出生前検査についての情報提供はナッジ的に見るとどうなんだろうか?
若い頃、障害児の問題に取り組んでいたこともあるし、自著のほうには書いたが自身4人の子供の父親でもあり、出生前検査については、それなりに知っていたつもりだったのだったのが、意外な盲点だった。というか我ながら、無知だった。NHKハートネット『【特集】出生前検査(1)求められる情報提供のあり方』を見ていたら、《日本産科婦人科学会の指針には「医師が積極的に知らせる必要はない」と書かれているのです》ということだった。え? と、驚いてしまったのである。
というのは、日本産婦人科学会は昨年、「出生前に行われる遺伝学的検査および診断に関する見解」を改定し、この改定でそうした情報提供も含まれているのだと思っていた。この機に改めて、改定を読み返してみると、こうある。
なお母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査の実施にあたっては「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に関する指針」日本産科婦人科学会[5]を遵守して実施する.
この[5]の注を見ると、明記されていた。
[5]「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に関する指針」日本産科婦人科学会と「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に関する共同声明」日本医師会・日本医学会・日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会・日本人類遺伝学会 2013(平成25)年3月9日
つまり、この部分については昨年の改定での変更はなかったのだった。てっきり改定されたと思っていた。
だが、この部分の解説を読むと、
(解説)
・母体血液中に存在する胎児DNA を用いて胎児が染色体異常に罹患している可能性を従来よりも高い精度で推定する検査が実施されている[6].こうした母体血液中に存在する胎児・胎盤由来細胞やDNA/RNA 等による遺伝学的検査については検体採取の簡便さから安易に実施される可能性があるので,検査の限界,結果の遺伝学的意義について検査前の時点から十分な情報提供が遺伝カウンセリングとして実施され,検査を受ける夫婦がこれらの内容を十分理解し,同意が得られた場合に実施する.
またこの検査の提供にあたっては,表1の各号のいずれかに該当し,かつ検査対象となる疾患に関してこの検査の診断意義があることを前提とした上で検査を希望する妊婦に個別に遺伝カウンセリングが行われ,提供すべきであり,決して全妊婦を対象としたマス・スクリーニング検査として提供してはならない.
・マイクロアレイ染色体検査法(アレイCGH法,SNP アレイ法等)や全ゲノムを対象とした網羅的な分子遺伝学的解析・検査手法を用いた診断については得られる結果が臨床医学的にも遺伝医学的にもまだ明確でない遺伝医学的情報が多く,さらに結果が示す情報は多種多様であり,その意義づけや解釈が難しいことも多く含まれることから検査前・検査後に専門的な遺伝カウンセリングの場で適切な情報提供,説明が行われる必要がある.
ここから、従来通りに「医師が積極的に知らせる必要はない」という前提を読み取ることは、実際にはかなり難しいようにも思える。
いずれにせよ、「日本医学会によって全国で92の病院が、この検査の実施施設として認定されています。検査は、高年齢での妊娠など、一定の条件を満たした人のみが対象です(NHK)」というのに、実際には、高年齢での妊婦には、「新型出生前検査(NIPT)」の情報が知らされていない現状がある。
この問題については、該当のNHKの番組が詳しく取り上げているので、関心がある人はそちらを読んでもらうほうがいい。医学的にも、倫理的にも、いちブロガーが言及できることはない。
だが、視点を変えて、これを「ナッジ」として見た場合はどうなのかは、ブロガー以前に市民として考えさせられた。
「ナッジ」については、以前にもこのブログで扱っているので、それ自体にはここでは触れないが、最近では、省庁でも取り組みが始まっている。経産省でも、「エネルギーや中小企業施策などの分野で具体的なナッジプロジェクトを組成・推進します」として推進された。厚労省でも『明日から使えるナッジ理論』という冊子を公開している。
そこで問題は、つまり、出生前検査についての情報提供はナッジ的に見るとどうなんだろうか?ということだ。
非選択による本人のメリットがあるのだろうか? 考えてみるのだが、わからない。
むしろ、逆に、この問題をナッジの視点で考えたら、どうあるべきなのだろうか?
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