「バレエ(ballet)」という言葉について
知識にはどこかしら盲点のようなものがつきまとうものだろうと、諦めている。知っているつもりでも、奇妙な抜けがあるのだ。で、「バレエ(ballet)」という言葉について、あれ?と思う抜けがあった。
日本語では、『白鳥の湖』や『くるみ割り人形』の、あの「バレエ」を、「バレエ」と表記する。発音としては、「ばれー」のような語尾が音引きになるか、「ば・れ・え」のように分かれるか。日常会話では判然としない。
似た言葉の「バレーボール」は、「ばれー」と音引きになる。こちらは、英語では、”volleyball”。発音的には、「ゔぁりぼー」のようになる。volleyはテニスの「ボレー」と同じなので、そう考えると、「ボレーボール」としたほうが日本語らしいかもしれない。
英語の"ballet"の発音は最後の"t"の音を発音しない。そのため語末は、"café”のようになるが、英米人は、日本語の「え」やフランス語の[ɛ]のような安定した音が保てないので、/bˈæleɪ/のように語末は二重母音化してしまう。
いずれにせよ、"ballet"という言葉は、フランス語ではあるが、私はちょっとうかつだった。イタリア語の勉強をしていて、ballare(踊る)という単語を見て、あれ、これって、balletの語源じゃないのと気がついたのだ。「踊る」は、「ダンスする」のdanzareもあるので、うっかりしていた。あらためて、ballareとdanzareの意味の違いを調べてみると、あまりないようだ。
こうしてみると、フランス語のballetは、イタリア語のballareと関係しているはずで、もしかして、balloの小さいのとしてのballettoが語源かなと調べてみると、そのとおりで、驚いた。「ちょい踊り」という感じだろうか。
すると、フランス語の"ballet"がイタリア語起源なら、カトリーヌ・ド・メディシスがフランスに持ち込んだものじゃないかと推測して、調べてみると、これが、どんぴしゃりのようで、またびっくりした。
というか回りくどくなったが、Wikipediaにも書いてあることだった。
もともとはイタリア・ルネッサンス時代、詩に合わせて踊った「ちょい踊り」であったものが、ヴァロワ朝からブルボン朝に宮廷舞踊化したのだろう。ルイ14世は自身も踊ったらしい。
とはいえ、現代のバレエはロシアでまとまったものだというのは、知っていた。が、その間はどうだったかここも知識の抜けがあり、調べてみて、へえと思ったのだが、宮廷舞踊的なバレエはフランス革命の影響に乗ってヨーロッパやロシアに広がったものらしい。実際のところ、市民階級が見て楽しむものになったのだろう。
ついでに、「ボールルーム」の"ball"も同じ語源だろうと調べてみると、これもそのとおり。イタリア語以前は当然、ラテン語なのだが、ラテン語もギリシア語からの外来語だったようだ。
ふと、いわゆる「球」の"ball"の起源はどうなんだろうと疑問が浮かぶ。ざっと調べてみると、やはり別系の語源だった。古フランス語から中世英語に入ったというのはいいとして、そのさらなる語源は、ゲルマン語のballazというふうになっていた。この語は、"ballocks"(睾丸)の語源と同じだった。
"Hitler has only got one ball"というときの「きんたま」をballsというのは、たんなる比喩ではなかったのだなと思う。
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