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2019.10.26

日仏会館講座『世界のなかのフランス史』に行ってきた

 日仏会館講座『世界のなかのフランス史』に行ってきた。午後2時から5時半までの長丁場で、椅子も固く、会場も寒かったが、内容は充実して退屈を感じることもなかった。
 テーマは、2017年にパトリック・ブシュロン(Patrick Boucheron)、コレージュ・ド・フランス(Collège de France)教授が4人の仲間と編集し、出版した"France la de mondiale Histoire"の意義とその社会的な反応、さらに歴史学とは何かという大きな視点まで含めた議論である。同書は、フランスで10万部を超えるベストセラーとなり、同時期の選挙の動向とも関連した一種の社会現象ともなるほか、史学者を多く交えた大きな議論となった。おそらく日本ではあまり知られていない印象はあるが。フランスではすでにペーパーバック版が出て、改定も含まれている。

 

 議論の中心的な話題は、従来のフランスのナショナル・ヒストリーとして語られる歴史、つまり、フランスの国民アイデンティティの物語に大して、それを解体する試みとして受け止めるかという点であった。
 当然ながら、ブシュロン教授自身が登壇する予定だったが、体調の理由から欠席。その他、東大などで予定されていた講演会なども中止された。が、この日仏会館講座『世界のなかのフランス史』は氏の文書メッセージを読み上げた後、4人のパネルと司会で実施された。なお、司会は 高澤紀恵(法政大学、日仏会館学術委員、近世フランス社会史)、講師は、 三浦信孝 (中央大学名誉教授、日仏会館副理事長)、成田龍一(日本女子大学、日本近現代史)、岸本美緒(お茶の水大学名誉教授、中国明清史)、平野千果子(武蔵大学、フランス植民地史)である。
 今回、ブシュロン教授欠席でも講座が実施されたのは、講師らがこの日に備え、今年の春先から4回に渡り、準備の学習討論会を重ねており、その成果の発表でも充実した内容になるものと想定されたことだった。実際、そのとおりであったと感じられた。
 論点は多岐に渡った(『日本国紀』などの対照もあり)が、スキーマティックに理解する上で役立つのは、成田氏の次の戦後史学世代論であった。日本とも対比されている。

戦後史学世代 フランス 日本
第1世代 フェルナン・ブローデル 石母田正
第2世代 ピエール・ノラ 網野善彦/安丸良夫
第3世代 パトリック・ブシュロン  ?

 史学書的には、ブローデルでは『地中海』、ピエール・ノラ論文集『記憶の場』であり、特に、『記憶の場』が議論の対比の焦点となった。
 ブシュロン編の同書自身の内容についての具体的な言及は、主に平野氏からなされた。

  


 さて、以上のように見ると、学術的な側面が強調されるが、同書は、年号を章立てにしたコラム集でもあり、裏付けとなる史観に現在性はあるものの、出版物としての基本的な骨格は一般書である。その意味では、同じくベストセラーとなったロラン・ドゥッチの『パリ歴史散歩 メトロにのって』に近い。
 年号項目の例として平野氏が揚げた以下の項目なども印象深い。

1940 自由フランスは赤道アフリカに生まれた
1940 ラスコー洞窟は、対独敗北で発見された

 背後にはヴィシー政権の存在が意識されている。

 同書の日本語訳の予定についての言及はなかった。おそらく翻訳はされないのではないだろうか。英語版の翻訳はすでに出ているので、仏語オリジナルより読みやすいのではないかと考え、私はこちらを購入した。同書には英語圏の読者を対象とした、論文に近い序説が追加されている。

 

 

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