フランスのロックダウン解除に向けたエドゥアール・フィリップ仏首相の演説の抜粋
フランスは、5月11日から、段階的ではあるがロックダウン(都市封鎖)解除に向けて緩和する。それに先立って、フランス時間で4月28日、フランスのエドゥアール・フィリップ首相は議会で演説した。原文(参照)は公開されているので、読んでみた。けっこう考えさせられるものだった。
気になるところを抜書してみたい。ついで、試訳を添えておいたが、訳間違いもあるかと思うので、ご参考まで。
28 avril 2020
Discours de M. Édouard PHILIPPE, Premier ministre Présentation de la stratégie nationale de déconfinement
(エドゥアール・フィリップ仏首相のスピーチ。国家の封じ込め戦略についての説明)
Voilà donc le moment où nous devons dire à la France comment notre vie va reprendre.
Depuis le 17 mars dernier, notre Pays vit confiné.
Qui aurait imaginé, il y a seulement trois mois, la place que ce mot allait prendre dans notre débat public ? Qui aurait pu envisager une France dans laquelle, subitement, les écoles, les universités, les cafés, les restaurants, une majorité d’entreprises, les bibliothèques et les librairies, les églises, les temples, les synagogues et les mosquées, les jardins publics et les plages, les théâtres, les stades, tous ces lieux communs, pour utiliser une formule qu’affectionne le Président de l’Assemblée nationale, auraient été fermés ?
さて今や、私たちは私たちの生活をどのように再開するかについてフランスに伝えなければならない瞬間です。
3月17日以来、私たちの国は閉じ込められています。
ほんの3ヶ月前に誰が想像したでしょう。閉鎖、この言葉が我々の公の議論の中で使われるようになるとは。学校、大学、カフェ、レストラン、大多数の企業、図書館、書店、教会、寺院、シナゴーグ、モスク、公共の庭園やビーチ、劇場、スタジアム……これら一般的な場所がすべて突然に閉鎖されるフランスを想像したでしょうか?
このように、特にどってことのない出だしで始まり、続く。どってことなく続くかと思いきや、意外とすごいこと言ってるなあと思った、というか、ここまで読んで、ありゃ、これは原文読んでおかないといけない種類の演説だなと思った次第。
Toute stratégie repose sur des constats.
Le premier d’entre eux est médical. Il tient en quelques mots simples que tous les Français doivent avoir en tête : nous allons devoir vivre avec le virus. Dès lors qu’aucun vaccin n’est disponible à court terme, qu’aucun traitement n’a, à ce jour, démontré son efficacité, et que nous sommes loin d’avoir atteint la fameuse immunité de groupe, le virus va continuer à circuler parmi nous. Ce n’est pas réjouissant, mais c’est un fait.
どの戦略も観察に基づいています。
その1つ目は医療です。それは、簡単に言うことができますが、フランス人全員が心に留めておかなければなりません。こういうことです。私たちはこのウイルスと一緒に生きていかなくてなりません。短期的には対応するワクチンが存在しないので、現状では有効な治療は示されていません。そして、いわゆる集団免疫が達成されるのにはほど遠いので、このウイルスは私たちの間で循環しつづけるでしょう。喜ばしいことではありませんが、事実なのです。
Il nous faut donc apprendre à vivre avec le Covid-19, et apprendre à nous en protéger.
Voilà la première contrainte et le premier axe de notre stratégie.
私たちはCovid-19と共生しつつ、それから身を守ることを学ばなければなりません。
これが、最初の制約であり、戦略の最初の軸になります。
ロックダウン解除は各地域ごとになるらしい。当たり前といえば当たり前ではあるが。
Cette circulation hétérogène du virus crée, de fait, des différences entre les territoires. Pour tous ceux qui, comme moi, croient au bon sens, il n’est pas inutile, et même très nécessaire, de prendre en compte ces différences dans la façon dont le dé-confinement doit être organisé. A la fois pour ne pas appliquer le même schéma dans des endroits où la situation n’est objectivement pas la même, mais aussi pour laisser aux autorités locales, notamment aux maires et aux préfets, la possibilité d’adapter la stratégie nationale en fonction des circonstances.
このウイルスの不均質な感染の循環が、実際のところ地域間の違いになっています。私を含め良識あるすべての人にとって、このような違いを考慮に入れて封じ込め解除を組織することは無意味ではありませんし、とても必要なことでさえあります。それは客観的に見て同じ状況ではないところに同一の規則(スキーム)を適用しないようにするためであると同時に、地方自治体、特に市長や県知事に、状況に応じて国家戦略を採用させる可能性を残すためでもあります。
フランス政府の方針だが、三楽章(le triptyque)のように実施されるとのこと、①保護、②検査、③分離。
Vivre avec le virus, agir progressivement, adapter localement : voilà les trois principes de notre stratégie nationale.
À partir du 11 mai, sa mise en œuvre va reposer sur le triptyque : Protéger - Tester - Isoler.
このウィルスと共生する、段階的に活動する、地域に適応する。これらが国家戦略の3原則です。
5月11日から、これを三楽章のように実施します。保護し、検査し、分離します。
保護として語られる実態は、大半はマスクの着用についてだった。フランスは当初、マスクは不要としたが、考えを改めるとしている。また、マスクも供給するとのこと。この話がけっこううだうだと長いので閉口した。しかたないだろうとは思うが。次は、検査。
À la sortie du confinement, nous serons en capacité de massifier nos tests. Nous nous sommes fixés l’objectif de réaliser au moins 700 000 tests virologiques par semaine au 11 mai.
封じ込め解除後、私たちは検査を大規模化できます。5月11日までに最低でも週70万件のウイルス検査を目標とします。
というわけで、検査の実態は、大規模検査。実際のところ、封鎖解除と大規模検査は一体になるべきものだろう。この点、日本は見通しが立たない状態だろうな。
第三楽章の分離は、ようするに隔離で、自宅やホテルなどに14日隔離される。
演説の終わりのほうに、エドゥアール・フィリップ首相のぼやきみたいのがあって、少し面白かった。面白かったって言ってことでもないが。
J’ai été frappé depuis le début de cette crise par le nombre de commentateurs ayant une vision parfaitement claire de ce qu’il aurait fallu faire selon eux à chaque instant. La modernité les a souvent fait passer du café du commerce à certains plateaux de télévision ; les courbes d’audience y gagnent ce que la convivialité des bistrots y perd, mais je ne crois pas que cela grandisse le débat public.
私はこの危機の当初から、何をなすべきかについて、まったくもって明瞭なる意見をもつコメンテーターの多いことに、打ちのめされていました。現代では、こうしたことが街中のカフェから、一部のテレビに移りました。物見遊山の増加で飲み屋の騒ぎは静まるとしても、こんなことが一般社会の議論を増やすとは私は思いません。
締めはだいたい予想どおりだが、次のような表現はフランスっぽいなあと思った。日本では言えないだろう。
À partir du 11 mai, le succès ne reposera pas sur la seule autorité de l’État mais sur le civisme des Français.
5月11日以降、成功は国家の権威だけによるのではありません。フランスの市民精神によっているのです。
ということで、まあ、さすがフランスだなあと思った。
日本が参考にできることは、まあ、だいぶあるだろうと思うけど、そもそもこの演説の全翻訳とかもメディアには載らないだろうし、日本のジャーナリズムや識者さんはこの演説に関心を持たないんじゃないか。というのは、そもそも、「私たちはこのウイルスと共存するのです」って、言える人は、政治家にも言論人にも、それほどいないだろう。
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