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2019.08.28

国際英語としてのグロービッシュ(Globish)

 令和時代となり新天皇の活躍が報じられるなかで、彼の英語スピーチを聞く機会が増えた。天皇が英語を自然に使いこなすのは素晴らしことだと思うので、些細なことではあると思うが、その発音は、見事なまでにジャパニーズ・イングリッシュだった。皮肉ではなく、見事なまでに日本人の英語という発音である。むしろ、彼の発音をもとに日本政府が、ジャパニーズ・イングリッシュとして規定したらどうかと思った。安倍首相や河野外相の英語なども総じて、ジャパニーズ・イングリッシュでもあるし。
 繰り返すが、アイロニーとして言っているのではない。日本人の英語としてここまでは許容といういう規定を決めておけば、英語学習者にはむしろ便利だろうと思うのである。
 具体的に私が試案でも書いてみようかと思い、いくつかメモをとっているうちに、国際英語としてのグロービッシュ(Globish)のことを思い出した。なお、ここでいうの「グロービッシュ」はフランス人実業家ジャン=ポール・ネリエール(Jean-Paul Nerrière)が提唱したそれである。「グロービッシュ」という言葉自体は、単にグローバル・イングリッシュの略称であったり、特殊な人工言語であったりもする。
 ネリエール自身がグロービッシュを語る動画はYouTubeなどにもあるので、聞いてみるとわかるが、かなりのフランス語アクセントである。Rの音などもかなりフランス語のRを使っている。おそらく、グロービッシュの普及のために、あえてわざとこういう極端な発音をしているのではないかとも思うが、それでいて、英語として聞き取れるし、むしろ日本人にとっては聞き取りやすい。これは、いい。
 グロービッシュを基準にジャパニーズ・イングリッシュを規定したらいいのではないかと思い直し、むしろ、普通に日本人のグロービッシュでいいんじゃないかとも思うようになり、ネリエールの著書『Globish the World Over 』を読んでみた。なお、同書の編集・対訳は『世界のグロービッシュ ─1500語で通じる驚異の英語術』にもある。

  

 グロービッシュを見つめ直して改めて知ったことがある。①それなりによく出来ていることだ。それと私が無知だったのだが、②日本の実業界などではすでにネリエールのグロービッシュは話題になっていたことだ。
 よく出来ていると関心したのは、私がいつも気になることだが、正書法と発音である。なにしろ、英語という言語は正書法がなく、スペリングと発音は英米人が困惑するほどめちゃくちゃである。ただ、スペリングと発音が結びつかないので、英語と米語の差が隠されているというメリットもある。
 グロービッシュでは、驚いたことに、正書法と発音を問題視していなかった。正書法については、端から諦められていた。スペリングと発音の関係はそもそもめちゃくちゃというのが前提になっていたのである。では、発音はというと、実際のところ、強勢シラブルの弁別性だけでいいとしているのである。つまり、それ以外のシラブルの母音はシュワ(あいまい母音)でもかまわないとしている。この割り切り方はすごいなと感心した。
 なぜここまで割り切れるかというと、語彙が1500に制限されていることもあるだろう。特殊な語の発音などそもそも気にしなくていいし、スペリングのシステムがめちゃくちゃでも1500語に限定されているなら、それで済む話である。
 調べてみると、この1500語は、VOAの基本語1500語を応用したようだ。ある意味、ビジネスの実用でVOA語彙を改定した形になっている。ただ、機能の点では大きな違いも出てくる。VOAはそもそも、非民主主義国向けのプロパガンダであり、情報を効率よく伝えることが主眼なので、語彙統制されている。つまり、米国の情報を伝えるための言語規制である。が、グロービッシュはビジネス・コミュニケーション用なので、相手が語彙制限をしてくれるとは限らない。
 この点について、なるほど思ったのだが、グロービッシュはそもそも英米ネイティブ・スピーカーが英語非ネイティブと対話するときの心得としても規定されていることだった。
 また単純な話、英語学習の視点で見るなら、グロービッシュを学んでもTOEICの得点は700点くらいで頭打ちだろう。
 それで思い出したが、私は大学院で、升川潔教授や吉沢美穂教授から直接、BASIC EnglishやGDM(Graded Direct Method)を学んだことがある。升川先生から将来Charles Kay Ogdenの研究でもしないかと、冗談もあっただろうが、勧められたことが懐かしい。ただ、当時も今も、BASIC Englishには懐疑的である。850語に制限されたこの言語体系はあまりに不自然だし、現代からして見ると、奇妙な英国英語にしか聞こえないだろう。
 グロービッシュについても、BASIC Englishの二倍拡張くらいにしか思っていなかった。が、このくらいまで拡張すると不自然さはだいぶ緩和されるものだと思い直した。
 このところ、フランス語やイタリア語など学びつつ思うのは、言語学習は150語、300語、800語、2000語、4000語、8000語、という、ある段階がありそうなことだ。300語あたりで、ツーリストの外国語となり、2000語でとりあえずコミュニケーション可能(つまり移民)。4000語でその言語での高校生可能くらいだろう(つまり移民の子供)。
 実はこの間、先日も書いたが、インターリングワも見直していていて、これが実質2000語で成り立つことがわかってきた。そのあたりの語彙制限から、インターリングワとグロービッシュのつながりもできそうに思える。
 ただし、と思う。グロービッシュの最大の問題は、基本動詞ではないだろうか。グロービッシュは文法が時制など簡略化されているのだが、基本動詞のコロケーションが上手に規制されていない。
 グロービッシュは、外国人にはわかりにくい特異なコロケーションを使わないことが規定されている。"it rains cats and dogs"とかはダメだろう。余談だが、イタリア語では”piovono gatti e cani”と言う。イタリア人にそれって英語からか聞いたら、わからないけど、イタリア語では言うとのこと。
 話戻して、make up one's mind to とか take place はグロービッシュではどうなるか? グロービッシュの文献を読んでいると、これらのコロケーションは普通に使われていた。
 まいったな。これだと、コロケーションの規定はないに等しいので、"You should turn yourself in."とか、"I don't make out with your boyfriend."とかも言えちゃう。言わないだろうけど。
 ロマンス系の言語だと、基本動詞の意味はかなり明確になっているが、英語の基本単語はそれ自体はあまり明確な意味がなく、前置詞と組み合わさって意味になることが多い。このあたり、グロービッシュの規定は明確ではないようだ。
 とはいえ、そんなところまで規定すると、かえって使いにくいということになるのかもしれないが。
 いずれにせよ、グロービッシュを学ぶのであれば、①すでに英語がそれなりできる人がリライト指針に使うか、②基本動詞のコロケーションを整理して学ぶか、ということになりそうだ。まあ、基本、高校入試レベルのコロケーションでいいのではないかとは思うが。

 

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