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2019.09.06

Netflix 『13の理由』シーズン3

 日本のメディアではそれほど話題にはならなかったが、Netflix ドラマ『13の理由』(13 Reasons Why)は米国では社会的な話題となった。テーマは若者の自殺である。そのテーマ自体が問題だともいえるが、その描き方は対象である10代の子供に大きな影響を与えた。一部では、自殺を誘導するものだとか、自殺が増加したのではないかとも言われた。
 原作の小説が存在する。2007年に出版されたジェイ・アッシャーの作品である。10代向けの小説であり、文学的に優れているかといった対象ではないだろう。2009年に翻訳も出たが長く絶版だった。が、今年の1月、ドラマの影響もあって新装版も出た。
 物語は、主人公の高校生・男子クレイに届けられた7本のカセットテープにの再生に合わせて展開する。そこには30分13本の「理由」が録音されている。その2週間前に自殺した同級生の女子ハンナ・ベイカー自身による自殺の理由が肉声で語られる。その13の理由は、彼女の人間関係に関わる。なぜ彼女は自殺したのか。クレイに託された意味はなにか。一種の推理小説のように展開する。
 さすがに録音媒体がカセットテープというのは、古過ぎるようだが、米国ではカセットテープのリバイバルもあり、ドラマでもそこはあえてレトロが意識されている。つまり、カセットテープのメディアとしての古さを逆手に取り、現在の米国社会で、10代の女の子が自殺してしまう状況が生々しく描かれている。
 壮絶で痛ましい物語である。ハンナが自殺した理由を、それ以外の選択がなかったのように展開していくという点でも、大きな問題が潜在的に秘められている。私は、青春ラブコメ・アニメが好きというオタクといってもいいくらで、この年代の心理に共鳴してしまうほうだが、さすがにこの物語は、若い子供を持つ親としても胸かきむしられるような痛みが残った。
 が、エンディングはある意味、爽快でもあった。一つの完結がそこにはあった。まさか、シーズン2が出てくるとは、当初、想像もしなかった。が、出てきた。もはや原作はない。
 シーズン2は、シーズン1の物語を、徹底的に吟味し直して悲劇の本質を深める物語であり、より社会的な意義の深いものになった。シーズン1とは異なり、悲劇に一直線に進むと言うより、ある種の胸糞の悪さのようなものも残った。そして、それでもハンナの物語は終わった。
 が、シーズン2の最終部の30分ほどが奇妙な展開になった。取って付けたというほどの、違和感はない。こうした展開は練られていたとも思う。が、いかにもシーズン3につなげる、洋ドラあるあるの展開に、率直に言って萎えるものがあった。そこの萎え感で言うなら、もしこの作品を見る人は、最初のシーズンで完結したと思ったほうがいいかもしれない。それで過不足はない。
 そして、シーズン3につないだ。冒頭面食らう展開がある。新キャラの、ケニア人の秀才の女の子アニ・アチョラが登場する。彼女が、これまでのクレイの見てきた世界を別の視点から長め、そして、事件に深く関わっていく。
 ネタバレはしない。
 アニは、恐ろしく魅力的である。そしてその魅力は、美しいだけも、知性だけでもない、愛情深さだけでもない、悪の要素が含まれている。これまで出てきたどの女の子とも違う。魅了されることに、ある種のいごこちの悪さが残る。この、胸糞悪いというのでもないのだが、どうしようもないある嫌悪感は、シーズン3を見終えても残った。あれはなんなのだろうか? 自分自身の青春の悔いのような後味の悪さも惹きつけて、鬱を誘発しそうだ。
 シーズン3の物語全体は、ハンナの物語はすでにほぼ脱色されていながら、これまでの物語をさらに深化させている。また、なにより叙述トリックの入り組んだミステリーにも仕上がっているし、そのための、映像のナラティブとでもいうのか、非常に高度な仕上げになっている。作品のクオリティーからいっても、これだけのドラマはそうはないんじゃないか。
 ちなみに、ミステリーとして見た場合、犯人がわからないということはない。だが、事件の真相はなかなかわからない。いや、まだ真相がわかったとも言えないかもしれない。
 おすすめできるドラマではない。ただ、こんなすごい作品はそうはない。 

 

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