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2019.05.31

国際関係論では学びづらい微妙な部分

 国際関係論を学ぶことの難しさは、例えば、教科書としてよく使われるジョセフ・ナイ『国際紛争 -- 理論と歴史』などからでは学べない、ある微妙な部分にある。ある程度体系的に国際関係論を学んだとしても、そうした体系的ではない、常識に近い部分での重要な知識の欠落が起こりがちになる。多くは同時代的な感覚によるものだとも言えるが、他方、あまりに日常的過ぎてとりわけ語られない部分というものがある。例えば、今回の、トランプ米大統領訪日中のバイデン氏への批判でも気付かされた。
 日本の報道ではあまり注目されなかった。時事は『バイデン氏中傷、批判に反撃=北朝鮮よりソフトと強弁-米大統領』として次ような報道をしていた。

【ワシントン時事】トランプ米大統領は28日のツイッターで、大統領選の民主党公認争いに名乗りを上げたバイデン前副大統領を訪日中に「低IQ(知能指数)」と中傷したことについて、北朝鮮によるバイデン氏批判と比べ表現を弱めたと強弁した。外国での記者会見で政敵攻撃を繰り広げたことに対する批判に反撃した形だが、民主党の反発は必至だ。
 トランプ氏は投稿で「金正恩(朝鮮労働党委員長)は(バイデン氏を)『低IQのばか者』と呼んだが、私はもっとソフトに『低IQの人物』と引用した」と主張。「それなのに誰が憤るというのか」と書き込んだ。

 この報道の記述から、何が問題なのか読み取れるだろうか?
 もちろん、トランプ米大統領によるバイデン前副大統領への批判が好ましくないということは明らかだし、次期大統領選挙での政敵への攻撃がえげつないというのもある。
 BBC報道『バイデン陣営、トランプ氏の中傷は「職の品位にふさわしくない」と批判』はもう少しわかりやすい。

 2020年米大統領選に出馬し、民主党最有力とされるジョー・バイデン前副大統領の陣営は28日、ドナルド・トランプ米大統領が北朝鮮と同調してバイデン氏を中傷したことについて、大統領職の品位にふさわしくないと批判した。
 トランプ大統領は27日、訪問中の東京で記者会見した際、北朝鮮がバイデン氏を「IQの低い人物」と呼んだことについて、自分も同意見だと発言した。トランプ氏は前日にもツイッターで、バイデン氏を北朝鮮が「低脳」と罵倒したことについて自分は「ほほ笑んだ」と書き、歓迎する姿勢を示していた。
 バイデン氏は現在、来年の大統領選でトランプ氏に対抗する民主党候補の最有力と見られている。
 米政界では冷戦時代から、国内でどれほど争っていても米政治家同士がその対立を国外に持ち出してはならないという不文律があったが、トランプ氏はそれを無視した形だ。(後略)

 この報道の論点は、「国内でどれほど争っていても米政治家同士がその対立を国外に持ち出してはならないという不文律」をトランプ米大統領が違反した点にある。「職の品位」というのは、トランプ米大統領が下品だ(これは言うまでもないだろう)ということではなく、外交の基本原理を逸脱した行政府というものの問題なのである。
 そして、この基本原理は、ごく日常的な英語の言い回しのなかに示されていた。それが伺われるのは、BBC報道のオリジナル報道の、次のような慣例的な言い回しに対応している。

During his four-day visit to Japan, Mr Trump disregarded the old Cold War axiom that US politics stop at the water's edge.

 日本語訳ではこうなっていた。違いに注目したい。というか、かなり意訳になっていることがわかる。

米政界では冷戦時代から、国内でどれほど争っていても米政治家同士がその対立を国外に持ち出してはならないという不文律があったが、トランプ氏はそれを無視した形だ。

 重要なのは次の表現である。これが、BBCでは、the old Cold War axiomとなっているが、他報道では、 a cardinal rule of being America's presidentともされている。

US politics stop at the water's edge.

 water's edgeは、水際と訳してよいのだが、実際のイメージとしては、波打ち際である。海に接するところで、米国は国内政治のいざこざを停止せよ、というのだ。これは、大統領を拘束するもので、いわばコモン・ロー的な扱いになっている。
 この慣用句が、その比喩表現において、大きな意味をもつことが明らかになるのは、例えば、ブルームバーグ『Biden Campaign Rips Trump’s Remarks: ‘Beneath the Dignity of the Office’』の次のような表現である。

“To be on foreign soil, on Memorial Day, and to side repeatedly with a murderous dictator against a fellow American and former vice president speaks for itself,” Biden’s deputy campaign manager, Kate Bedingfield, said in a statement, released just as Trump landed on his return from a trip to Japan.

 重要なのは、just as Trump landed on his return というところだ。バイデン側も大統領がbe on foreign soil(外国の土の上)までは沈黙していたが、本国にlandする(陸に降りる)と即座に批判を繰り出した。
 レトリカルな問題のようだが、こうした英語の慣例表現に大統領のあるべきコモン・ロー的な規定が横たわっていると知るのは、ある意味、チャンスであろう。

 

 

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