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2019.06.17

昨今の年金問題の発生源を探してみたら、なんだこりゃ案件だった

 6月3日に発表された金融庁審議会の報告書が火元になって、老後の生活費は年金では足りず、老後の30年間のためには各人が二千万円の蓄えが必要だ、という話題になり、国は国民の生活を守らないのかうんぬんプンスカ、という話題になっている。そしてさらに、有識者に報告書作成を依頼する立場の麻生金融担当相が、これじゃ国民に誤解と不安を与えるから報告書を受理しない、とし、なんだその無責任さはプンスカ、という話題にもなった。かくしてネットにはこの話題がいろいろ広がり、まあ、いろいろ意見もあるようだ。
 私としては、19年間近くもブロガーやっているので、さーて、こうした炎上案件では第一次資料を見るかなと、見てみた。『金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書』である。副題は「高齢社会における資産形成・管理」である。発表日は令和元年6月3日である。冒頭はこう。

はじめに
 近年、金融を巡る環境は大きく変化している。例えば、デジタライゼーションの急速な進展により、金融・非金融の垣根を越えて、顧客にとって利便性の高いサービスを提供する者が出現している。こうした者の出現や低金利環境の長期化等の状況と相まって、金融機関は既存のビジネスモデルの変革を強く求められている状況にある。
 こうしたなか、金融を巡る特に大きな背景の変化として挙げられるのが、人口減少・高齢化の進展である。わが国の総人口が減少局面に移行した中、長寿化は年々進行し、「人生 100 年時代」と呼ばれるかつてない高齢社会を迎えようとしている。(中略)政府全体の取組みや議論に相互関連して、高齢社会の金融サービスとはどうあるべきか、真剣な議論が必要な状況であり、個々人においては「人生 100 年時代」に備えた資産形成や管理に取り組んでいくこと、金融サービス提供者においてはこうした社会的変化に適切に対応していくとともに、それに沿った金融商品・金融サービスを提供することがかつてないほど要請されている。

 なんだか無内容なことがたらたらと書かれているようだがそれなりに読んでみると、話題の焦点は「金融サービス提供者」に置かれていることはわかる。
 つまり、ごく簡単にいえば、金持ち老人がもっと金を増やすための金融サービスはどうあるべきか、というのがテーマで、年金だけじゃ暮らしていけないという庶民の関心とはまったく関係なさそうな文書である。

 今回のプンスカ焦点である「年金」を見ていくと、こうある。

 しかし、収入も年金給付に移行するなどで減少しているため、高齢夫婦無職世帯の平均的な姿で見ると、毎月の赤字額は約5万円となっている。この毎月の赤字額は自身が保有する金融資産より補填することとなる。

 これ、現状の「高齢夫婦無職世帯の平均」で見ると、現実、「赤字額は約5万円」で、資産から補填されているという話だ。平均化すると、高齢者は多額の資産をもっていて切り崩している現状があるという話である。今後、年金だけでは生活費が5万円足りなくなるという話ではない。
 実際、平均で見ると、高齢層は資金を持っているという指摘がある。事実であろう。

(前略)65 歳時点における金融資産の平均保有状況は、夫婦世帯、単身男性、単身女性のそれぞれで、2,252 万円、1,552 万円、1,506 万円となっている。

(前略)前述のとおり、夫 65 歳以上、妻 60 歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ 20~30 年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で 1,300 万円~2,000 万円になる。この金額はあくまで平均の不足額から導きだしたものであり、不足額は各々の収入・支出の状況やライフスタイル等によって大きく異なる。

 つまり、「平均」像から見るとそうなるということで、国民の多数がこれに当てはまるかというと、まあ、当てはまらない。あてはまるわけもない。そもそも、この報告書は、そういう目的で書かれたものではない。
 ただ、現在の国民が求めているのは、こんな報告書ではなく、これからの日本国民の多数の老後の生活像だろう。
 その意味でいうなら、これからの日本国民の多数の老後がどうなるのか、ということを議論する審議会を作って、その趣旨の報告書を作れよ、ということなるが、たぶん、それは厚労省の管轄だろう。
 さて、この金融屋のパンフみたいな文書の冒頭を読み返すと、ちょっとひっかかることがあった。これだ。というか冒頭のさっきの続きである。

