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2019.10.28

ルーマニア語の起源は何か?

 今季のアニメで一番面白いのは、当然、いろんな意見はあるだろうが(実際には2クールとか)、『ヴィンランド・サガ』としてもそう異論があるわけでもないだろう。このなかで、現在の章立てでは、事実上の主人公のアシェラッドという興味深い人物が描かれているが、若干ネタバレになるが、デーン人と思いきやウェールズの元王女の母リディアの子どもで、ルキウス・アルトリウス・カストゥス (Lucius Artorius Castus)の正統という幻想を抱いている。つまり、ローマへの帰順の感覚である。ウェールズにそういう心情が重ねられるものか私はよくわからない。
 で、このルキウス・アルトリウス・カストゥスだが、アーサー王のモデルともされている(余談だが、アーサー王は男だからね)。というあたりで、奇妙なのは、アーサー王伝説はむしろ、反ローマ的な英国起源幻想として創作されたものではないかと思う点だ。つまり、ケルトなるのもの「幻想」というか。
 それもさておき、アルトリウスの事績はダルマチアに残る。ローマ兵なのだから当然といえば当然のようだが、このさらに東方までローマの版図として、ダキアがある。これは、後にローマ起源の幻想からルーマニアとなる。実際、ルーマニア語はロマンス語なので、ローマ帰順の感覚と結びつきやすい。
 だが、そうなのか?
 そうなのかというのは、こうしたローマ帰順の幻想の歴史の意味は何かということと、具体的にルーマニアって何?ということだ。
 個別のルーマニア語って何と考えると、ロマンス語なのだから、ダキアの歴史から関連つけて自明のようだが、どうやらそうでもないらしい。
 比較的地味なロマンス語解説書とも言える(失礼、ラテン語がきちんと中心に据えてある点は画期的)『ロマンス語概論』を読んでいくと、第10章が「ルーマニア語の起源について」という考察で、これが、微妙にスリリングな話だった。まず、現在のルーマニア語とダキアとの関連は、よくわからないとしている点である。ルーマニア語の起源は論争の的であり、決定的な定説がないらしい。なぜそうなるかというと、ダキアの歴史からの継続なのか、別から流入したのかという点で論争があるからだ。当然、ナショナリズムの幻想が関連してくる。というあたりで、冒頭のアシェラッドを連想したのだが。
 筆者の考えは、ロマンス語の枠で捉えながらも、アルバニア語、ブルガリア語との混合と見ている。時代も10世紀を想定している。妥当な説のようだが、そういう捉え方でロマンス語というなら、英語すらもロマンス語になってしまうのではないだろうか?
 この議論の過程で参考に出てくるのが、ポルトガル語はカタルーニャ語と同一の祖であったという「常識」である。知らなかった。むしろ、カスティーリャ語(スペイン語)がそれを地理的に分断しているらしい。

 

 

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