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2019.09.21

[書評] 絶滅の人類史 なぜ「私たち」が生き延びたのか

 人類史関連の本を探していたら、アマゾンが『絶滅の人類史 なぜ「私たち」が生き延びたのか』を推してきた。まあ、一般向けの本なら軽くて読みやすいだろうと、さほど期待せずに読んだら、これがまさに自分が読みたい本だった。自分も知らなかった新しい知見が読みやすく書かれているので、いつの作品か見ると、2018年1月だった。内容的には2009年原書の、『そして最後にヒトが残った―ネアンデルタール人と私たちの50万年史』とかぶる感じもあったが。
 表題からすると、「絶滅」が注目されるが、普通に、最先端の人類学を簡素にまとめた本になっていた。自分の人類学の知識をリニューするいいきっかけにもなった。
 一番、これはまいったなあと思ったのは、コンラート・ローレンツの攻撃についての考えがあっさりと否定されているところだった。ローレンツは私が中学生のときに大きな影響を受けた学者で人生観の基礎になっているのだが、うあ、否定されている。
 何が? 

 このような、人類の歴史をいわゆる「血塗られた歴史」とする考えは、現在では誤りとされている。

 誤りの理由もいくつか挙げられているが、思弁的な否定ではなく、実証的な否定である。まず、アウストラロピテクス化石の評価が変わったこと。それと、狩猟と仲間への攻撃を結びつける考えも信憑性がない。人類が戦争を始めたのも農耕以降のことだ。ただ、ローレンツ学説全体の否定というわけでもない。
 ちょっと気になって、このあたりれいの『ホモサピエンス全史』のまさにホモサピエンスについての該当箇所を読み返したが、微妙だった。ハラリは慎重に断言はしていていないが、全体としては、ホモサピエンスは残虐でネアンデルタールを絶滅させたというふうな印象を残すし、人間の残酷性を農耕以前にほのめかしているようでもある。まあ、どっちかというと、私のような古い人類史知識の読者に受け入れやすい古い印象がある。
 とはいえ、この点、ネアンデルタールの絶滅とホモサピエンスの関係については、本書でも明快にはしていない。ただ、概ね、ネアンデルタールは自身の種として滅亡したあと、そこの地でホモサピエンスが栄えたという感じだ。こういうテーゼにしもしている。

 もし、私たちが他の人類を虐殺したのでないとすれば、どうしてみんな絶滅してしまったのだろうか?

 本書の簡素な結論は、子孫が多かったから。
 では、なぜ子孫が多いのか? これは常識的にわかる。子供が多く死ぬからだ。では、なぜ子供が多く死ぬのかというと、現在の人類の感覚では子供の生存能力が弱いということになりそうだが、本書の示唆はけっこうぞっとするもので、人間はそもそも食われる種だった、ので、食われる前提で子沢山。つまり、食われることと、ホモサピエンスの生き残りには相互作用的なメリットがあるのだろう。うへえ。
 その他の理由もある。小さかったから。雑食だったから。雑食というのは、何が食えるかわかる能力があるという意味。
 本書でいろいろ蒙を啓くの感があったが、脳の発達とホモサピエンスの進化は一致していないというのも、へえと思った。脳の発達はかなり遅れたようだ。では、なぜ脳が発達できたかというと、食い物が肉になったからではないかとしていた。明確には書かれているわけではないが、ホモサピエンスはスカベンジャーだったのだろう。そしてこれも本書にはないが、スカベンジャーであることと、子沢山で食われることにも関連はあるのだろう。
 本書を読み終えて、SFを読み終えたような、なんともいえない、センス・オブ・ワンダーもあった。ネットの進化論支持者は創造説を馬鹿にすることに執心で、簡素に、人間は猿から進化した、というくらいで話が終わりがちだが、問題はこの「猿」だなあと。ホモサピエンスに至る猿は現存の類人猿とはかなり異なっている。人が猿から進化したと言っても大きな間違いではないが、そこでの猿を現存の類人猿で想像するのはけっこう間違いと言ってもよさそうだ。別の言い方をすれば、ホモサピエンスというのはかなり変な生物である。
 知性とコンバージェンスについても言及がある。恐竜が鳥に進化する差異に知性のコンバージェンスはありえなかったか? この点については本書は曖昧であるというか、話題を振ってみたというだけだった。生命史のスパンで見れば、人類知性へのコンバージェンスはなんどか発生していても不思議でもないように思うが、実際は、ホモサピエンスのみだったのだろうか。こうした問いは、どう問うていいのかもよくわからない。そういえば、ライアル・ワトソンは絶滅した人類に、ホモサピエンスとは異なる高度な知性を想像したことがあったが、それも否定できるかというと、よくわからない。
 まあ、SF的な話は抜きにして、最新のホモサピエンス進化について簡素にまとまっていて、これはいい本に出会えたなという手応えはあった。

 

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