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2019.12.09

WTO、運命の日は12月10日

 ろくでもない事態になることがわかっていて、どうにもならない、というのが現実というものだろうし、歴史の真なる姿というものはそういうものなのかもしれない、と呑気なこと言ってられない事態になった。12月10日がやってくる。WTO(世界貿易機関;World Trade Organization)が国家間の紛争解決で機能不全になる。ごく簡単に言うと、WTOが明日死ぬ。日本時間だと明後日だろうか。残念だったなあ。
 ニュースを確認にしておく。NHKニュース『WTO 紛争解決で初の機能不全に 委員選任 米の反対で難航』より。

 WTO=世界貿易機関は10日、貿易紛争の解決が1995年の設立以来初めて、機能不全に陥る見通しとなりました。アメリカの反対で、紛争解決にあたる委員が選任できないためで、貿易をめぐる各国の対立は一層激しくなりそうです。
(中略)
 貿易をめぐる対立が加盟国どうしの協議で解決できない場合、まず1審にあたる小委員会で審理されますが、結論に異議が出された場合は、最高裁判所にあたる上級委員会が法的拘束力のある最終的な判断を下します。
 上級委員会の裁判官にあたる委員の定数は7人ですが、任期が切れたあと、欠員が埋まらず、最低限必要とされる3人の委員で紛争解決の審理を続けてきました。
 しかし、10日にはさらに2人の任期が切れて委員は1人だけになり、必要な人員が確保できなくなります。
 この結果、WTOは1995年の設立以来初めて、上級委員会の機能が停止する見通しとなりました。

 NHKの報道には含まれていないが、10日、上級委員会のウジャル・バティア委員長(インド)とトーマス・グラハム委員(米国)の任期が切れる。
 どうなるのか?
 例えば、日本は韓国による福島産の水産物の輸入禁止は不当としてWTOに提訴し、一審では主張が認められたが、上級委員会の最終判決で敗訴した。今後、この上級委員会がなくなる。この問題で言えば、日本がもう少し時間伸ばしでもできれば、日本の勝利だった。あれ? なんか問題なのか、それ。
 韓国関連で言えば、先日韓国は土壇場でGSOMIA破棄を停止し、また日本による韓国向け輸出管理措置の見直しについてもWTOへの提訴手続きを一時停止した。が、こじれ、その後どうなるかで、まあ提訴しても、もう一審で終わるしかない。たぶん、日本が勝つのではないだろうか。ということなのか、そういう可能性も韓国は読まなくならなくなったようだ。
 珍妙な例を引いたが、上級委員会の機能が停止しても、無問題なんじゃない?という視点があることに気がついてほしかった。
 では、それでいいのか? 
 よくはないだろう。現状、一審案件の約7割が上級委員会に上訴されているくらいで、二審制であることに意味がある。とはいえ、すでに、上級委員はもとの7人から3人まで削られていて先のような奇妙な決定を出すに至った(本来なら一審の事実認定を踏まえて二審が行われる)。しかも、鈍い。悪くいえば、すでに死んでいたのが、これからきちんと死ぬということだろう。
 この事態を引き起こしたのは言うまでもなく米国であり、米国の思惑は、言うまでもなく、中国への不満である。米国は上級委員会が中国びいきのように捉えていた。
 どうしたらいいか?
 WTO改革をするしかないだろう。制度を変えるほうがいい。二審へのフィードバックは必要だろう。いずにれせよ、これで米国をまた国際的な枠組みに取り込むほうがいい。日本としては米国に追従しないためにも、WTOのような国際機関を錦の御旗にするほが面目がいいには違いない。
 が、米国の取り込みは実際には無理だろう。それが現在世界の状況認識でもある。日本も実際にはそれほど困ることもないのではないか。
 臨時体制にするかという提案もあるようだが、死ぬに任せるしかないだろう。そもそも、WTOの歴史的な役割も終えたのかもしれない。

 

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