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2019.07.07

BBCドラマ アガサ・クリスティ原作『無実はさいなむ』

 2018年にBBCがドラマ化した、アガサ・クリスティの『無実はさいなむ』をNHKで見た。三回シリーズだった。つなげると3時間弱というところ、毎週見てもいいと思ったが、まとめて、午前中に二回分見て、夕方最終回を見た。まあ、文句なく面白いと言っていいだろう。久しぶりに、英国風悪趣味とはこれだったなという極上の気持ち悪さが堪能できた。もちろん、映像、演技、言うことなし。
 でも、文句を言う向きもあるだろう。原作と違うのだ。原作派としては、まあ、文句もあろうだろうが、今回のBBCリメークはそもそも、古典で事実上ネタバレしているのに、原作忠実ってどうよ、が原点だし、見ている側としても、どこをどうひねるんだ、XXXは犯人じゃあないよな、今回。ということで、僕は二回目を見終えた時点で、「新」犯人を当てました。満足です。っていうか、緻密に作られていて、それ以外、犯人ないじゃん、というか、逆に原作がなぜああいう犯人だったのか不思議に思える。
 物語は、釣りだと。

1954年のクリスマス・イブの夜に資産家で慈善家の女性レイチェルが自宅で撲殺され、彼女と夫レオが養子に迎えていた子ども5人のうちの1人、ジャックが犯人として逮捕される。ジャックは無実を訴え、犯行時刻のアリバイがあると父レオに告げる。通りがかった男性の車に乗せてもらっていたというのだ。しかし、ジャックは裁判を待たずに、獄中でのほかの囚人とのケンカにより命を落とす。1年半後、レオは秘書との再婚を決め、家族は結婚式に向け準備をしていた。だがそこに、事件の夜にジャックを車に乗せたという男が現れる!

 そこまではごく普通。
 今回のBBCリメークも、時代的な批評性があって面白かった。冷戦や朝鮮戦争の課題を上手に取り上げていた(吹き替えだとちょっとボケていたが)。あのあたり、あの時代を知っている人にとっては、ぐっとくるものがある。
 で、総じて、趣味の悪い作品で、面白いけど、名作とは言えないよねと思っていた。が、一晩経って考え直すとそうでもなかった。
 これは、極めてフェミニズムの作品だったと思う。ネタバレにならないようにするが、主人公は、レイチェル・アーガイルだったと思う。地位も金もあるが子供がなく社会意識も愛情もある一人の女性が、地位も金もなく女性であるがゆえの苦悩に追い立てられるカーステン・リンツトロムとの連帯の物語だった。
 養子の子どもたちも母を憎んでいたし、それが悪趣味な趣向で推理小説になっていくのだが、最後は二人の女性の生き方に気がつく。
 そう考えてみると、最後は、胸糞悪い悪趣味ではなく、爽快な仕上げになっていたとも言えるだろう。

 

 

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