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2019.09.05

「合意なき離脱」の国内合意が取れない英国が病んでいるもの

 イギリスの動向が目まぐるしい。4日、EUからの離脱期限を来年1月末まで延期するよう求める法案が賛成327票、反対299票で下院で可決された。離脱強行派のジョンソン首相は、これに対抗し、それでは国民に信を問うとして、来月、総選挙を実施する動議を議会に提出し、採決。残念。必要な3分の2を超える支持を得られず否決。英国は日本の首相と異なり、単独で議会の解散権はもたない、というか、日本のこれも一種の解釈改憲なのでおかしいにはおかしいが。
 BBCの報道を聞いていたら、事態を不思議の国になぞらえていた。ジョンソン首相は、離脱は求めているが合意なき離脱を求めているわけではない。野党労働党コービン党首は総選挙は求めているが総選挙の動議は認めない。まあ、だが今日ではない、ということのようだが、それで労働党は動議に棄権。
 簡単にいうと、野党なのに、与党を倒して政権を取る気概はない。いや、気概の問題ではないだろう。コービン労働党党首には政権を担うリーダーシップなんかない、ということでもある。だが、最大の問題は、EU離脱の政治判断を、もはや国民に委ねることができないという事態だろう。
 「合意なき離脱」の国内合意が取れない英国が病んでいるもの、それは実体化した衆愚だろう。
 そもそもの話は、2013年に当時のキャメロン首相がEU離脱について国民投票を実施したことによる。キャメロンにしてみれば、理性的に考えれば、EU離脱なんかありえないのだから、国民投票で離脱反対を得て、政権の強化を図るつもりだったに違いない。大コケ。自身も退陣に追い込まれ、以降、迷走に次ぐ迷走。
 そもそもキャメロン首相は国民投票なんてする必要はなかった。議会はEU離脱反対だったのだから、国民の代表である議会ベースに話を進めていけば、こんな大混乱にならなかった。
 この混乱事態を笑える先進国は少ないのではないだろうか。国民の意識を統合すると、おばかな結果になる。国民から直接大統領を選び出すとおバカが立つということがある、という事例は、ああ、あれ、個別の事例の指摘はあえて避けたいが、たやすく起こりうる。
 衆愚というのは直接民主主義の危険性であり、だから、英国も日本も議会から首相を選ぶようにしている。というか、日本の場合は、独裁的な権力が生まれないように米国がこういう仕組みの憲法を定めたわけだが。それなのに。
 いずれにせよ、とりあえず、英国は総選挙という衆愚の発露を避けて、EU離脱のぐだぐだ化に戻った。ジョンソン首相の思惑のように10月15日にすっぱり離脱とはいかないということだ。ただ、EU側としてはどう受け止めるかわからない。
 離脱が迫るにつれ、ぐだぐだだけが広がっていくのもわかる。タイムズ紙の日曜版サンデー・タイムズが「イエローハンマー作戦」という秘密文書を暴露した。イエローハンマーは、スズメ目ホオジロ科の鳥類「キアオジ」である。合意なきEU離脱を行うと何が起きるかという推定が描かれている。その内容から、「混沌作戦」とも呼ばれている。さらに最悪事態のシナリオの秘密文書もあるかもしれない。何が起きるか? 庶民生活的には、三ヶ月にわたり、生鮮食料品や医薬品の流通が滞るかもしれない。経済も停滞する。
 3日の国連貿易開発会議(UNCTAD)の発表では、EUへの輸出が少なくとも年160億ドル(約1兆7千億円)減るとの試算だ。
 離脱が延期になっても、いずれ半年後くらいには、同じ事態となるだろう。国際経済への影響は避けられない。消費税を上げた日本にも影響して、これも歴史の教訓となるのではないか。まともな野党がない英国の悲劇を笑う余裕はたぶん日本にもなさそうだ。

 

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