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2019.08.27

[書評] なぜ、男子は突然、草食化したのか――統計データが解き明かす日本の変化

 本書のタイトル『なぜ、男子は突然、草食化したのか』というのは、気になる問いかけだ。草食化というのは、恋愛に淡白ということである。異性と付き合うために一生懸命活動するということの反対。つまり、異性の肉体を求めているという比喩での肉食の対比である、はずだ……。

 

 たしかに、私のような昭和の人間からすると、近年、男子が女子を口説き落とそうと必死になるというのはなくなったものだなと思う。この問いは、私の実感としてある。そこで、なぜだろうと思う。私の印象で言うなら、いやいや、今日はその話は控えておくとしてだ、それをタイトルにもってくる本書はどう答えているのか。しかも、その答えは、印象といったものではなく、副題にあるように「統計データが解き明かす日本の変化」である。統計、つまり、ファクトは何を語っているのか?
 著者は、自身を「統計探偵」とする。統計から、各種の謎解きをする探偵になるというのだ。実際、著者はその筋の専門といっていいだろう。だから本書で扱われている統計は、ネットのアンケート調査とかいう類ではない。さてでは、なぜ、男子は突然、草食化したのか?
 統計を扱うのだから、「草食化」を数値化を含めて定義する必要がある。だが、本書ではとりわけそうした定義はしていない。代わりに、新入社員に向けて、生きがいを問うときの回答から、「親しい異性といるとき」に着目する。なるほど、一般的にではあるが、これから恋愛から結婚という人生の難関の前に立つのが新入社員である。では、その統計は見る。すると、1998年から、「親しい異性といるとき」が生きがいという新入社員は急減している。
 その時代を知る者にしてみると、バブル崩壊から金融破綻が連想される。自殺者が3万人台になったものこの年だ(ちなみに本書にはないが、自殺者は安倍政権以降減少している)。それが、男子の草食化の原因なのか?
 統計を眺めていくと、そうした社会の落ち込み自体は徐々に回復するのに、男子の草食化は止まらない。しかも女子も同傾向を示している。原因は社会構造といったものではなく、他にあるのではないか?
 著者が次に着目するのは、肉食である。たんぱく質摂取。なんかの悪い冗談かと思えるが、たんぱく質摂取の統計値のグラフは、先の草食化の統計値のグラフと同型と言っていい。まさか。肉を食わずに草食化したから、恋愛も草食化しただと?
 当然、こう考えが浮かぶ。①偶然、②疑似相関、③因果関係が逆。
 著者はそれを踏まえて、栄養摂取の統計を吟味していく。答えは……、それは本書に。
 とまあ、そういう趣向の本だ。昔読んだ、『やばい経済学』系の本かあ、と、エンタテインメント気分で読んでいくのだが、なんだろう、迷宮に囚われた気分になる。どこかに出口があるはずだと思っていたのに、違うなあという感じだ。その感じがよく出ているのは、第10章『貧しい時代の代名詞、「エンゲル係数」がなぜ今上昇?』だろう。
 最近は見かけなくなったが、昨年くらいまでだろうか、安倍政権批判な人から、日本のエンゲル係数が上がっているのは、アベ政治が間違っているのだというネタが上がった。実は、そうとも言えないというのが関係分野の識者の共通理解でもあった。さて、統計的に見るとどうなのだろうか? 本書の推論は、私にはちょっと驚きだった。「すなわち、パソコンや携帯電話が普及した時期に、本来上がるべきエンゲル係数がむしろ下がっていたので、それが生活水準の上昇が継続しているという錯覚を生じさせることにより、その結果、最近のエンゲル係数の上昇が突然生じた現象に見えることになったと捉えることができる」。つまり、通信費用のために食費を切り詰めていたのが開放された反動だというのだ。そうなのか? 実は断定はされていない。国際的にも同傾向も見られる。ただ、エンゲル係数の上昇がイコール政治の失敗とは言えなさそうだ。
 その他の話題も面白い。例えば、「日本人は困っている人に冷淡なのか?」がある。これもネットで話題になったものだったな。で、統計的に考えられるのは、どういうことか。うーむ、なるほどな。曰く、「この調査で日本人が最も低い数値であるのも、日本人が人助けしない冷たい国民だからなのではなく、じつは、助けなければならない相手が周囲に少ない理想的な社会だと理解することが可能だろう」ということ。だとすると、政治批判や社会批判のネタには使えない。
 政治や社会批判のネタ的な話題でいうと、第20章『長時間労働は減っているのに、過労死が注目されるのはなぜ?』も興味深い。まず、前提として、「長時間労働は減っている」のがファクトだ。では、過労死が注目されるのはなぜ? 本書は統計から仕事のストレスに注目していく。そして、こう言う。「したがって、過労死対策についても単に長時間労働を減らせばよいというものではない。過労死対策は、パワハラなど職場の人間関係、あるいは非正規化や顧客重視にもとづくストレス増大への対策も含めた総合的なものでなくてはならない」。
 たぶん、そうだろう。そして、内閣府もそう考えているのではないだろうか。私は最近思うのだが、政治批判として取り上げられているネットの話題が、なんとも昭和臭いのだ。人々が高齢化して政治意識・政治批判意識が保守化しているのではないか。なのに、日本社会の実態はそうした古臭い批判像とは、かなり異なっているのではないかと思う。

 

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