いくつかの報道に触れ、これは、もしかすると、韓国の幼年期の終わりとでもいうべきものかもしれないと、少し思ったことがある。話は少し回りくどくなる。きっかけは、この朝日新聞の報道である。
米軍駐留費「日本は5倍負担を」 ボルトン氏が来日時に
土佐茂生=ワシントン、牧野愛博 2019年7月31日14時00分
トランプ米政権のボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)が先週、日本を訪問した際に、在日米軍の日本側負担について、現状の5倍となる巨額の支払いを求める可能性があることを伝えていたことがわかった。米政府関係者が朝日新聞の取材に明らかにした。同盟国の負担増が持論のトランプ大統領による交渉前の「言い値」とみられるが、日米同盟に悪影響を及ぼす可能性がある。
ボルトン氏は国家安全保障会議(NSC)のポッティンジャー・アジア上級部長とともに、7月21、22日に来日し、河野太郎外相や谷内正太郎国家安全保障局長と会談。朝日新聞の取材に応じた米政府関係者によると、この際に日本側に増額を要求したという。
「思いやり予算」と呼ばれる在日米軍駐留経費の日本側負担は2016~20年度の5年間で総額9465億円に及ぶ。現在の協定はオバマ政権時に結んだもので、2021年3月末に期限を迎える。新たな協定を結ぶ日米の交渉は来年から本格化する見通しだ。
この報道だが、魚拓に残されている、この14時版の他に、現時点で朝日新聞のサイトで閲覧できる、後版がある。
米軍駐留費「日本は5倍負担を」 ボルトン氏が来日時に
土佐茂生=ワシントン、編集委員・牧野愛博 2019年7月31日21時15分
トランプ米政権が、在日米軍駐留経費の日本側負担について、大幅な増額を日本政府に求めていたことがわかった。各国と結ぶ同盟のコストを米国ばかりが負担しているのは不公平だと訴えるトランプ大統領の意向に基づくとみられる。来年にも始まる経費負担をめぐる日米交渉は、同盟関係を不安定にさせかねない厳しいものになりそうだ。
複数の米政府関係者によると、ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)が7月21、22日に来日し、谷内正太郎国家安全保障局長らと会談した際に要求したという。今後の交渉で求める可能性がある増額の規模として日本側に示した数字について、関係者の一人は「5倍」、別の関係者は「3倍以上」と述べた。ただ、交渉前の「言い値」の可能性もある。
米メディアは3月、トランプ政権が駐留経費の総額にその5割以上を加えた額の支払いを同盟国に求めることを検討していると報道。現在の5~6倍に当たる額を要求される国も出てくるとしていた。
前版の報道が誤報だとまでは言えないだろうが、この前版の「ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)が〜わかった」は、後版では「トランプ米政権が〜わかった」に変更されている。また、前版の「米政府関係者が朝日新聞の取材に明らかにした」というのは、朝日新聞のスクープネタの含みが感じられるが、それは後版にはない。さらに、前版は「5倍」のみだが、後版では「3倍以上」が付加されている。これらが暗示するのは、朝日新聞が裏取りせずに、またおっちょこちょい報道をやってしまったかなという印象である。
さて、重要なのは、報道の要点だが、米政権が米軍駐留費の5倍負担を伝えたのかという事実関係にある。
この点については、7月31日の菅義偉官房長官による記者会見で日本テレビ記者から問われ、「そのような事実はありません」と簡素に否定されている。いくつか別質問後、朝日新聞記者が同趣旨の質問を繰り返したが、「同盟の強化について一般的なのやりとりはあったということですが、それ以上は控えます」との回答だった。朝日新聞の報道は政府側からは否定された。
時事はこう伝えている。
「思いやり予算5倍」報道否定=菅官房長官
菅義偉官房長官は31日の記者会見で、米国が在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算)を5倍にするよう要求したとの朝日新聞の報道について「そのような事実はない」と否定した。菅氏は駐留経費負担に関し「日米両政府の合意に基づき適切に分担されている」との認識を改めて示した。
朝日新聞は、ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)が21、22両日に来日した際、河野太郎外相らに増額を求めたと報じた。
朝日新聞以外からは同種の報道はなく、時事としても、この話題が朝日新聞だけに留まっている点を実際上、強調している。
以上の経緯からすると、また朝日新聞の誤報であった可能性は高いだろう。
ただし、単に朝日新聞の誤報というにとどまらす、不可解な点が2点あった。というか、そのあたりで考えこまされた。
まず、朝日新聞は《交渉前の「言い値」とみられるが》がとしているが、いくら言い値であってもさすがに5倍というのは、非常識だと記者は思わなかったのだろうか? 普通なら、え?冗談でしょ、と問い返せば、ジョークという答えが出てくるかもしれない、とは想像しなかったのだろうか。普通に考えると、朝日新聞は大丈夫なのかと少し危惧される。
もう一点は、同じ話が前日、韓国での報道にもあったことだ。中央日報より。
「ボルトン氏の訪韓目的は防衛費、5倍をはるかに超える50億ドル要求」
2019年07月30日06時57分
米国が次期韓米防衛費分担金特別協定(SMA)として韓国に要求する防衛費分担金総額を50億ドル(約5400億円)に決めたとワシントンの外交・安保消息筋が29日、明らかにした。
