嘘情報をどうやって根絶するか
嘘情報というのをどうやって根絶したらいいものか。と、考えて無理なんじゃないかという気にはなる。で、終わりかというと、そうもいかない。もにょるわけだが、もにょっていてもしかたないので、一つ具体的に考えてみる。
例えば、こんなグラフをツイッターで見かけた。結論から先に言うことになるが、これは嘘くさいので、これがベタにコピペされる危険を避けるために、画像にでっかく手書きでクエスチョン・マークを付けておいた。これがまったくの嘘だと確認したかったのだが、完全に嘘とまではできなかった。
グラフの意味は、年齢変化による、男性と女性の性欲の差というものだ。意味するところは、30歳までは男性ほうが性欲が強いが、以降は50歳までは女性のほうが性欲が強いというのだ。
最初にこれを見かけたときの印象は、「なんだこれ?」というものだった。なにが変かといえば、縦軸に暗示されている性欲の強さに単位指標がない。そもそもグラフになっていない。というか、グラフにもなっていないものがなぜ流布さているのか?
次に思ったのは、当然だが、「出典はなんだ?」である。まず、こうは言える。
出典が明記されていない情報はそれ自体が疑わしい。
どこかに出典がありそうなので、「出典はなんだ?」とツイートしたら、わかった。『話を聞かない男、地図が読めない女』 である。2000年に出て話題になったおり、私も一読したはずなのだが、ざっと読んで放り出した。典型的なニセ科学だと思ったからである。
出典が気になって改めて同書を見ると、このグラフと同じグラフに「(出典:ピーズ国際研究所)」と明記さている。この研究所についてはすぐにわかった。同書の著者である。アラン ピーズとバーバラ ピーズの私的な研究機関である。
さらに気になったので、原典の”Why Men Don't Listen and Women Can't Read Maps”も確認したら、同グラフのページには、出典の明記すらなかった。翻訳本の「(出典:ピーズ国際研究所)」は日本版の編集で追加したものだろう。
原典の該当部分を読んでみたのだが、やはり典拠となる論文はわからなかった。性ホルモン・レベルの推移などから合成したピーズ国際研究所の独自研究ではないだろうか。ついで別途そうした医学論文があるのかざっとあたってみたのだが、同グラフを示唆するような研究はなかった。そもそも「性欲の強さ」を男女総合する指標が学問的に定義できるかすら疑わしい。
それと、原典を読んでみて思ったのだが、このグラフは、研究結果があってグラフになりそれを読み解く、というものでは、どうやらなくて、30歳以降から50歳までは女性の性欲が高いという説明を視覚化するための解説図っぽい。そもそも研究結果ではないっぽい。
と、いうことなのだが、最終的にこの図が全面的に嘘だとまでは、現状言い切れない。ただ、『話を聞かない男、地図が読めない女』 は概ね、ニセ科学の典型と言ってもよさそうではある。
さて、こういうのをどうしたらいいのだろうか。
最近もうひとつ似たようなことを思った。
その話題は、れいの、と言っていいだろう、ケネディ大統領暗殺陰謀論である。最近のNHKの『ダークサイドミステリー「ケネディ暗殺 陰謀論の正体に迫る」』でも扱っていたので、トランプ大統領が2017年10月26日に、ケネディ大統領暗殺事件に関する機密文書の公開を保留を決定して以降の新情報が知りたいと思って、見たのだが、その点では概ね、スカだった。
番組としては、陰謀論全体を終わりにできたらよかったのだろう。そのせいか、1993年の"Case Closed: Lee Harvey Oswald and the Assassination of JFK"の著者ジェラルド・ポスナーを出して、彼の主張にそって、オズワルド単独犯行説以外を陰謀論という主張を強調していた。
まあ、そうできたらよいのだが、ポスナー本以降に明らかになった、CIAダラス支局長J・ウォルトン・ムーアが事件以前にオズワルドと接触があったというあたりの事実は、番組では指摘されたのに、濁されてしまった。ので、陰謀論は根絶されない。
そもそも陰謀論ならすべて誤りかというと、イラン・コントラ事件のような事例もあり、陰謀論というのも個別に見ていかなくてはならないのだろう。
陰謀論とニセ科学は違うが、ニセ科学についても、従来は、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスの交配などはニセ科学にされてきたが、今ではほぼ定説だろう。
エピジェネティクス研究の進展で獲得形質「のようなもの」が世代を超えていくことも解明されつつあるが、これがニセ科学の典型とされてきたルイセンコ学説とどこで一線を引くのか、悲しいかな僕などにはわからない。
そういえば、昔、友人が言ってたが、統計学と占星術は同型かもしれない。統計と占いも同型と言えそうにも思う。まあ、それも極論すぎるのだろうが。
まあ、とりえずもう一つ言えそうなことがある。
疑わしい情報が否定できそうなら、否定の声をネットに上げるべきだろう。
少なくとも、男女の性欲さのグラフのようなものがツイッターとかでリツイートされるようなのはこれで終わりになってほしい。
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