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2019.09.18

三人称単数の they が Webster 辞書に登録される

 今朝、CNNニュースを見ていたら、『Merriam-Webster 辞書にノンバイナリー代名詞の「they」を追加する』という記事があった。この動向については、すでに数年前からあるので、ようやく辞書に定着するのだなというのが、まずまずの感想だった。ただ、いろいろ考えさせられるものはあった。いくつかわけて書いておこう。

「ノンバイナリー」って何?
 英語の nonbinary ということは、コンピュータ用語ふうに捉えるなら、バイナリー(二進法)ではない、ということだが、ここでは、男と女の2つだけではないという意味だ。すでにWikipediaには、"Non-binary gender"(二進法的ではない性)という項目があり、日本語のリンク先もあり、見ると、「Xジェンダー」となっていた。
 ようするに、男でも女でもない人もいるのだから、そこを区別するような代名詞ではない、新しい代名詞が必要になったということだ。
 ちなみに、"Gender binary"という項目もあり、その日本語は「性別二元制」となっていた。こうした内容に関心あるひとは、Wikipediaの説明はやや心もとないが、それらを頼りに調べるといいだろう。

Merriam-Webster辞書の意味合いは?
 まず、Merriam-Webster(メリアム・ウェブスター)辞書とは何かだが、これは歴史的にウェブスター辞書と呼ばれている辞書のことである。歴史的なウェブスター辞書は米国においてあまりに権威があり、一般名詞のようにもなり、また、著作権のごたごたがあって、現在の名前になった。このあたりは、非公開の自著にも書いたが。
 で、ウェブスター辞書というのが米国社会にどういう意味があるかなのだが、規範性のない英語を米語足らしめているのが、この辞書なのである。なにしろ、米国スペリングを定着させたものもこの辞書である。加えて、ウェブスターは百科事典的な要素も強い。
 日本人の英語学関連では、オックスフォード辞書系が重視されがちであり、また学習辞書でもロングマンなどが人気だが、これらも英国拠点のPearson Educationで、いずれにせよ、日本の英語界というか、その分野というか、英語を英国英語と米国英語を統合して扱うという前提がなんとなくある。
 これに対して、ウェブスター辞書は米国民にとって辞書としての拠り所的な意味合いがあり、そこに、このノンバイナリー they が登録されたというのは、実質、米語が変わったという意味に等しい。実際、州によっては運転免許証申請などでこの they が公式に使えるようだ。
 余談だが、私は、日頃まず、Merriam-Websterを使うようになった。米国発音がわかりやすいし、その他の記述も簡明であり、英国英語を無理に包括しようとしないところが使いやすいからだ。

実際どう記載されたか
 こういう記載になった。theyの4番目の項目として追加されている。

4 —used to refer to a single person whose gender identity is nonbinary (see NONBINARY sense c)
I knew certain things about … the person I was interviewing.… They had adopted their gender-neutral name a few years ago, when they began to consciously identify as nonbinary — that is, neither male nor female. They were in their late 20s, working as an event planner, applying to graduate school.
— Amy Harmon

3人称単数の they なら動詞も3単現で受けるのか?
 新しい、they が代名詞として単数を受けるなら、動詞も3単現のように受けるかというと、そうではなさそうだ。They is a teacher.のようにはならない。
 単数なのに、be動詞が are で受けるのは変か?というと、you にも単数と複数があるが、どっちも動詞は複数として受けている。ので、それに似た用例として文法的には扱うのだろう。

この they には歴史もある
 CNNやその他の関連ニュースを読むと、このこの they にはそれなりの歴史もあるといった説明がついている。かなり昔の用例もあるにはあるが、とりあえず近い起源としては、1950年代らしい。
 ちなみに、私が大学で学んでいた1980年代前半では、She/he という言い方をよく使っていた。が、これは、性的なアイデンティティというより、代名詞として人がどっちかわからないという意味合いもあった。

他の言語ではどうなんだろう?
 あとは私の感想である。
 こうしたノンバイナリーの代名詞といった考え方は、他の言語、特にロマンス系の言語ではどうなんだろう? 自分がそれなりにわかる言語でいうなら、フランス語とイタリア語ではどうか。まず、ありえないんじゃないだろうか? 
 フランス語では、「私は生徒です」というときですら、女性は、"Je suis étudiante."というように女性形を使う。ただ、こうしたロマンス語の場合は、机や椅子ですら、言語上の性別をもっていて、代名詞はそれに対応する。
 つまり、英語の場合、代名詞は、人間と非人間を区別するから、性別が人間の側に入ってしまうが、ロマンス語では、性別は名詞全体に及び、人間と非人間の区別はない。ちなみに、日本語も人間と非人間を区別する。正確にいうと、日本語は生物と非生物を区別する。「本がある」「猫がいる」といったように。
 余談だが、イタリア語の場合、敬称二人称には、Lei を使う。いちおう表記上は大文字のLを使うが、文法的には、女性の三人称と同じである。慣れるまでにけっこう困惑した。フランス語にはこうした用法はないので、どこからこんな用法が出てきたのだろうかと疑問に思っている。

 

 

 

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