ジョン・ボルトン大統領補佐官解任について
米時間で10日、ドナルド・トランプ米大統領は国家安全保障問題担当のジョン・ボルトン大統領補佐官の解任をツイッターで発表した。解任の理由は、ボルトン補佐官の考えに反対したためとのこと。他方、ボルトン補佐官は、自ら辞職したとして解任を、これもツイッターで否定した。おそらく真相は、辞任のほうだろうが、トランプ大統領の堪忍袋の緒が切れたといっても正しいだろう。二人の仲は険悪であり、その状態で国家安全保障が維持できるわけもなかった。
この「解任」をどのように考えるか? 前提として、米国の国家安全保障政策は全世界に影響を与えるし、特に日本では北朝鮮政策に関連してくるので、考える重要性がある。
簡単に思い至るのは、トランプ米大統領の気まぐれである。というのも、この「解任」はトランプ政権で3人目になる。2017年2月にマイケル・フリン元陸軍中将、2018年4月にH・R・マクマスター将軍に次ぐ。普通に考えれば、トランプ大統領に定まった国家安全保障の理念はなく、こいつは気に食わないとか、状況でころっと意見を変えるといったものだろう。ただ、逆もある。なにかトランプ大統領に強固な国家安全保障政策の理念があって、それをひたすら求めるがゆえに人選びも厳しい。まあ、それはないだろう。やはり、単にわがままさんというくらいだろう。であれば、世界の状況も危ういということになる。
が、概ね、日本のリベラル派と限らず、世界のリベラル派としては、タカ派のトランプ大統領が嫌いでも、ウルトラ・タカ派でネオコンのボルトン大統領補佐官はもっと嫌いだということで、五十歩百歩ではあれ、よかったことと受け止めているのでないだろうか。
この文脈ですぐに連想されるのは、6月20日のことだ。米軍機がイランを空爆しようと準備を整えたが、直前、10分前とも言われているが、トランプ大統領が中止した。この背景にはおそらく、空爆を支持したボルトン補佐官との対立があっただろう。
直前であれ空爆を回避したトランプ大統領は、あたかも戦争を回避したかのようにも受け止められた。が、この空爆は、米軍の無人偵察機を撃墜したイランに対する報復攻撃としての、ゲーム理論でいうしっぺ返し(Tit for tat)であれば、米国の対イラン政策のメッセージを伝えるものもにもなりえた。正確なしっぺ返しは戦闘の激化を抑制しうる。
イランが問題を抱えているのは、事実といっていい。 欧州連合(EU)の対シリア制裁に違反したとして、英領ジブラルタル沖で拿捕され、8月18日に解放されていたイランのタンカーだが、イランのアナウンスを裏切り、シリア沖で見つかった。シリアに向かっていた。イランはシリア支援をしていたのだ。これを予見し暴いたのも、ボルトン大統領補佐官である。逆に言えば、今後はこうした暴露はなくなるかもしれない。
ボルトン大統領補佐官はネオコン、ウルトラ・タカ派とされているが、非核化の原則を維持するという点では一貫している。昨年5月も、北朝鮮の非核化政策を「リビア方式」とすべきだとした。が、これをトランプ大統領は否定した。この時点でも二人に軋轢があった。「リビア方式」という用語が適切ではないかもしれないが、核化を志向する北朝鮮の独裁者・金正恩は、ボルトン大統領補佐官を名指しで嫌悪した。トランプ大統領は交渉のネタにするかのように、これをなだめた形にした。だが、この件の政策も大筋でボルトン大統領補佐官が正しい。北朝鮮の核は「完全かつ検証可能で付可逆的な」状態に持ち込むべきである。というか、それが世界の、可能な非核化である。もちろん、ファンタジーめいた非核化のストリーもあるし、それに取り憑かれたかのような国家もある。
トランプ大統領は、ドラマに出てきそうなビジネスマンらしい、原則を無視したかのようなスタンドプレーの交渉で自身をアピールしたいのだろうが、原則に立ち返ると結果と呼べるものは出ていない。8日には、米国がテロ組織として長く敵対していたタリバンとの秘密会合が中止となったとトランプ米大統領はツイッターでアナウンスしたが、そもそもこうしたスタンドプレー的な秘密会合もボルトン大統領補佐官は反対していたようだ。
もちろん、ボルトン大統領補佐官が必要なのではない。米国の国家安全保障政策がどのようになるかが重要なのだ。
トランプ大統領はボルトン大統領補佐官を「解任」することで、それを明確にしているだろうか? 見栄えのよい、ご都合主義の混乱があるだけなのではないか? 前任大統領のように。
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