この消息筋は米政府関係者の伝言として「防衛費分担金総額に関連し、ホワイトハウスで内部的に50億ドルを暫定的に用意した」とし「国務省が開発した『新たな計算法』に従うもので、『金額は調整不可(non negotiable)』という言葉もあった」と伝えた。『調整不可』という表現はそれだけトランプ大統領の意志が強く反映されているという意味とも取れる。トランプ大統領はこれまで、同盟国に防衛費分担金の引き上げをちらつかせながら圧迫してきた。今年4月、ウィスコンシン州グリーンベイの遊説演説で「我々が50億ドルを与えながら防御している金持ち国がある。その国は5億ドルだけしか出さない。国の名前には言及しないが、電話一本で今年5億ドルをさらに出させるようにした」と言及したことがある。第10回分担金協定仮署名の2日後である今年2月12日、ホワイトハウスで「韓国に5億ドルをさらに出させるようにした」という主張の反復だった。したがって50億ドルはトランプ大統領が言及した該当金額を具体化したものだとみられる。
話が朝日新聞報道と似ている。《国の名前には言及しないが》といった話に、もしかすると朝日新聞が慌てて食いついたのかもしれない。
なお、この中央日報の報道内容も韓国外相は否定している。
ではこれも誤報の類かというと、韓国での文脈は日本とは異なる。8月には米国マーク・エスパー国防長官が訪韓し、防衛費分担金問題が議論される可能性が高い。真偽は月末くらいには判明するだろう。
話を冒頭に戻し、このあたりで、韓国の幼年期の終わり、ということを思った。これにはもう一つ。象徴的ことがある。トランプ米大統領のこのツイートである。
The WTO is BROKEN when the world’s RICHEST countries claim to be developing countries to avoid WTO rules and get special treatment. NO more!!! Today I directed the U.S. Trade Representative to take action so that countries stop CHEATING the system at the expense of the USA!
午前3:29 · 2019年7月27日
(世界の最も裕福な国がWTOの規則を回避して、特別待遇を受ける途上国なのだと言い立てるのだから、WTOは壊れている。こりごりだ!!! 今日私は、米国を犠牲にしてまで、国々がこの制度のインチキするのを止めさせるよう、合衆国通商代表部に対応策をとれと指示した。)
具体的にそれらの国々はどこか?
米政権は、7月26日、”Memorandum on Reforming Developing-Country Status in the World Trade Organization”(世界貿易機関における発展途上国の地位改革に関する覚書)を発表し、そのなかで、次の国々が名指しされている。
While some developing-country designations are proper, many are patently unsupportable in light of current economic circumstances. For example, 7 out of the 10 wealthiest economies in the world as measured by Gross Domestic Product per capita on a purchasing-power parity basis — Brunei, Hong Kong, Kuwait, Macao, Qatar, Singapore, and the United Arab Emirates — currently claim developing-country status. Mexico, South Korea, and Turkey — members of both the G20 and the Organization for Economic Cooperation and Development (OECD) — also claim this status.
(開発途上国の指定が適切な国もあるが、多くは現在の経済状況に照らして明らかに支持できない。例えば、購買力平価ベースで一人当たり国内総生産で測った、世界で最も裕福な10カ国のうち7カ国 (ブルネイ、香港、クウェート、マカオ、カタール、シンガポール、アラブ首長国連邦) が、現在開発途上国の地位を言い立てている。G20と経済協力開発機構(OECD)のメンバーであるメキシコ、韓国、トルコもそう言い立てている。)
トランプ米大統領によれば、WTOでインチキやってる国々の代表は、メキシコ、韓国、トルコである。
韓国は現状、WTOでは途上国の地位で優遇されている。米国はこれを止めさせようとしている。韓国がこの優遇を失うことは、韓国経済への影響力から見れば、日本が韓国のホワイト国認定を外すどころではないだろう。
おそらく、韓国は、今後、米国による防衛費負担が増え、途上国優遇措置からも外されるだろう。
韓国は、日本をかまっている場合ではないからこそ、だから日本問題に逃避してるのかもしれない。
でも、それも終わるだろう。幼年期の終わりが来るのだ。
まあ、日本の場合も、WTOの途上国待遇は関係ないが、米軍への負担は増えるだろうし、同じく幼年期の終わりとなるだろう。平和(pac)を授けて(pacifyして)くれたpacifierを終える時になるのだろう。