 このような問題意識の下、金融審議会市場ワーキング・グループにおいて、高齢社会のあるべき金融サービスとは何か、2018 年7月に金融庁が公表した「高齢社会における金融サービスのあり方(中間的なとりまとめ)」を踏まえて、個々人及び金融サービス提供者双方の観点から、2018 年9月から、計 12 回議論を行い、その議論の内容を報告書として今回提言する。(中略)

 というわけで、これ、審議会の議事録が公開されているはずなので、ブロガーらしく一次資料を見に行く。まず、「金融審議会「市場ワーキング・グループ」(第1回)議事録」から。学習院大学の神田秀樹氏が座長。

 本日は初回でございますので、まずこのワーキング・グループについて簡単にご説明をさせていただきたいと思います。このワーキング・グループでございますけれども、本年4月19日に開催されました金融審議会の総会・金融分科会の合同会合におきまして大臣からいただきました諮問を受けて設置されたものでございます。
 お手元に諮問文を配付していると思いますけれども、諮問におきましては次のように述べられております。すなわち、「情報技術の進展その他の市場・取引所を取り巻く環境の変化を踏まえ、経済の持続的な成長及び家計の安定的な資産形成を支えるべく、日本の市場・取引所を巡る諸問題について、幅広く検討を行うこと」でございます。

 これ、どう読んでも、高齢社会とか資産形成というかいうワーキンググループじゃないよな。というか、とっても奇妙な感じがした。どこかで、このワーキンググループの方向性が変わったのだろうかと見ていく。と、あれれ?
 「第12回 平成28年12月20日(火)」と「第13回 平成30年9月21日(金)」に2年近い謎のリープがある。
 というわけで、この第13回の議事録を見る。

 このワーキング・グループでございますけれども、今から2年半ほど前の平成28年4月に麻生金融担当大臣から、「市場・取引所を巡る諸問題に関する検討」という諮問をいただきまして、それを受けて金融審議会のもとに設置されたワーキング・グループであります。平成28年の5月から12回にわたって皆様方からご議論をいただき、また関係者の方からヒアリング等もしながら審議を進めて、顧客本位の業務運営、あるいは取引の高速化等についてご審議をいただきました。平成28年の12月には、約2年弱前ですけれども、報告書を公表いたしました。
 その後、金融庁においては国民の安定的な資産形成に向けた取り組みを進めてきまして、近いところでは本年6月に「投資信託の販売会社における比較可能な共通KPI」を公表するなど、顧客本位の業務運営の定着に向けた施策を進めてきました。このほか本年1月につみたてNISAの導入、それから本年の7月になりますけれども、「高齢社会における金融サービスのあり方」の中間的な取りまとめというものを公表しております。
 そこでこのたび、「高齢社会における金融サービスのあり方」など「国民の安定的な資産形成」を中心に議論をさらに深めるために、このワーキング・グループが再開されることとなった次第です。
 本日は、ワーキング・グループの通算で、第13回目の会合となりますけれども、前回から約1年9カ月ぶりの開催ということになりますので、初めに、事務局である金融庁の遠藤長官からご挨拶をいただきたいと存じます。遠藤長官、よろしくお願いいたします。

 これ、普通に読むと、当初大臣から諮問された報告書は、平成28年12月に公表され、事実上、ワーキンググループは終了している。
 ところが、金融庁の都合で、別の話題である《「高齢社会における金融サービスのあり方」など「国民の安定的な資産形成」を中心》としたなんかを、気ままに、ここにぶち込んできたようだ。
 これって、きちんと、麻生金融担当相の諮問を経ているのか?
 これって、金融庁がこのテーマを作りたくて、既存のワーキンググループに押し込んだんではないのか?
 金融庁の遠藤長官の話もこんな感じだ。

 ご案内のように、我が国では1,800兆円という家計金融資産、この過半が現金・預金ということでございます。過去20年間、その伸びも非常に低い水準になっております。この豊富な資産が有効に運用、活用されているとはとても言い難い状況ではないかと思っております。

 これって、端から、金持ち高齢層に投資をさせようという話だ。金融庁の活躍場を広げるためのもので、そもそもが年金問題なんてこの時点での冒頭にないじゃん。
 ええと、まとめると。
 これ審議会のあり方がそもそもがおかしい。別の話題を、どさくさに既存の審議会に混ぜ込むのではなく、少なくとも、別途専門の審議会を立ち上げて、もっと庶民の年金問題にも配慮できる人選もして、きちんとした議論をすべきであったと思う。

 

 

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