香港民主化運動の裏にあるかもしれないもの
若者を中心とした、しかし、若者だけに限らない香港市民による民主化運動のデモの収束が見えない。私は世界が民主化されればいいと願うものなので、香港市民の民主化を求めるデモを強く支持している。少なくとも、香港返還時に英国と、そして結果的には世界と中国政府が結んだ一国二制度の契約が維持されることを願っている。
他方、続くデモの様子を見ながら、当初は想定しなかった思いも去来する。いくつかそんな思いをブログにメモ書きしておきたい。残念ながら、話はそう思ったというくらいで、情報的な裏付けはない。強く主張したいものでも、新しい陰謀論のようなものを考え出したいわけではない。あくまで印象であり、感想である。
まず、一部で主張されている、ということもないか、中国政府自身も報道官を通して主張している、米国、特にCIAの関与だが、私はそれはただのよくある陰謀論的妄想だろうと思う。もちろん過去にはイランコントラの例もあり、CIAが清廉潔白な組織だとも思わないが、CIAなどが香港で活動していても基本的な情報収集機関としての活動だろう。なにより、現下流布されている米国陰謀論の筋書きにそった意味では、香港の政治を米国が直接操作するメリットが米国にあるのかすら疑わしい。
しかし、香港が市民デモで揺れていることに米国のメリットがまったくないわけではないかもしれない。いわゆる現下のCIA陰謀論者とは違った意味で、米国の関与の目的としてなんとなく思うことがある。
現状、中国政府が米国との関係で問題としているのは、貿易摩擦である。具体的には、米国による関税の引き上げにどう対応するか(米国側としてはそれに対応した問題もある)、という枠組みで見たとき、香港の意味合いが変わる。
基本は、香港返還時に関連して米国で制定された、米国香港政策法(United States–Hong Kong Policy Act)である。というか、むしろ、香港の一国二制度の実態は米国香港政策法だと言ってもよい(ちなみに台湾に対しては台湾関連法がある)。この法によって、香港のビザの発行や関税が取り決めされている。
実はこれは、中国政府にとっても都合のよいループホールになっている。通常の対中国向けの関税措置がここだけ別扱いになっているからである。
このループホールとしての香港の意味、つまり、中国政府における意味というのは、当然ながら、通常ではない手法で富が流れ込む入り口であり、また蓄財にも都合のよい環境である。おそらく香港は中国本土の権力層の資金源になっているだろう。その実態は、パナマ文書で伺える面があるとしても、よくわからないので、陰謀論のようだが、それでも中国権力層にとってのこのループホールとしての香港のメリットは確実だろう。他方ここは米国にとっても意地悪のしがいがある。
と、考えていて奇妙なことを思いついた。
中国の、もはや独裁的な権力を掌握しつつある習近平の金づるである。これが香港ではなかったか?
気になってざっとネットの情報をあたってみるが、こうした情報で確かなソースは、当然ながら得られない。それでも自分の記憶に引っかかっていたものに近い話が雑誌SAPIOの2012年8月1・8日号に掲載されていた。まあ、こんなのは右派雑誌の情報自体陰謀論に等しいかもしれないが、手頃な情報がないので、参考までに引用しておく。『中国の次期最高指導者・習近平ファミリーの総資産は420億円』より。
習近平には姉が2人おり、長女夫妻は複数の会社を経営し、北京や深セン、香港を拠点に不動産関連を中心としたビジネスを展開。次女夫妻はカナダに居住しカナダ国籍も取得していながら、中国の国内事業に出資して巨利を得ているという。また、習近平の弟・習遠平は中国に返還される前から香港に移住しており、北京に本部を置く国際環境団体の会長に就任している。だが、それは多分に名誉職的な肩書で、その行動には謎が多い。
彼らは「次期最高指導者」である習近平のファミリーとして、さまざまなコネクションを使いながら手広くビジネスをしていることが分かっている。これまでその実態は闇に包まれてきたが、最近、金融・経済情報専門通信社「ブルームバーグ」や香港メディアなどが報じた情報を総合すると、習近平ファミリーの総資産は少なくとも420億円を下らないことが分かってきている。
不確かな情報だが、この次元での報道を否定するカウンターの情報も見つからなかった。
習近平のファミリーの蓄財に香港がどれだけ関与しているかは不明だが、まったく関与ないわけもないだろうし、むしろ、こうした話からそれなりに確からしく伺えることは、習近平と限らず中国の権力層が香港政策法というループホールを使って、権力維持のための蓄財を行っていることだ。
これを現下の香港デモと重ねると奇妙な、困惑させるような図柄が浮かび上がる。
端的に思うのだが、香港デモの本質は、香港市民による民主化であることは疑えないとしても、このいわば動乱には、中国権力中枢の、しかも金銭に関わる権力闘争が重ねられているのではないという疑念がある。
8月上旬の、中国権力者の密室会議である北戴河会議での実質的な問題は、中国権力層の一部の資金源を支えている香港という金の卵を産む雌鳥の扱いではなかったか。
この図柄が奇妙なのは、香港を金の卵を産む雌鳥としている権力層の一部にとっては、香港の一国二制度の維持のほうが好ましい。それを仮に陰謀論的に翻案すら、むしろ香港の民主化デモを苦々しく思っているのは、習近平を含め、香港を蓄財拠点とする権力層ではないのか。
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