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2020.03.15

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応では先進国間の差はあまりないだろう

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応について、ジャーナリズムとしては、政局の文脈、つまり、現政権批判という文脈で語りたくなってしまうものだろうなとは思っていたので、たまたまだが、Yahooブログの木村正人・在英国際ジャーナリストさんの記事『新型コロナで浮き彫りになる安倍首相の“独り相撲” 英首相は科学主導の三人四脚 どちらが立派?』(参照)を見かけたときは、まあ、そういう記事を書きたくなるものだろうなとは思った。こういう話にしていた。

 イギリスではパフォーマンス好きのジョンソン首相でさえ医学と科学に頭を垂れ、チームプレーに徹しています。欧州連合(EU)加盟国とは異なるアプローチをとるホウィッティ主席医務官とヴァランス政府首席科学顧問からは科学に基づく確固たる自信がのぞきます。
 不安を覚えるのは安倍政権の政策決定にどれだけ科学的知見が生かされているか、です。新興感染症の流行に対する行動計画のフェーズと目標が首相、厚労省、自治体、病院、現場の医療従事者、市民の間で共有されているか――という点です。
 安倍首相は新型インフルエンザ等対策特別措置法を改正して緊急事態宣言を行い、新型コロナウイルスをねじ伏せて五輪開催にこぎつけたいのでしょうか。首相がこれまで以上に“独り相撲”を取り出すと、戦いの最前線である医療現場が大混乱してしまう恐れがあります。

 安倍首相が「独り相撲」をしているかについては、そうでもないのではないかと思うが、その議論はさておき、イギリスの対応が「欧州連合(EU)加盟国とは異なるアプローチをとるホウィッティ主席医務官とヴァランス政府首席科学顧問からは科学に基づく確固たる自信」というのは、どうなんだろうかとは思った。簡単に言えば、「安倍政権は非科学的だが、イギリスは科学的だ」となりそうだ。また、「欧州連合(EU)加盟国とは異なるアプローチをとる」という修辞も少し考慮したほうがいいのではないか。
 イギリスでの対応については、BBC記事『なぜイギリスは学校を閉じないのか 新型ウイルス対策で独自路線の理由』に説明もあり、さらに追記もあるが、イギリスでも日本と同じというかEUと同じ対応を取ろうとしていることは、別記事『Coronavirus: UK could ban mass gatherings from next week』(参照)にもある。
 加えて、イギリス政府の対応にイギリス国内での異論があることは、ブルームバーグ記事『U.K. Says Virus Needs to Infect 60% of Britons to Save Lives』(参照)などにもある。

“I’m very worried in the U.K. that we’re not acting quickly enough,” Devi Sridhar, a professor of global public health at the University of Edinburgh in Scotland, said by phone. “Speed is of the essence. That’s what we’ve learned with this virus and how contagious it is.”

「英国において私たちが十分迅速に行動していないことを非常に憂慮しています」と、スコットランド、エジンバラ大学グローバル公衆衛生学教授デヴィ・スリダールは電話で言った、 「スピードが最重要です。 それがこのウイルスで私たちが学んだことであり、またどれほど伝染性があるのかということです。」

Former Health Secretary Jeremy Hunt questioned the government’s position Thursday, saying he was surprised the U.K. hadn’t moved to stop all mass gatherings. There was evidence of other countries like Thailand that have been “strikingly successful” at stopping the spread of the virus by taking “social distancing” measures, he told Channel 4 News.

ジェレミー・ハント元保健医療相は木曜日、政府の立場に疑問を呈し、英国がすべての集会を停止させなかったことに驚いたと述べた。 タイのような他の国々だが、「社会的距離」戦略を講じることでウイルスの拡散の阻止に「驚くほど成功した」エビデンスがある、と彼はチャンネル4のニュースに語った。

 また、ボリス・ジョンソン首相がこの件で英国民に強く支持されているわけでもない(参照)。
 とはいえ、ホウィッティ主席医務官とヴァランス政府首席科学顧問が医学的に間違っているというわけではない。基礎となるのは、BBCが保健医療省のソースをまとめた次のグラフ表現である。

Corona1

 実は、日本の有識者会議も2月時点で同じ見解を示していた。

Corona2

 英国と日本と異なるグラフのように見えないでもないが、医学的な基盤は同じであるがゆえに、本質的には同じものであり、力点と時期評価の表現に差があるだけにすぎない、と見ていいだろう。そして当然、どちらも、終息は集団免疫によることを想定している(これは会議議事録からもわかる)。
 英国のグラフ表現では、終息時期が夏と明記されているが、日本のグラフではそこまで明確な時期は明記されておらず、また、対応しない場合の終息が早いとしてもそれほどの差を見ていない。
 他方、日本のグラフでは、患者数と医療機関との対応の差を重視し、非対応の患者を減らすことに重点を置いている。
 一見すると、日本政府のほうが患者を重視しているかのようだが、現実的に考えるなら、どの国であれ、患者数が増えれば医療機関での対応は不可能になり、一定の死者が出てくる。この点について、ジョンソン首相は「より多くの家族が、彼らの愛する人たちを寿命の前に失うことになるだろう("many more families are going to lose loved ones before their time.")」と明瞭に述べている。この点については、それを言うか言わないかに関わらず、患者数に比例して死者は増えることになる。
 以上をまとめると、医学的な知見の根幹は英国でも日本でも他国でも基本的に同じであり、基本的な対応の限界も同じであり、あとは政治的な修辞の差しか存在していない。
 個人的な意見を加えるなら、そうであるならば、それを政局の文脈に置き換えた「ニュース」を作り出すことはあまり適切なことではないだろうと思う。
 さて、個人的な意見をもう一つ加えておくと、英国の資料で、感染拡大を事実上放置して得られる集団免疫の成果を夏に想定しているのは、おそらくCOVID-19も他の4種のコロナウイルスによる風邪のように冬風邪の想定があるからではないか。

 

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