(1,100万km2:南極大陸の約0.8倍)となった後、最近10年間の平均値と比べると最も小さい状態で推移しながらその規模を保っていましたが、10月下旬から急速に縮小し、11月10日に消滅しました(図1、図2)。 大規模なオゾンホールが継続してみられるようになった1990年以降で、最大面積は最も小さく、消滅は最も早くなりました。

 はたしてこれは、環境保護対策の成功例なのだろうか? なお、その後、オゾン層を破壊しているのは、フロンより亜酸化窒素であると見られるようになった。これも規制に向かっている。これらを含めて、オゾンホールの縮小は人間の努力によるものだったのか。なお、オゾンホール縮小は、成層圏昇温でも起きる。つまるところ、科学的にはよくわからないといっていいだろう。そして、今後の動向もよくわからない。
 環境問題活動家のグレタ・トゥーンベリさんは、「30年以上にわたり、科学が示す事実は極めて明確でした。なのに、あなた方は、事実から目を背け続け、必要な政策や解決策が見えてすらいない」と国連で述べていたが、この30年のこの関連の科学については、まだよくわからないことは多いだろう。

 

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