令和は霊和
新元号「令和」の「令」について、「命令」の「令」として捉える人が多いように思えた。確かに辞書などを引くとその意味が最初に来るので自然な理解とも言えるだろう。私のように昭和と平成を同じくらい生きた人だと、この字は、「年齢」の「齢」の代用字として以前使っていたことなども思い出す。戦後、日本はGHQの指導で漢字をできるだけ減らし、また簡易化する流れにあったが、パソコンが普及してからは、漢字利用が盛り返してきた。年齢を示す「歳」の字も、以前は代用字の「才」がよく使われていたものだった。
さて、「令」という漢字自体の意味は何かだが、まず、これは会意字として理解されることが多い。会意というのは、その漢字を構成するパーツが意味を持ちそれを組み合わせたものだ。基本的に、パーツは音声に関係しない。
会意字として「令」は「亼(逆さまの口)」+「卩(人の跪く姿)」として、「逆さまの口がひざまずいた人に話す・お告げを聞くこと」と理解されることが多いようだ。白川静もそれに近い解釈をしているようだ。そして、「お告げ」から、「おふれ」「いましめ」という意味を捉え、さらに「よい」「めでたい」から、使役の「させる」まで関連されているようだ。
私が漢字を考えるときに使う山田勝美他『漢字字源辞典』では、形声字としている。「卩(人の跪く姿)」に「亼」で「キョウ」の音を与えている。意味は、音が担っている。そこで、「教(キョウ)」と「叫(キョウ)」と同じ意味だとしている。同辞典ではこれが「レイ」に音変化したとしている。が、音変化についての詳しい説明はない。
同辞典での「令」の原義だが、「跪伏している者に向かって叫び教える」としている。基本的には、白川静などの解釈と違いはない。
だが、今回の新元号「令」は、「よい」「めでたい」という意味を担っているが、同辞典では、この意味は、「令」の原義からではなく、「靈」(レイ)の借用だとしている。つまり、「令」の字は、音が「キョウ」から「レイ」に変化したので、同音の「靈」の代用として使われるようになったということである。当然、「よい」「めでたい」という意味は、「靈」が担っていたことになる。
「靈」は、「霊」の形で書かれることが多い。日本人は「霊魂」の「霊」を連想しがちだが、「霊物」「霊妙」のように「よし」の意味がある。なお、同辞典には説明がないが、「靈」は音から「零」の同義でもあるので、「令」の音が靈の借字となったことも関連しそうだ。
まとめると、「令和」の「令」は、一種の宛字なので、本字として使うと、「靈和」あるいは、「霊和」というほうが漢字の本来を伝えているだろう。
関連して、中国語での字解を見ていると、「令」の本字を「命」としているものがあったが、先の辞典では、「命」は「令」と同字同義としている。形の違いだが、「令」に意符として「口」が「加えられたにすぎない」とある。とはいえ、「命」は「レイ」の音価から「ベイ」に変わったとある。それ以上の説明は同辞典にはないが、音価が変わった時点で別字として認識されるようになったのではないか。
補足だが、『漢字字源辞典』の考え方は、清朝の朱駿声の『説文通訓定聲』に依拠している。朱駿声は『説文通訓定聲』において、「轉注者、體不改造、引意相受、令長是也」(転注なる者は、体は改造せず、意を引き相ひ受く、令長是なり。)という説明をしている。まさに、「轉注」つまり、借字のもっとも代表的な例として、「令」の字を挙げている。
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